世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
米国のインフレは本当に粘着的か
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2024.07.01
需給ギャップは小幅プラス
6月24日付の「大統領選前の米利下げの公算は低下」というレポートでは,米国のインフレ率の低下がFOMC参加者の従来の見通しより遅れていると述べました。金融市場では,インフレが粘着的との指摘が多いようです。
米議会予算局の推計によれば,今回のインフレ加速局面では,非農業企業部門の需給ギャップは,1970,80年代の高インフレ時のような大幅なプラスにはなっていません。コロナ禍やウクライナ戦争などによる局所的,一時的な供給制約の高まりと,大規模な財政刺激策の発動による需要の急回復が重なったことで,物価が急騰したと考えられます。供給制約が収まると,大幅な需要の減退がなくてもインフレ率はかなり下がりました。
ただ,2022年から23年前半に小幅マイナスに転じた需給ギャップは,2023年に行われた所得税率区分変更が減税効果を持ち,個人消費支出が刺激されたことなどから,再びプラスに転じています。経済が需要超過状態にあれば,インフレ率がこれ以上下がりにくいのは当然です。現在の米国のインフレが,ことさら粘着的ということではないでしょう。
潜在成長率は足元で上昇
したがって,今後のインフレ率は,基本的には経済の需給動向に左右されそうです。非農業企業部門の供給側の潜在成長率は,上記の議会予算局の推計によれば,資本投入や技術進歩を示す全要素生産性の寄与が高まったことで,2021年半ばの前年同期比+2.1%から,今年1-3月期には+2.5%へと上昇しています。今後,需要の成長率が供給側の潜在成長率を下回れば,やがて需要超過状態は解消され,インフレ圧力は徐々に低下するでしょう。
省力化に主眼がある設備投資
資本投入や技術進歩の潜在成長率に対する寄与の高まりは,設備投資の増大によると考えられます。ただ,米国の非住宅投資の内訳を見ると,GDP比で中長期的に上昇しているのは知的財産投資だけであり,それ以外は,中長期的に低下傾向にあります。市場の注目を集めているAI関連投資も,大半は知的財産投資に分類される研究開発やソフトウェアで,ハード面の投資は少ないようです。これまでの人手不足の影響もあり,設備投資の主眼は生産能力拡大より,省力化にあると考えられます。需要が鈍化すると雇用削減が進み,失業率の大幅上昇や個人消費支出の減退などによってインフレ率は下がりやすくなるでしょう。当面,インフレは粘着的なように見えても,今後数年のタームでは,むしろデフレ化の懸念が高まるかもしれません。
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