世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
大統領選前の米利下げの公算は低下
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2024.06.24
FOMCは年末までに0.25%の利下げを予想
6月11,12日開催のFOMCでは,事前の市場予想通り,政策金利の変更は見送られました。FOMC参加者の経済・金融見通しによれば,3月のFOMC時点では今年末までに0.75%の利下げを予想されていましたが,今回は0.25%の利下げ予想となりました。食品,エネルギーを除くコア個人消費支出価格の今年第4四半期前年同期比上昇率の見通しは,3月時点の+2.6%から今回+2.8%に上方修正されました。FOMC参加者が従来予想していたよりも,インフレ率の低下が遅れていることがうかがわれます。
名目GDPの減速は利下げには不十分
米国の政策金利と名目GDPの前年同期比成長率は相関が強く,特に利下げ局面では両者は概ね同水準で連動する傾向が見られます。名目GDP前年同期比成長率は,2021年4-6月期にコロナ禍による落ち込みの反動で+17.0%と高い伸びになった後,次第に低下しています(https://www.bea.gov/itable/national-gdp-and-personal-income)。
それでも直近の1-3月期には+5.4%と,現在の政策金利と同程度の水準です。
アトランタ連銀のGDPナウキャストとクリーブランド連銀のインフレ・ナウキャストに基づくと,4-6月期の名目GDPは前期比年率+5%台後半と予想されます。4-6月期の名目GDPがこうした堅調な伸びとなれば,7-9月期の情勢が判明していない7月30,31日や9月17,18日開催のFOMCで利下げが行われる可能性は小さそうです。バイデン政権は,11月5日の大統領選挙投票の前に利下げが行われ,景気のソフトランディングの機運が高まることを期待していると考えられますが,なかなか期待通りには行かないでしょう。
インフレ収束には大幅な失業率上昇が必要
Fedは物価安定と最大雇用という二重の責務(dual mandate)を負っていると言われます。ただ,インフレ率と失業率との間には,いわゆるフィリップス曲線が示すトレードオフの関係があり,低いインフレ率と低い失業率を両立させることは,容易ではありません。
上に述べたFOMC参加者の経済・金融見通しによれば,中長期の失業率は4.2%と予想されています。これは,インフレ率を加速も減速もさせない自然失業率の想定値であると考えられます。コロナ禍後の失業率の低下過程では,失業率がこの自然失業率を上回っていた2021年10月頃までの消費者物価や個人消費支出価格の中央値が示す基調的なインフレ率の上昇は,比較的緩やかでした。しかし,失業率が自然失業率を下回るようになると,インフレ率の加速傾向が強くなりました。失業率は昨年4月に3.4%まで下がった後,緩やかに上昇し,今年5月には4.0%と自然失業率に近づいています(https://www.bls.gov/news.release/empsit.toc.htm)。
ただ,コロナ禍以降の失業率とインフレ率の関係を逆方向からたどるとすれば,基調的なインフレ率がFedが目標とする2%に向かって下がってゆくためには,一旦は自然失業率を大きく上回る失業率の上昇が必要なようです。
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