世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
鈍化の兆しが垣間見える米国の雇用
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2024.06.17
非農業就業者は堅調な一方,失業率は上昇
6月7日発表の5月分米国雇用統計によれば,事業所調査に基づく非農業就業者数は,前月比27.2万人増と前月の16.5万人増(改定後)や18万人増程度という事前の市場予想を上回りました。一方,家計調査に基づく失業率は前月の3.9%から4.0%へと上昇しました。4.0%は2022年1月以来の高さです。失業率は昨年4月の3.4%から緩やかに上昇しています。労働力人口を16歳以上人口で割ることで求められる労働参加率は,62.5%と前月の62.7%から低下しました。昨年8月の62.8%が今回の景気回復局面でのピークであった模様です。失業率の緩やかな上昇と労働力化率の頭打ちは,過去の景気後退の直前と同様の動きです。
上記の非農業就業者数は過去1年で275.6万人増えたのに対し,家計調査に基づく就業者数は37.7万人増に留まっています。物価上昇による実質所得の目減りを補うなどのために副業についた人たちが,事業所調査では二重計上されていると見られます。雇用の実態は,非農業就業者数が示す所より弱いようです。
50割れが続くISM非製造業雇用指数
民間非農業部門の就業者の中でサービス部門は80%以上を占め,雇用の趨勢は非製造業で決まると言えます。ISM(全米供給管理協会)非製造業雇用指数は,5月には47.1と4月の45.9を若干上回ったものの,4か月連続で強弱の分岐点となる50を下回りました。一方,非製造業価格指数は,2021年後半から22年前半にかけて80以上という非常に高いところからは下がったものの,60近い水準に留まっています。雇用が鈍化している一方で,インフレ圧力が払拭されていない状態であり,2001,2008年の景気後退初期に似ています。
陰りが見える個人消費支出の行方
今後,さらに雇用が鈍化するかについては,個人消費支出の動向が注目されます。実質個人消費支出はコロナ禍で急減した後,コロナ禍前のトレンドの延長線上に戻っています。今年4月には前年同月比+2.6%でした。一方,実質個人可処分所得はコロナ対策の給付金の支給などで一時的に急増した後は,コロナ禍前のトレンドを下回り,足元で伸びが鈍っています。4月の前年同月比は+1.0%に留まっています。一旦は貯蓄された徐々に消費支出に回ったことで消費支出の伸びが所得の伸びを上回り,足元で個人貯蓄率は大きく低下しています。コロナ禍前には7%前後であったものが,4月には3.6%となっています。過去の貯蓄を取り崩して支出される動きが一巡して貯蓄率が下げ止まれば,個人消費支出は鈍化するでしょう。
個人消費支出の鈍化→雇用鈍化→個人所得鈍化→個人消費支出鈍化→・・・というスパイラルが生じれば,景気後退は不可避です。そうなる前にインフレ圧力が十分低下してFedが利下げに踏切れるのか,利下げしたとしてもこうした負のスパイラルを回避できるのか,微妙な情勢です。
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