世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3427
世界経済評論IMPACT No.3427

人工中絶を巡る政治劇:最高裁の変心,州政治,大統領選挙への影響

鷲尾友春

(関西学院大学 フェロー)

2024.05.20

 2022年6月24日,米国連邦最高裁判所は“Dobbs V Jackson Women’s Health Organization案件”で,「合衆国憲法は,人工中絶の権利を保障していない」との判断を示し,1973年1月に下されていた,Roe V Wade 案件に関しての連邦最高裁判決「妊娠中絶は,憲法により保障された権利」を覆した。

  • ① 何故,最高裁は,今頃になって覆した,或は,覆せたのか・・・。
  • ② また,この判決が,各州での共和党・民主党の対立に,どのように波及しているのか・・・。
  • ③ そして,その対立が,トランプ・バイデンの大統領選にどう影響してくるのか・・・。

 先ずは①から,概観してみよう。

 Dobbs案件が,連邦最高裁に持ち込まれたのは20年6月だった。それに先立つ,18年3月,ミシシッピー州議会共和党が,「妊娠15週を過ぎた堕胎は認められない」とする州法を採択,知事もそれに同意し,州内で唯一人工中絶手術を行うジャクソン女性健康診療所の閉鎖を試みた。これに対し,診療所側が州を提訴,裁判となった。

 第一審のジャクソン連邦地裁では,73年のRoe案件の連邦最高裁判所判断に従い州側敗訴の判決を下した。州の控訴を受けた第二審の第五管区連邦控訴審でも,「胎児に自らの生存能力がつく以前,通常,妊娠後23週間以内なら,妊婦は堕胎を選ぶ権利を有する」との判決が下されたが,共和党の政治圧力を受けた州当局は,勝算のないまま,最高裁に上訴するしか手がなくなっていた。

 しかし,当時のトランプ大統領は,「最高裁判事の次期補充に際しては,Roe判決を覆す考えの持ち主を指名する」と宣言,ミシシッピー州共和党の背中を押した。

 こうした経緯を経て,20年6月,本案件は連邦最高裁の手許に届いた。

 最高裁判事の任期は,本人が辞職を申し出ない限り終身だが,当時の最高裁判事の構成は,民主党大統領が指名したリベラル派が4名,共和党大統領が指名した保守派が5名で,保守派の一人,John

 Roberts判事が05年以降,最高裁長官を務めていた。

 しかし,Roberts 長官は最高裁の威信維持を重視する法曹人で,最高裁が下した判決は,前例として尊重されなければならない,との信念の持ち主だった。

 亦,9名定員の裁判所内の規律として,「前例を覆す判決には,少なくとも5名以上の判事が賛成すること,との慣例も確立されていた」(NYT紙2023年12月15日)。

 だが,Roberts 長官を除けば,最高裁判事のリベラル派対保守派の勢力は4対4で拮抗していた。加えて,保守派の中にも,共和党の考えに同調しない者が現れる可能性もある。つまり,ミシシッピー州側が,Roe判決を覆す判決を引き出せる可能性は極めて低い,というのが当時の常識であった。

 そうした中,筋金入りのリベラル派の最高裁判事として知られたGinsburg女史が癌と戦っていた。女史はトランプ大統領の狙いを熟知している。「自分が死んだら,保守派の候補者を後任に指名するだろう。女性の中絶権を護るには,何としても,自分が生きてミシシッピー案件を拒絶しなければならない」と・・・。

 彼女はび病身に鞭打ち,自宅の緊急事務所で仕事に励んだが,20年9月18日に遂に帰らぬ人となった。

 最高裁判事の補充には,時の最高レベルでの政治判断が関わるケースが多い。

よく知られた例は,16年当時のAntonin Scalia判事(共和党レーガン大統領指名)が死去したときの連邦議会の対応であろう。当時の民主党オバマ大統領の任期は残り数ヶ月。連邦議会上院は共和党優位。上院共和党のマコーネル院内総務は,「選挙まであと僅か,新判事の指名や承認は,新しい大統領,新しい上院に任せよう」と主張。オバマ政権下での承認公聴会開催を頑なに拒む策に出た。民主党の大統領にとって,上院の共和党優位の弊害は,こんな処に出てくるものなのだ。いずれにせよ,翌年早々,新しい判事を指名したのは,就任したばかりの共和党トランプ大統領だった。

 共和党マコーミック院内内総務は,Ginsburg判事の死という,Antonin Scalia判事と同じようなケースが大統領選挙まで7週間を切った段階で起こったにも関わらず,時の大統領がトランプだったため,大統領指名の最高裁判事承認公聴会を強行した。こうして前回とは全く異なる対応をし,保守派のKavanaugh判事をGinsburg判事の後任に承認してしまう。民主党は,この選挙でバイデン大統領を当選させながら,リベラル派の判事を起用する機会を奪われてしまうことになった。

 連邦最高裁判事が保守派6名・リベラル派3名に変わったことで,ミシシッピー州側は,21年12月,それまでの主張をより強硬なもの(それまで州法と最高裁のRoe判決に矛盾はないとしていたものを全面否定)に変質させて行った。

 かくして最高裁は,21年12月末,内部で会議を開き,ミシシッピー州側の主張を取り上げるか,或は,控訴審判断通り,ミシシッピー州の主張を却下するか,議論の末に票決を行なったが,その結果は「取り上げる」が5票,「控訴審判決を支持する」が3票であった。その後,「取り上げる」に票を投じた判事の中から,Samuel Alito Jr判事が判決文を書くことになり,22年2月,98ページの長文の原案が各判事に配られたが,長文故に,とても読み込めないはずの,僅か10分後には保守派のGorsuch判事から賛成の返事が届けられ,翌朝には,残りの保守派判事も賛成との返事を送り返してきたという。この3人のいずれからも,判決分案について変更要求は出なかった由。これについてNYT紙(上記23年12月15日付)は,「保守派は判事は,リベラル派に内容を知らせず,自分たちだけが起草原案を予め知っていたのでは」と推論した。

 いずれにせよ,上記の過程を経て下された,Dobbs V Jacson Women’s Health Organization案件での最高裁判決の意味するところは,Alito判事が判決文の中で記したように,「中絶の可否は連邦憲法の決めることではない,それは人々自ら,或は人々の代表者が決めることだ」と言う点に尽きている。

 ②の問題に移ろう。

 この最高裁判決の変更で各州,延いては各州の共和党・民主党は,その後,どういう対応振りを見せるようになったか・・・。そもそも,中絶問題を巡る共和党と民主党の戦いは,Dobbs判決以前から既に激烈だった。南部や中西部各州の共和党は,福音派キリスト教会などの強力な後押しを得て,地域一帯で,中絶禁止を成立させる運動に精力的に取り組んでいた。本稿で取り上げるミシシッピー州もその一環だ。

 当時,中絶禁止,或は抑制を,州法化したのはミシシッピー,アラバマ,アーカンサス,ジョージア,アイオワ,ケンタッキー,ルイジアナ,ミズーリー,ノースダコタ,オハイオ,サウス・カロライナ,テネシー,ユタの14州。だがこれら州の多くは,最高裁のRoe判決で,執行を止められるケースが殆どだった。連邦最高裁がこれまで,「米国憲法は中絶の権利を認めている」と断言した以上,中絶規制派は,中絶許容期間を狭めることや,判例に抵触しないで中絶禁止の法律をどれだけ施行できるようにするかに活路を開くしかなかったのだ。例えばテキサス州法は「妊娠6週間以上経た女性が中絶手術をした場合,その事実を知った一般人は診療所を提訴出来る。訴訟費用は,一般人勝訴の場合,訴訟費用とは別に1万ドルを診療所から取り立てることができる。敗訴でも,被告側の訴訟費用の支払義務は負わない。一般人は中絶を受けた女性と何ら関係がなくても訴訟は可。但し女性は罪を問われず,問われるのは手術した診療所」とした。つまり,これは一般人を法執行の代行者に起用するやり方。診療所側にしてみれば,何時,誰から訴訟を起こされるか分らない,そんな意味で,この州法は,診療所側に中絶手術を躊躇させる,そんな意味での抑制効果が期待出来る。このテキサス州法は,連邦最高裁判所の審査を巧妙に避ける工夫が盛り沢山取り入れられていた。

 ところが,州法の発効停止を求める緊急請願が,施行僅か2日前の21年8月末に中絶擁護団体の手で,連邦最高裁判所に持ち込まれた。しかし,この緊急案件に最高裁判事は「テキサス州法の発効を一時停止させる」ことに賛成4(リベラル派3名と長官),反対5(保守派)と票が割れ,州法発効を阻止できずに終わってしまう。連邦最高裁判所は,この州法施行を止められなかった時点で,「中絶は憲法が認める権利」とする自らの先の判決が覆されてゆくのを,手を拱いて見るしかない立場に身を置いたのだ。勿論,そうした姿勢は,連邦最高裁判事の中の中絶規制派(保守派)にとっては,むしろRoe判決の空洞化に繋がるといった意味で,好ましいことであっただろうが・・・。

 だが,こうした状況は,既述の通り22年6月24日のDobbs判決で一変する。

 「中絶の権利は憲法が要請しているものではない。それは人々やその代表者が決めれば良いことだ」と・・・。これにより前述の14の州法(含むテキサス)は既に再度の息吹を与えられている。

 一方,中絶擁護派は,Roe判決をよりどろこにできなくなった。これら地域で自ら中絶擁護のフレームを新たに創らねばならない。例えば,もし当該州で中絶擁護派が多数なら,共和党同様に州議会で州法化するなり,州知事の権限で中絶へのアクセスを保障すれば中絶を擁護することができる。事実,幾つかのリベラルな州では,民主党主導でそのような州法なり知事命令が発出されている。

 しかし,これは州内多数党が変われば,容易に変更されてしまう。そんな不確実性を払拭するには,今回大統領選挙と同時に実施される州民投票のテーマに,「中絶承認規定を挿入する州憲法改正」提案や,或は,「妊娠後一定の期間を経過しても,中絶は可能」との提案等を取り挙げさせて,当該州の有権者がその提案を直接採択すれば良い。もっともこれは中絶反対の立場からも同様の議論がなし得るが。

 上記には,敢えて書かなかったが,フロリダ州も23年4月に,中絶を禁じる州法を制定し,デサントス知事が署名している(発効は,1年後の今年5月1日)。

 しかし,この州法の潜在的実害は非情に大きなものとなることが予想されている。

妊娠後6週間を経た妊婦は,中絶出来ないと規定する州法によって,中絶希望者達は,手術を行える診療所のあるノースカロライナやバージニアまで行かざるをえなくなったからである。しかも,それらの診療所も,事前予約がなくて手術が受けられないケースが多発する事態に・・・。

 それ故,最近急速に堕胎手段化してきたのがフェンタニル素材入りのピルだ。フェンタニルは今では麻薬同様に薬物視されている危険薬。それがオンライン診療や郵送による入手経路の拡大などで,中絶希望者が容易に手に出来るようになった。フェンタニルの輸入源は中国で,州当局が,郵送によるフェンタニル・ピルの入手を阻止しようとしても,郵便物は連邦政府の所管であり,州当局には権限がない。こうした面でも,昨今の米中関係の対立激化や,連邦と州の規制対象の違いなどが影響してくるのだ。

 NYT紙の記事(24年5月2日付)によると,中絶件数の約3分の2は,このピルによるとのこと。この指摘が正しいとすれば,このピル人気の上昇は,真に,「規制すれば地に潜る」の典型例ではないだろうか・・・。フェンタニルは依存性が強く,過度の服用は精神疾患を発病し死にも至る危険薬だ。今の米国社会での,中絶問題と薬物問題が錯綜している実態が垣間見られるというものだろう。

 話をフロリダ州の中絶禁止法に戻す。同州では実は中絶擁護派の方が多いぐらいである。中絶擁護派は,こうした状況下,中絶容認の州民投票を大統領選挙時に併せて行えるよう署名集めに余念がない。カリフォルニア,カンサス,ケンタッキー,ミシガン,モンタナ,オハイオ,ヴァーモントの7州でも,大統領選挙と同時併催される州民投票のアジェンダに,中絶容認提案が掲載されることが決まっている。しかし,これ以外に何州で中絶容認の州民投票が実現するかは現時点では判然としない。何故ならば州民投票のための条件が州毎に余りに違いすぎるからである。その前提に上で中絶擁護派が州民投票実現に向け積極的に活動を続けている州を,筆者の知る限り列挙してみれば,前記フロリダに加え,メリーランド,アリゾナ,コロラド,ミズーリー,モンタナ,ネブラスカ,ネバダ,ニューヨーク,サウスダコタ等々だ(5月7日現在)。

 今般の大統領選挙で中絶問題を巡る動きは,どう影響するか。最後の設問③への現況解説である。

 米国社会で中絶擁護の支柱を為していたのは73年のRoe判決だった。そして,22年に至り,その判決を覆し中絶規制派にモメンタムを与えたのは,3名の連邦最高裁判事だった。彼らが導いたDobbs判決を切掛に共和党保守派を中心に,全米各地で中絶禁止の州法を採択する動きが強まってきている。トランプは当然,中絶禁止派にその実績を誇るかと思いきや,逆に中絶禁止派と距離を置こうとし始めているようなのだ。何故か・・・。

 24年3月に実施されたウオール・ストリート・ジャーナル紙の世論調査によると,有権者の個別案件への関心リストのトップに,不法移民やインフレ,海外での戦争などを抜いて,中絶問題が躍り出たという。しかもその関心は,何らかの形で中絶を認める方向にあった。こうした有権者の関心動向に,大統領選候補者の陣営は,無関心でいるはずはない。トランプが女性を巡るスキャンダルに塗れ,更に都市部の女性票がトランプ離れを起こしそうな状況下では,トランおプ陣営は同問題に留まっていたくないのだ。

 対するバイデン陣営は,「トランプの手によって中絶規制強化が図られた」という攻撃材料を手放したくない。故に,中絶以外の他の問題に有権者の関心をシフトさせたいトランプ陣営と,中絶問題を大統領選挙の一つの争点とし続けたいバイデン陣営との間で綱引きが始まっている。

 しかし,中絶問題を長年に渡りフォローしてきたNYT紙の記者は,有権者は既知イメージに基づいて誰に投票するか既に決めているとしている。そんな状況下では,中絶擁護か規制かという単一の争点で既に決めた投票の決意を覆すには足りないはずだとしている(NYT紙4月9日,或は4月10日など)。

 筆者も,記者の指摘はあたっていると思う。だが,激戦州の僅差の勝負では,「中絶擁護か規制か」の問いかけは,結構有効な打撃力を発揮するのでと考えている。バイデン陣営も,中絶問題は限界部分の効用しか持っていない,逆に言えば,そんな限界効用を持っていることは十二分に周知のはず。だから,上述したように,トランプがニューヨークの裁判で身動き取れない状態の時を選んで,ハリス副大統領を前面に立てて,ペンシルバニアやジョージアといった激戦州に,中絶規制強化反対をテーマとした遊説を敢行させ,そうした遊説を通じて,女性問題で裁判に問われているトランプ像を有権者に再認識させバイデン支持に向けた団結強化を図らせたのだ。激戦7州の内,とりわけ中絶擁護を11月に州民投票のアジェンダに載せさせよとする動きが強い幾つかの州では,このバイデン選対の“中絶擁護の立場の再強調”は,それなりに意味のあることだと,筆者は考えているわけだ。

 最後に大統領選挙の直近を概観して,本稿を終わりにしたい。周知のように,米国の大統領選挙は有権者の一般投票が決めるのではなく,一般投票はあくまでも,各州に割り当てられている選挙人(Electoral College)の争奪戦の結果を決めるもの。全米の各州では,ブルー州(民主党支持)とレッド州(共和党支持)とはほぼ固定しており,両候補の獲得する選挙人の数は予想できる。4月中旬のNYT紙によると,当選には選挙人の過半である270名の獲得が必要と言う。4月中旬の獲得数は,バイデン226人,トランプ219人だった。だから,選挙人獲得競争では,残り激戦7州での勝敗が全て。その7州とは中西部工業州のミシガン,ペンシルバニア,ウイスコンシンと,南部サンベルトのアリゾナ,ジョージア,ネバダ,ノースカロライナ。

 何故,この7州が激戦州になっているのか・・・。それは中西部の工業3州では,製造業が競争力を失い,民主党支持の労働者の一部(とりわけ,非大卒の黒人やヒスパニック,或は一部白人労働者)が,トランプ支持に回り始めているからだ。

 サンベルトの4州では,北部や西部のカリフォルニアから,IT絡みの企業や工場の移入が相次ぎ,それとともに比較的リベラル指向の強い従業員達が大量に流入してきているから・・・。つまり,中西部工業州では民主党の支持基盤に亀裂が生じ,南部サンベルトではリベラルな有権者の流入で,共和党有権者が多数だった,それまでの有権者構成が大幅に変調してきているから・・・。

 直近,相次いで発表された世論調査では,バイデン劣勢の結果が続出している。例えば,4月28日のNYTとSiena College・Philadelphia Inquirerの合同調査では,激戦6州中,ウイスコンシンを除いて,全てトランプ優位の結果となっている。しかし,直近の調査結果を吟味すると,4つのことが明らかになる。一つは,バイデン支持率が依然伸び悩んでいること。二つ目は,バイデンは不利だが,民主党の上院候補達は健闘していること。つまり,大統領候補バイデンは不評だが,上院選出馬の民主党候補達に対しては,彼ら(黒人,ヒスパニック,若者一般)の支持は離れてはいないこと。三つ目は,この世論調査で一般有権者が示した結果と,“必ず投票する”と答えた有権者が示した結果に違いが生じていること。即ち,一般有権者ベースと“必ず投票する有権者”ベースでは,トランプ優位が微妙に変わるのだ。その結果,ミシガンでバイデン優位,ウイスコンシンとペンシルバニアでトランプが射程圏内に入る結果となる。

  •  激戦州 (一般有権者ベース→→必ず投票すると答えた有権者ベース)
  •          トランプ    バイデン
  • アリゾナ    49%→→49%  42%→→43%
  • ジョージア   49%→→50%  39%→→41%
  • ミシガン    49%→→46%  42%→→47%
  • ネバダ     50%→→51%  38%→→38%
  • ペンシルバニア 47%→→48%  44%→→45%
  • ウイスコンシン 45%→→47%  47%→→46%

 もしバイデンがミシガン,ペンシルバニア,そしてウイスコンシンで,譬え僅差ででも勝利を得れば,それら州への選挙人の配分数から計算すると,現状劣位の選挙戦を逆転して,24年大統領選挙戦に勝てるという。そしてこの3州はいずれも,中絶擁護派の勢いが強く,その一方では,黒人やヒスパニック,更には,白人労働者(若者を含む)のバイデン離れが顕著な州だ。だからこそ,トランプが裁判で身柄を縛られているとき,バイデン陣営は,現職の立場を最大限利用し,ハリス副大統領に激戦州を回らせ,バイデン大統領には,全米自動車労働組合を喜ばせるような,中国からのEV輸入車に高率の関税をかける措置や,新日鉄のUSスティール買収を牽制するような発言をわざわざ現地で繰り返させたのだ。更に亦,黒人差別廃止の象徴ともなっている,70年前の連邦最高裁判所判決:Brown V Board of Education判決を記念する会合を,黒人有権者層相手にワシントンやミシガン,ペンシルバニアなどで行ない各州の黒人組織NAACP(National Association for the Advancement of Colored People)の会合に必ず顔を出し,亦,5月の中旬には,ジョージア州の,黒人が通うMorse House Collegeでの卒業式に出席,演説を行なってみせるほどのサービス振り。ことほど左様に,支持離れを伝えられる黒人やヒスパニック,更には鉄鋼や自動車労働者にすり寄る姿勢を強めている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3427.html)

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