世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
文化大国を目指せ
(北星学園大学 名誉教授)
2024.05.13
いま長い資本主義論に関する原稿を書いています。膨大な資料の山に囲まれ最終的なまとめに入るところです。内容的には大雑把に申して世界経済の成長そして日本経済の分析とまあありきたりの論文ではあります。しかし,その作業から突然これではだめだと思い始めました。日本経済です。この20年程度の先進国経済をデータでまとめたものを見ていたら,驚くべきことを発見しました。筆者は日本経済を含めて世界経済は先進国病ともいうべき経済的停滞にあると認識していました。これは誰しもご承知の事ですから「今さら」とお感じの方が多いと思います。
ところがです。世界経済はゆっくりとはいえGDPも一人当たりGDPも着実に増加しています。政府統計(ほとんど筆者は問題の起こらないようこれを使います)によると,12か国のGDPは2005年47,916.1(単位:10億ドル)から2022年101,432.1(同)へと2.12倍,年率4.26%と予想以上の増加率になっています。ついでに言えばこの12か国にはアジア,アフリカなどの新興・途上国は入っていません。このような状況の中で日本はどうなのか。日本のGDPはこの18年間で4,834.2(同)から4,260.1(同)へとマイナス1.13倍,年率でマイナス0.87%となっており,本データでみる限りGDPが唯一マイナス成長の国になっています。このような状況を調査すれば「こんなところか」位にさほど驚きもされない国になっているかもしれません。しかし筆者は,日頃の不勉強の故かもしれませんが,このような日本の経済的停滞に本当に驚愕しました。この20年足らずの間,世界各国は「進んでいく国」になっている一方で,日本は世界にも稀にみる「止まった国」なのです。このデータで見る限り「止まっている国」は日本以外一か国もないのです。そのような状態にありながら世界のGDPの4.2%を占めているなどと聞けば,それなりの国だと思ってしまうかもしれませんが,この状況が今のまま続けば,何年か先には日本は消え失せてしまいかねない実情と考えます。当然一人当たりGDPも減少しています。いや本来は人口が減っているのですから,もしかしたら一人当たりではそうならないはずという夢は,現実的ではありません。一人当たりGDPもこの期間当初の13位から21位にまで転落しました。このような状態にある国も,この12か国の中では唯一日本だけであり,GDPでははるかに上回っているロシアや韓国にも及ばない状態なのです。
さてこのような趨勢の中で日本は何をやってきたのでしょうか。はっきりしているのはデフレからの脱却,そのための2%物価目標でしょうか。したがってそれは「インフレ政策」でその一番手がゼロもしくはマイナス金利政策でしょうか。この政策ははっきり言って全く誤った政策です。何故か。結果は上に示した事で十分ですが,実はそれは理論的にも説明のつかない政策なのです。最も端的に言えば賃金を引き上げ,消費を拡大するなどの暴論は殆ど理解不能です。何故なら賃金を大幅に引き上げれば企業は利益確保の為に価格を引き上げます。これが出来ない企業はそれだけでも倒産しますが,価格引き上げに成功した企業群の大量発生がもしもあったとすれば,当然消費購買力は大幅に減少します。これは近代経済学のイロハのイの世界であるケインズ経済学を少し勉強したものなら誰でもわかります。消費が起こらなければ投資も起こらないのですから経済は必然的に停滞します。賃金の出し渋りはともかくとして,ゼロ金利政策の始末の中ではとても投資どころではありません。この誤った政策が政府と日銀によって遂行されてきたため日本経済は駄目になったのです。新しい資本主義とは何でしょう。何もありません。前任者の真似事でやったふり,言ったふりは出来るかもしれませんが,今のぬぐい切れない日本経済の不振は遺憾なく進むでしょう。この日本の窮状を経済で解消するのは難しいでしょうし,無理に進めようとすれば,戦争のため,武器弾薬を,かつてスターリンが言った資本主義の行き先の懸念も心配です。私は日本人が誇れるスポーツ,バレエ,ダンス,観劇,映画,古典もの,等々によって本当の知識人を育て上げる教育によって再生を目指す道を選択すべきでそれが日本の国民力になると確信します。
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