世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
米国の財の景気後退とサービスの景気過熱
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2024.05.06
財実質GDPは前期比マイナス
米国の1-3月期の実質GDPは前期比年率換算+1.6%と,昨年10-12月期の+3.4%や,米議会予算局が+2.2%程度と推計する潜在GDP成長率を下回りました。一方,GDP価格指数は+3.1%と前期の+1.6%を上回りました。米国経済は,全体的に見ればスタグフレーションの様相が若干強くなったようです。
GDPを財,構築物,サービスの生産に分けると,財の実質GDPは1-3月期には同−2.4%と,昨年1-3月期以来のマイナス成長となりました。また,財のGDP価格上昇率はほぼゼロと,前期の−1.4%に続いて弱い動きとなりました。2022年前半には物価の大幅上昇を受けて財実質GDPは,2四半期連続で減少したことがあります。足元の状況は当時とは違い,財の生産と物価の両面で弱さが見え,財部門の景気後退色がより強くなっています。
サービスGDP価格の再加速
一方,サービスの実質GDPは1-3月期には+3.0%と前期の+2.8%を上回りました。さらに,サービスGDP価格は+5.1%と,前期の+3.1%から大きく上昇し,2022年10-12月期以来の高い上昇率となりました。財生産と同様に,2022年1-3月期には,物価上昇に伴ってサービス実質GDPは−0.6%と若干減少しました。しかし,その後,サービス実質GDPは平均で年率+2.6%と堅調な成長を維持し,サービスGDP価格が足元で再加速しています。こうした点では,サービスの景気は過熱化していると言えます。
難しい金融政策の対応
サービス生産はGDPの約60%を占め,個人消費支出に占めるサービス支出の比率は約67%に上ります。インフレ率をFedが目標とする2%へと下げるには,サービス部門の景気過熱を抑えるために追加利上げを行うことが必要なのかもしれません。しかし,財の需要は,耐久財を中心にサービスより利上げの影響を受けやすく,利上げをすれば財の景気後退が深くなるでしょう。また,経済のサービス化につれ,財や構築物の生産がGDPに占める比率は,長期的に下落傾向にあります。財のGDPシェアは2019年の約30%からコロナ禍をきっかけに上昇し,2022年後半には32%近くまで上昇しました。しかし経済の正常化に伴って低下に転じ,直近では31%を切りました。追加利上げが無くても,財のGDPシェアは,今後も低下傾向が続くことが予想されます。財生産のGDPシェアはサービス生産の半分程度ですが,サービスよりも景気変動に敏感に反応する傾向があります。Fedとしてもサービス部門が過熱化しているからと言っても,財部門の動向を無視して金融を引き締めるわけには行かないでしょう。
Fedは当面金融政策の変更を見送り,財部門の景気後退がサービス部門へと波及してインフレ圧力が徐々に沈静化するのを待つしかなさそうです。足元でのサービス部門の景気の強さから見て,米国経済全体としてはすぐに景気後退に入りそうにはありません。ただ,当面,経済成長率は潜在成長率よりも低めに留まる一方,GDP価格指数や個人消費支出価格指数などのインフレ率の指標は年率3%を上回り,スタグフレーションの様相が続くことが予想されます。
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