世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
消費支出の減退で低下する日本のインフレ率
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2024.04.15
実質消費支出は減少基調
日本のGDPの約53%を占める家計最終消費支出は,物価変動分を除いた実質ベースで,昨年10-12月期まで3四半期連続で前期比で減少しました。家計調査による実質消費支出指数や,供給側統計から消費動向を把握するために日銀が推計している旅行収支調整済の実質消費活動指数も,昨年初をピークに減少基調にあります。消費支出指数も消費活動指数も今年2月には前月比で上昇しました。ただ,1,2月の平均値が昨年10-12月期の平均値より低いという点では,減少に歯止めがかかったとは言えないようです。さらに,実質家計最終消費支出,実質消費支出指数,実質消費活動指数の全てがコロナ禍前より低い水準に留まっています。消費支出の弱さは一時的なものではないことが伺われます。
基調的インフレ率は既に2%割れ
こうした消費支出の弱さの背景にあるのは,2022年以来の物価上昇です。消費者物価指数総合の前年同月比上昇率は,2022年1月には+0.5%であったものが2023年1月には+4.2%まで上昇しました。ただ,そこから上昇率は低下に転じ,今年2月には+2.8%となっています。一方,物価の基調を示す消費者物価指数加重中央値の前年同月比上昇率は,消費者物価指数総合に遅れて2022年後半から上昇基調となり,2023年10月には+2.2%となりました。しかし,そこから低下に転じ,今年2月には+1.4%となっています。物価上昇による消費支出の減退が,現在はインフレ率の低下を招いているという姿と言えます。過去の動きを見ると,加重平均値である消費者物価総合の前年同月比上昇率は,一部品目の急変動で上下に振れますが,次第に加重中央値の上昇率に収れんする傾向があります。その点では,現在は+2%を超えている消費者物価総合の上昇率は,早晩2%を割りそうです。
貯蓄率の上昇で消費支出は増えにくい
消費者物価加重中央値上昇率が示すインフレ率の基調がさらに下がるかどうかは,消費支出の今後の動向次第でしょう。実質家計可処分所得は,コロナ禍対応の財政支援で急増した後,物価上昇によって減少しました。しかし,春闘での高い率の賃上げ,インフレ率の低下,6月からの所得・住民税の減税によって今後上向く可能性が高まっています。それを受けて,実質消費支出の反発を期待する見方もあります。
ただ,これまでの物価上昇で家計の支出がかさみ,2023年7-9月期に−0.2%まで低下した家計貯蓄率が,節約志向の高まりで上昇に向かいそうです。このため,実質可処分所得が増えても,実質消費支出は増えにくいでしょう。実質消費支出が停滞したままでは,基調的インフレ率は2月の+1.4%では下げ止まらず,1%かそれ以下へと低下すると予想されます。景気が一段と悪化したり,米国の利下げ開始などによって円高が進んだ場合には,消費者物価指数総合の上昇率は加重中央値上昇率を下回ることもありえます。
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