世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
米国の利下げ開始は6月か,9月か
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2024.04.08
割れるFOMC参加者の金利見通し
3月19,20日開催のFOMCでは,政策金利であるフェデラル・ファンズ金利の目標レンジは5.25~5.5%で据え置かれました。政策金利の据え置きは,昨年9月のFOMC以来5回連続です。FOMC参加者の経済見通しによれば,今年末のフェデラル・ファンズ金利目標レンジ中央値の予想値は4.625%と,前回経済見通しが発表された昨年12月のFOMCの時と変わっていません。現在の5.375%から年末までに0.75%の利下げを予想しているということであり,1回の利下げ幅を0.25%とすれば,利下げ3回分に該当します。3,6,9,12月のFOMCでは参加者の見通しが発表され,政策変更の理由を説明しやすい点では,6月に利下げを開始して,9月,12月に追加利下げを行うことがメイン・シナリオと言えそうです。ただ,FOMC参加者の今年末金利予想の分布を見ると,4.375%以下の予想が昨年12月の4人から1人に減少しています。また4.875%以上の予想が12月の8人から9人に増え,4.625%以下を予想する10人と拮抗しています。4.875%であれば年末までの利下げは2回となり,利下げ開始は9月にずれ込んでもおかしくありません。
インフレ率低下のペースダウン
利下げの後ずれの可能性が高まってきた背景には,インフレ率の低下のペースダウンがあります。物価の基調を示す個人消費支出価格指数中央値の6ヵ月前比年率換算値は,2022年10月の+6.7%から昨年12月には+3.0%まで大きく低下しました。しかし,今年2月には+3.8%に再上昇しています。FOMC参加者によるエネルギー,食品を除く個人消費支出価格指数の今年第4四半期前年同期比の予想値も,昨年12月の+2.4%から今回+2.6%へ上方修正されました。
緩やかに上昇する失業率
ただ,年内利下げの公算が大幅に低下したとまでは言えず,利下げ開始は6月か9月かで五分五分と見ています。
失業率は,月々の振れを伴いながらも,昨年4月の3.4%から今年2月には3.9%まで上昇しました。家計調査に基づく就業者数の前年同月比は同時期に+1.9%から+0.4%まで大きく伸びが下がっています。一方,事業所調査に基づく非農業部門就業者数の前年同期比は,同時期に+2.5%から+1.7%へと緩やかに伸びが低下するのに留まっています。物価上昇で支出がかさむ中,所得補填のために副業をする人が増えており,事業所調査ではそうした人達が重複集計されていることで両者の伸びの差が生じているものと考えられます。
FOMC参加者の失業率の中長期予想中央値は4.1%となっています。これは,インフレ率が大きく加速も減速もしない均衡状態での失業率,いわゆる自然失業率が4.1%と想定されていると解釈できるでしょう。Fedは物価安定と最大雇用という二重の責務を負っているとされます。インフレ率が目標の2%を上回ったままであっても,失業率が4.1%を継続的に上回るようになれば,雇用に対する配慮からFedは利下げに踏み切るでしょう。現在の雇用情勢から見ると,9月のFOMCまでには失業率が4.1%を継続的に上回る状況になる公算は大きそうです。
過去の事例では,利下げが行われても景気後退を回避できなかったこともあります。2000年5月から6.5%で据え置かれていたフェデラル・ファンズ金利目標値は,2001年1月から引き下げられましたが,2001年4月から景気後退に入りました。2006年6月から5.25%で据え置かれた後,2007年9月から利下げとなりましたが,2008年1月から始まった景気後退はリーマンショックに至る深いものとなりました。利下げが景気のソフトランディングをもたらすとは限らず,むしろ利下げ開始が景気後退の兆候ともなりうることには注意が必要です。
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