世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3355
世界経済評論IMPACT No.3355

トラック2024年問題の誤り

川野祐司

(東洋大学経済学部 教授)

2024.04.01

ドライバー不足は本質的問題ではない

 近年,トラックドライバーの不足が社会問題化しつつある。2024年にはトラックも含めた運転手の労働時間に関する規制が強化されることから,ドライバー不足への対策が図られている。高速道路の制限速度を高めるというほとんど何の意味もない政策もその一つである。深夜の高速道路を走ればすぐにわかることだが,制限速度を守っているトラックは多くない。トラックの速度超過は広範に見られる現象であり,煽り運転をしているトラックや過積載が疑われるトラックを簡単に見つけることができる。料金所では割引料金を受けるための違法な路上駐車も多くみられる。

 国土交通省が公表している「数字で見る自動車2023」によると,トラックの台数(特積(運行車)と霊柩を除くトラック台数)は,1993年の111万台から,2000年128万台,2010年131万台,2020年143万台とトラック台数が長期的に増え続け,2000年から2020年の20年間で約12%増加している。一方,この間の名目GDPを見てみると,2000年の535兆円から2020年の540兆円へと約1%しか増加していない。つまり,経済規模の拡大よりも速いペースでトラックが増え続けているのであり,問題の本質はドライバー不足ではなく,トラックの増えすぎにある。

マルチモーダルと物流の効率化がカギ

 速度違反などの問題点はトラックの増えすぎに伴うドライバーの質の低下が原因だと考えられるが,さらに根本的な原因を探ると,物流政策の失敗が浮かび上がる。

 トラックは最も手軽な運送手段である一方,他の手段に比べて最も環境に悪い。トラックと子供の事故のニュースが報道されるように交通事故などの可能性も高く,社会に与える影響も悪い。

 他の輸送手段に電車や船がある(飛行機もあるがここでは省略する)。電車や船はスピードが遅く,荷物の受け渡し(カボタージュ)の場所が制限されるというマイナス面があるものの,一度に多くの荷物を運べるため荷物1つあたりの環境負荷が小さく,歩行者や他の車との事故の可能性が極めて小さい。

 東京-大阪間のような拠点間の輸送は電車や船,その先の最終目的地まではトラック,というような複数の手段による物流=マルチモーダル化は低炭素社会の実現には不可欠な要素といえる。EU(欧州連合)ではライン川などの内陸水路の開発も含めたマルチモーダル化や物流のデジタル化の取り組みを早くから進めている。しかし,日本では,内航船は今後の存続が危ぶまれるほど危機的な状況にあり,小規模運送会社の乱立を背景に物流のデジタル化は進んでいない。

何が必要か

 マルチモーダル化や物流の効率化を実現させるためには,まずはトラックに依存する体制を変えていく必要がある。トラックに対する課税の強化,燃料税や高速料金の引き上げ,過積載や速度違反などの取り締まりの強化と罰則の引き上げ,トラック輸送による温室効果ガス発生量の表示義務などにより,トラックへの依存度を下げつつ,必要な資金の一部を捻出する。今後は自動運転が標準になることを見越して,高速道路に双方向に情報をやり取りできる端末を大量に設置する必要があるが,これに速度違反を取り締まる機能を付けることで費用の一部を捻出できる。

 なお,ラストワンマイルを含めてトラック輸送は今後も必要であり,トラック輸送を廃止せよという提案ではない。

 これらの施策から集まる費用も使いつつ,内航船の近代化と持続的な内航船システムの構築,貨物電車網の整備,マルチモーダルに対応した包括的なカボタージュシステムの開発と普及,トラックの効率的な運用と自動運転化,EVトラックや電動フェリーなど輸送部門の電動化,1つ1つの荷物の環境負荷の表示,物流と環境負荷に関する教育などの取り組みを進めることで,環境に配慮した物流,事故などに対する安全の確保,複数の輸送ルート確保による物流の強靭性などが実現できる。新しい物流への理解を深める取り組みも社会の移行には欠かせない。

 輸送部門は私たちの社会に欠かせないものであり,効率化や環境負荷低減から得られる社会的恩恵は大きい。弥縫策ではなく,未来の社会構築に向けた包括的な対策が望まれる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3355.html)

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