世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
WHOパンデミック条約:国際保健規則修正を巡る対立
(敬愛大学経済学部経営学科 教授)
2024.03.18
医療産業による国際カルテルではないかという批判も
WHO(世界保健機関)は,新型コロナウイルス感染症のパンデミックの経験を踏まえ,世界の健康危機への対応能力を強化するための法的文書を作成するため,2022年2月から政府間交渉会議を重ねている。その法的文書は,いわゆるパンデミック条約(原語はagreementなので本来は“合意”)と国際保健規則(IHR)の修正という2つからなり,今年5月の総会での採択を目指している。
欧米では,西洋医薬偏重の大手製薬企業やWHOの動きに反対する医師,科学者,法律家,環境活動家らが2021年9月に結成したボランティアネットワークWCH(World Council for Health)が,パンデミック条約とIHR修正に反対している。
日本では政府,マスメディアとも,議会や国民に全く伝えていないが,WCH日本支部やワクチンの健康被害の調査を呼びかける医師らの働きかけによって,原口一博衆院議員を中心とする一部の国会議員によって,昨年11月に超党派WCH議員連盟が発足し,この3月まで,厚労省や外務省の担当者を呼んで,合計5回の会議を開いている。
パンデミック条約案とIHR修正案の何が問題とされているかを見ていこう(両案とも日本政府は日本語訳を公開していないが,参政党が仮訳を公表している(「パンデミック条約」草案/「国際保健規則(IHR)」修正案 仮訳))。
パンデミック条約案全体に,パンデミックの予防,準備,対応のための監視強化,パンデミック関連製品(ワクチン,治療薬,診断薬など)を,途上国を含めた世界中に,迅速かつ公平に提供できるよう体制構築することを目的としており,ワクチンの供給体制が重視されている。
条約案第11条では,パンデミック関連製品の世界中への迅速かつ公平な提供のため,製造業者は地理的に分散していなくてはならず,世界中の技術やノウハウは無償または管理された対価で製造業者に提供するよう奨励している。この奨励に従えば,大手製薬企業が世界中に製造拠点を配置すれば,他社の技術やノウハウも利用して製造を寡占,独占することが可能となる。
また同12条では,ウイルスなどの試料および遺伝子情報などへのアクセスと利益を共有するシステムを作るとしている。また,それら試料や情報の共有による金銭的および非金銭的利益は,多国間で公平かつ公正に共有することが必要と認識するとある。利益の共有について,「共有する」ではなく,「共有することが必要と認識する」という表現が,逆に大手製薬企業による独占/寡占を目論んでいることを暴露していると感じられる。
次に,IHR(世界保健規則)修正案は,第1条の「恒久的な勧告」とは(中略)拘束力のない助言を意味し,という文章から“拘束力のない”を削除するとしていることが,各国の主権を制限する意味を持つと批判されている。しかし,助言は助言であり,制裁を伴う命令ではないという反批判もある。
IHR第3条(原則)から「個人の尊厳,人権,基本的自由を十分尊重して」が削除されていることが,岸田政権が取り組み始めた憲法に緊急事態条項を盛り込む動きと連動していて危険だという批判がある。災害や戦争など緊急また非常事態においては,一時的,限定的な私権制限は必要だと思うが,この修正案については,そもそも問題とならないという反批判がある。というのは,上位規定であるパンデミック条約の第3条(一般原則とアプローチ)の第1項で人権の尊重,第2項で国家の主権平等および領土保全の原則ならびに他国の内政への不干渉の原則に合致した方法で遂行しなければならないとしているのである。
一方,IHR第2条の「公衆衛生上のリスク」を「公衆衛生に影響を及ぼす可能性のある全てのリスク」に変えていることは,WTOの権限を飛躍的に拡大する可能性を含んでいると,批判的に見る必要があるだろう。
IHR第12条(公衆衛生上の緊急事態の判断)は,事務局長が判断すれば,当該国との合意を求めずに発出できる。
さらに複数の条項で,ワクチン接種や予防措置の履歴や証明書などのデジタル化,入国審査の条件とすることが推進されている。
パンデミック条約案とIHR修正案に強い反対が起きているのは,戦後,平均寿命は伸びたが病気は減らず,金ばかりかかる医療が肥大化,言い換えれば医療・医薬品産業だけが成長してきたことがある。前述の2021年に出来たWCH(World Council for Health)は,①現行の医療は医薬品偏重で伝統医療・統合的癒しの手法を無視している,②大手製薬企業は医学研究を支配し,人と地球の健康や幸福より企業利益を優先している,③WHOが推進する中央集権医療システム「ワンヘルス」は,人々の健康と国家の主権を損なっている,④新型コロナワクチンは想定外の健康被害を生んでいる,などの批判を掲げている。
「新型コロナワクチンによる想定外の健康被害」は,日本については,1976年に発足した予防接種健康被害救済制度の認定者数を,厚生労働省が公表している。それを集計した数字を,マスメディアでは大阪サンテレビだけが報道している。それによると,制度が発足してから2021年までの45年間,全ての予防接種による健康被害として認定された総件数は3,522件。うち死亡例は151件だった。これに対して厚生労働省疾病・障害認定審査会,感染症・予防接種審査分科会,新型コロナウイルス感染症予防接種健康被害審査第一部会が先週3月11日に公表した2021年2月からの認定件数は6,580件,うち死亡例は493件である。ファイザーとモデルナのm-RNAワクチンが,突出して多くの健康被害を起こしていることは明らかである。また,3回目以降の接種の効果についても,オミクロン株に弱毒化した段階で追加接種を続ける意味があるかについて,海外では否定的な論文が提出されていると,ネットでは報じられている。
新型コロナワクチンのマイナス情報については,日本政府は一切ないことにしている。欧米に比べてワクチン確保に遅れをとった日本政府は,窓口をワシントンの日本大使館から,河野太郎氏を担当大臣に任命してファイザー社と交渉したと報道されている。その結果,遅れを取り戻す代わりに,極めて不利な条件を飲まされたと推測されている。ファイザー社は,ワクチンが欲しければ,接種の効果や副反応について,悪いデータは公表しないどころか調査すらしないという条件を要求したと,南米の国から暴露されたことがあった。
2022年春の参議院選挙で,参政党の神谷宗幣氏が街頭演説で次のように述べた。「知人の某市の市長から電話があり,ファイザー社がワクチン工場を建設したいので,認可が欲しいと言ってきた。感染は収束し始めたのに,今から建設しても売り上げが入らないでしょう? と聞いたら,日本政府が8年分を一括契約してくれたので大丈夫と言われた。自分は自民党員で,党の拘束があるからしゃべれない。あなたからしゃべってくれと頼まれた」。
河野太郎担当大臣は,ワクチンに関する否定的なことを質問されると,「デマです」以外の言葉をしゃべらなかったことも記憶に残っている。
要するに,票集めと金にしか頭が働かない政治家は,金で支配されているといいうことだ。アイゼンハワー大統領は退任演説で,「人の命を金に変える軍産複合体に気をつけろ」と警告したが,今は医産複合体が健康を人質にして富を集中している。医薬品は特定の病気の患者だけがマーケットだが,ワクチンは全人類がマーケットなのである。
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