世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
減少する日本の実質家計最終消費支出
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2024.02.19
マイナスに転じた家計貯蓄率
2月15日発表の日本の2023年10-12月期分GDP統計によれば,実質GDPは季節調整済前期比年率換算値で−0.4%と,7-9月期の同−3.3%に続いてマイナス成長となりました。小幅マイナスでしたので,来月発表の改定値でプラス成長に変わる可能性も残っていますが,一応,景気後退の目安とされる2四半期連続のマイナスであったことは,景気の変調を示すものと言えるでしょう。需要項目別に見ると,GDPの約53%を占める家計最終消費支出は,実質ベースで10-12月期には同−1.0%と,3四半期連続のマイナスとなりました。
内閣府がGDP統計の参考系列として公表している家計の実質可処分所得は,物価上昇によって減少基調にあります。現時点までに公表されている2023年7-9月期分では前年同期比−2.7%と,6四半期連続の減少となりました。また,家計の貯蓄率は,7-9月期には季節調整後で−0.2%と,2015年7-9月期以来のマイナスとなりました。物価上昇のために支出がかさみ,所得の伸びがそれに追い付いていないことから,結果的に貯蓄率が下がってしまったと見られます。家計の節約志向が強まっていることや,1月から新NISAが始まったことなどから若年層を中心に資産形成に努めようとする意識が高まっていることなどから,今後,家計貯蓄率は上昇に転じると予想されます。そのため,賃上げ,所得税減税,インフレ率の低下などで実質可処分所得が多少押し上げられても,実質家計最終消費支出の減少が続きそうです。
コロナ禍をきっかけに財消費支出比率が上昇
国内家計最終消費支出を財とサービスに分けると,財支出が消費支出全体に占める比率は,2019年には約41%であったものが,コロナ禍をきっかけに急上昇し,2023年10-12月期でも44%程度となっています。これはコロナ禍で旅行,外食などのサービス消費支出が減った一方,巣ごもりや在宅勤務などで食料品,家電製品,事務機器などの需要が増えたことと,そうした財の価格が大きく上昇したことによると見られます。ただ,長期的には経済の発展とともにサービス支出の比率が上昇する傾向が世界的にあり,コロナ禍の収束によって財支出の比率は今後低下しそうです。実質家計最終消費支出全体が減少する中で,財消費支出は大幅に減少することが予想されます。
下落に向かう財消費者物価
消費者物価指数を財とサービスに分けると,財物価は2021年から急上昇し,サービス物価に対する相対水準は,コロナ禍前と比べて約13%上昇しました。上に述べた財支出比率が低下する過程では,財物価のサービス物価に対する相対水準も大きく下がりそうです。過去,財物価インフレ率が一時的に上昇した後,マイナスに転じたことは多く,今回も財消費者物価が下落する公算が大きいと見られます。
12月の全国消費者物価指数は全体で前年同月比+2.6%,財は同+2.8%,サービスは+2.3%と財とサービスのインフレ率の格差は小さくなっています。ただし,財物価インフレ率は,昨年2月からのエネルギー価格高騰対策によって押し下げられている面があります。この2月には前年同月比で見た時のインフレ率押し下げ効果がなくなるため,一旦財物価インフレ率は再上昇するでしょう。しかし,その後は急速に低下し,今年末までには前年同月比でマイナスに転じるのではないかと見ています。全国消費者物価に占める財のウェイトは約50%であり,サービス物価インフレ率が2%で推移しても財物価が下落すれば,全体のインフレ率は1%以下になります。家計最終消費支出の減少によって日本経済が景気後退に陥ると共に,財物価を中心にデフレ化するリスクが高まっているようです。
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