世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3260
世界経済評論IMPACT No.3260

地震大国日本のエネルギー政策

小山洋司

(新潟大学 名誉教授)

2024.01.15

 今年の元日午後4時10分に発生した震度7の地震は能登半島に大きな災害をもたらした。1月11日の時点で,死者は206人,災害関連死は8人,安否不明者は52人に達した。能登半島では地震により道路があちこちで寸断され,救援や支援物資の輸送が困難になった。寒いなか住む場所を失い,苦しんでいる人が多くいる。

 能登半島の志賀町に北陸電力の志賀原発がある。1号機と2号機があるが,いずれも長期間運転を停止している。志賀原発には外部から2系統で電気供給されていたが,この事故により,この変圧器を使う1系統で外部から電気を受けられなくなった。1号機と2号機の使用済み燃料プールで放射性物質を含む400リットル以上の水が床面にあふれ出た。北陸電力によると,油が漏れた変圧器は放射線管理区域外にあり,油には有害な物質も含まれておらず,「環境への影響はない」,そして,非常用のディーゼル発電機があるので,安全上重要な機器の電源は確保されているとのことであった。幸い,志賀原発の場合,大事に至らなかったが,今回の大地震は,原発が地震などの自然の脅威に対してたいへん脆いことを教えている。

 専門家の調査によると,能登半島のすぐ北の海底では断層が生じ,それが佐渡の近くまで伸びている。新潟県でも,新潟市の西区やその他の軟弱地盤の地域で液状化現象が生じた。日本海側の特徴は,太平洋側とは違い,地震が発生すると,すぐに津波が襲来することにある。発生して早くも1分後には津波が輪島市やその他の地域を襲い,新潟県でも,上越市などを流れる関川を約5キロにわたって遡上した。東京電力は,柏崎刈羽原発では今回の地震による被害はまったくなかったと発表したが,燃料プールの水が600リットル以上あふれるなど大きな揺れが確認されており,安心はできない。

 地震はいつどこで起きるかはまったく予想できない。近い将来,日本海の海底で柏崎刈羽原発に近いところで起きたなら,とてつもない被害をもたらすかもしれない。至る所で道路が寸断され,避難は不可能になるだろう。2022年12月18日から20日にかけて記録的な大雪のため,新潟県では長岡市や柏崎市を通る国道17号や8号で激しい車の渋滞や立ち往生が発生した。とくに柏崎市の国道8号では22キロにわたって断続的に複数個所で立ち往生が発生し,一時,800台余りの車が巻き込まれ,多くの車が24時間以上も雪の中に閉じ込められたという出来事は記憶に新しい。こんなときに大地震が起きないとは限らない。

 アメリカでは原発に関しては,事故は起きるものだという前提で人里離れたところに立地すると言われる。アメリカのような広大な国ではそういう立地が可能でも,国土狭小な日本は不可能である。僻地に立地しても,近くには集落があり,さらにその先には都市が存在する。おまけに,日本は世界有数の火山国であり,地震国である。世界に占める日本の国土面積が0.25%であるにもかかわらず,マグニテュード6以上の地震の発生数は日本が18.5%を占めており,活火山の数でも7.1%を占めている。だから,他の国々と比較しても,日本の原発は地震や津波に襲われるリスクが非常に高い。

 ところが,このような地震国日本に多くの原発がつくられた。高まる電力需要に応えるため1963年10月に最初の原発が作られ,1990年代に入ってからはCO2の排出量を減らすためと称して,原発建設がさらに進められた。日本には17の地域に原発があり,54基の原子炉が存在する。日本の一次エネルギー供給構成を見ると,福島原発事故前の2010年には,総発電量に占める割合が最も大きかったのは石油で40.3%であり,ついで石炭(22.7%),LNG(18.2%)であり,原子力は4番目に多く,11.2%を占めていた。残りは再エネ等(4.4%),水力(3.3%)であった。2021年には,最も多いのが石油で36.3%であり,残りは石炭(25.4%),LNG(21.5%),再エネ(10.0%),水力(3.6%),原子力(3.2%)であった(資源エネルギー庁の資料)。2020年に政府は2050年カーボン・ニュートラルを達成するため再エネの最大限導入を含むエネルギー政策をまとめたが,問題なのは2030年においても原発の割合を20~22%を維持するとしていることである。そして,岸田政権は2022年7月にGX(グリーン・トランスフォーメーション)会議で原発の最大限活用と増設という政策を打ち出したが,これは福島原発事故の教訓を全く無視するものだと言わざるを得ない。

 昨年9月の定例議会で,花角新潟県知事は,原発が立地していることの経済効果を調査するという方針を明らかにした。知事は経済効果として,第1に,原発による地元企業への発注による「生産効果」,第2に,従業員が市内で買い物をすることによる「消費効果」,第3に,国からの交付金による「財政効果」を挙げていた。そして,経済効果を調べる範囲は立地自治体の柏崎市と刈羽村にととまらず,県全体となると知事は述べた。知事は経済効果という言葉を持ち出すことにより,原発再稼働の方向へ県民を誘導しようとしているように思われる。経済効果は少しあるだろう。だが,原発は万博とは違う。そもそも原発が新潟県にもたらす経済効果とリスクは比べものにならず,天秤にかけることができない。

 環境経済学者の研究によると,世界的には脱原発の方向に舵を切った国ほど再エネの利用が進み,原発に力を入れる国では力の分散により,再エネ利用が相対的に遅れることがわかっている。今回の能登半島大地震が提起した問題を真剣に受け止め,地震大国日本はドイツのように,原発の稼働を減らし,再エネの利用拡大にいっそう力を入れるべきであろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3260.html)

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