世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3239
世界経済評論IMPACT No.3239

2018年以降の米中分断から2023年にインドシフト:アメリカ企業のデカップリング

朽木昭文

(国際貿易投資研究所(ITI)客員 研究員・放送大学 客員教授)

2023.12.25

 中国,アメリカ,インドについて直接投資と輸出・輸入の視点から米中分断とアメリカ企業のインドシフトの状況を統計数字で明らかにする(注1)。

1.アメリカ企業の中国離れ:2017年トランプ大統領の就任以降の変化

 2017年にトランプ大統領が就任し,アメリカファースト政策を実施,自国雇用の創出のために関税引き上げ策を2018年に実施した。アメリカはこれにより中国からの輸入削減を目指した。2020年に中国はゼロコロナ政策を実施し,その結果輸出活動に支障をきたす問題が生じた。2022年にはロシアのウクライナ侵攻があり,中国がロシア寄りの政策に傾いたことからサプライチェーンの分断につながった。バイデン大統領はウクライナを支持し,ロシア包囲網を築くためにヨーロッパ,日本などの囲い込み政策を実施した。そして2023年3月には習近平総書記が3期目に突入した。こうした中で,2023年6月にインドのモディ首相が国賓としてアメリカを訪問した。

 これによりアメリカのインドシフトが加速した。このことを直接投資と貿易の輸出と輸入の統計により明らかにする。

2.中国から見た2018年以降のアメリカ企業との分断の進展

(1)2018年以降のアメリカ企業の中国への投資の減少(注2)

 中国の対内直接投資におけるアメリカの割合は,2017年が2%でピークで,それ以降は減少傾向となり,2022年には1.2%となった。更に,2023年の1~5月の直接投資実行額は,前年同期比で5.6%減少の843億5,000万ドルとなった。そして,習近平氏が訪米する2023年11月前の7~9月期の外国から中国への対内直接投資は「マイナス(引上げ超過)」になった(注3)。

(2)2023年上半期:2023年6月に中国企業のアメリカへの輸出が急減(注4)

 中国の主要輸出国はアメリカであり,2018年にはその割合が19.2%で2021年には21%まで上昇した。しかしながら,その後は急激に減少し,2023年上半期には14.4%まで減少,前年同期比の輸出伸び率は17.9%減少となった。また6月単月で見ると前年同期比の輸出伸び率は,23.7%の減少であり,中国から見てアメリカが最も大きな減少率の国の1つとなった。

 以上のように中国から見ると,アメリカから中国への投資の面でも中国からアメリカへの輸出の面でも,中国にとってのアメリカの重要性は2018年以降減少した。そして,特に2023年上半期に急激に減少した。

3.アメリカから見た中国との分断の進展

(1)2021・2022年に中国企業のアメリカへの投資が激減(注5)

 アメリカ側から見ると,中国企業のアメリカへの対内直接投資は,2021年と2022年にマイナスとなった。中国のアメリカへの直接投資残高をみても286億ドルと,日本の7,119億ドルの25分の1である。中国企業のアメリカへの対内直接投資は,アメリカから見て重要ではない。

(2)中国企業からの輸入は2018年以降減少,特に2023年上半期に激減(注6)

 アメリカの輸入を国別にみると,中国は2017年の約20%をピークとして漸減した(注7)。2021年の中国からの割合は17.8%で2022年に16.5%に下がり,2023年1~6月では13.3%と急激に減少した。

 このようにアメリカから見て中国の投資と輸入の重要性は減っている。一方で,インドにおけるアメリカの役割は2018年以降に重要性を増している。

4.インドから見たアメリカのインドシフト

(1)2018年以降のアメリカ企業のインド投資の増加(注8)

 インドの対内直接投資に関して,アメリカの占める割合は,2012年には2.8%であった。しかしその割合は2018年の6.4%から上昇に転じ,2020年に22%にまで上昇した。それ以降も2022年,2023年が18.1%と高水準を維持している。

(2)2018年以降のインドのアメリカ企業からの輸入増大(注9)

 インドの主要輸入国について,アメリカの割合は2014年に4.5%であったが,2018年の6.4%から上昇に転じ,2019年の7.5%以降,ほぼ7%前後で推移している。

 こうしてインドは,投資の面でも輸入の面でもアメリカとの関係を深める傾向にある。

5.2023年の決定打

 2023年3月に習近平氏は第3期に突入した。また,6月にはモディ首相の国賓として訪米し,アメリカGAFAなど先端・EV企業のインドへの投資を直接に促した。これらの要因が今回の統計に反映されていると思われる。(次回にインドの詳細を掲載)。

[注]
  • (1)朽木昭文『第387回産検レポート』(現代経営技術研究所,2023年11月13日発表)による。
  • (2)出所:国家統計局。
  • (3)日本経済新聞,2023年11月3日。
  • (4)出所:中国海関総署。
  • (5)出所:商務省統計。
  • (6)出所:商務省統計。
  • (7)出所:田中麻理「米国の貿易を中心に読み解く」(ジェトロ)。
  • (8)出所:インド商工省"Newsletter"。
  • (9)出所:商工省・通商情報統計局。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3239.html)

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