世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
物価上昇で息切れした日本の景気
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2023.11.27
予想を下回る実質GDPのマイナス成長
11月15日に発表された日本の7-9月期分実質GDPは,前期比年率換算−2.1%と,3四半期ぶりのマイナス成長となった。4-6月期に+4.5%(改定後)と高成長となったことの反動という面もあるが,事前に小幅のマイナス成長を見込んでいた市場予想コンセンサスを下回った点では弱いものだったと言える。実質GDPの水準を見ると,4-6月期にはコロナ禍前のピークだった2019年7-9月期をわずかに上回った。しかし,今回は0.4%下回った。コロナ禍からの回復の鈍さを伺わせる。
一方,名目GDPは,7-9月期には前期比年率換算−0.2%と4-6月期の+10.5%から急低下し,4四半期ぶりのマイナス成長となった。ただ,水準は2019年7-9月期のコロナ禍前のピークを4.8%上回った。この間にGDPデフレーターが5.3%上昇したことによって水増しされた形だ。
減少基調の実質雇用者報酬
景気の行方を探る上では,GDPの5割以上を占める家計最終消費支出の動きが注目される。7-9月期には実質ベースで前期比年率換算−0.2%と,4-6月期の−3.7%に続いて減少した。家計の所得の主たる源である雇用者報酬は,7-9月期には名目ベースでは前期比でほぼ横ばいに留まり,家計最終消費支出デフレーターで割り引いた実質ベースでは前期比年率換算−2.4%と減少した。実質雇用者報酬は,2021年1-3月期以降減少基調にあり,これまでに3.9%減少した。名目ベースでは同時期から3.7%増加したが,家計最終消費支出デフレーターがそれを大幅に上回るペースで上昇したことで,実質ベースでは減少している。
7-9月期の実質家計最終消費支出は,コロナ禍前ピークの2019年7-9月の水準を3.7%下回っており,コロナ禍からの回復ペースが実質GDPよりさらに鈍い。物価上昇による実質所得目減りの影響が強く出ており,回復は息切れしている。
金融政策正常化の機会を逸しつつある日銀
輸入物価上昇の国内物価への転嫁が進み,GDPデフレーターは,4-6月期まで3四半期連続で前期比年率換算+5%台後半の高い伸びを記録した。しかし,7-9月期には+1.9%に留まった。物価上昇で景気が息切れしたことで,物価上昇の勢い自体も鈍ったように見受けられる。消費者物価より変動が大きく,先行性がある国内企業物価の前年同月比上昇率は,昨年12月の+10.6%から今年10月には+0.8%まで急速に低下した。世界的にコロナ禍などで高まった供給制約が解消されてきたことや,主要各国の景気鈍化の影響が大きいようだ。
インフレ率の基調を示す消費者物価加重中央値前年同月比上昇率は,9月には+2.0%まで高まり,ようやく日銀が目標とする水準まで達した。ただ,国内企業物価の動きなどから見ると,上昇率は早晩,頭打ちになりそうだ。さらに,今後,米国の景気が鈍化して利下げ観測が強まる一方で日銀が金融緩和解除を進めようとすれば,大きく円高に動いて日本のインフレ率を一段と押下げる可能性がある。日銀は,インフレ率に見合う水準まで金利を引上げて,金融政策を正常化させる機会を逸しつつあるようだ。
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