世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
地域からの秀逸な発想とその営みを大きく育てよう
(立命館大学 名誉教授)
2023.11.20
コロナ禍を境に,世界を一色に染める画一的なグローバリゼーションが後退し,各国・各地域のローカルな特色を踏まえた,グローバルとローカルの結合,つまりは「グローカリゼーション」の流れが強まってきている。我が国でも政権の交代のたびに目新しい経済戦略が鳴り物入りで発表されるが,どれも国民の生活実感からはほど遠く,現実にフィットしたものとはなっていない。これではごく一部の人々や企業を除いて,推進はおろか,同感もままならないだろう。むしろ衰退の危機に瀕した伝統産業とその技を懸命に維持したり,再興させようとする地道で懸命な努力や,日常生活で気がついた,不足しているものに工夫を加えて事業化したり,あるいは全く新しいアイディアの実用化を企てる大胆な発想の転換にこそ,未来の芽が眠っているように思えてならない。もちろん,こうした企てが簡単に成功を収めることはないだろう。多くの失敗や挫折を味わうことになろう。だがそうしたことを恐れない果敢なチャレンジ精神にこそ,閉塞感の漂う我が国の沈滞からの脱出経路があるのではないだろうか。そのための事例をいくつかあげてみよう。
第一に「地産地消」の流れは確実だが,それをモータリゼーションと結びつけて大きなうねりにさせたのは,「道の駅」である。一般道路の休憩所脇に無造作に作られたこの施設は,農産物や特産品や日用生活品を並べ,日常的な生活感覚に溢れていて,盛況である。そこでは高速道路のサービスエリアに設けられた「土産物売り場」風施設を遙かに超えた実利を提供してくれる。多分,「日曜バザー」の延長線としてこのアイディアを考え出したであろう人々はユニークであり,しかも優れて平等精神の持ち主でもある。今日の知財化された時代では,このアイディアの創始者はこれを確実に「知財化」して,フランチャイズ方式での統一した店舗の運営を企画するのが通例だからである。そしてそこから「濡れ手で粟」とばかりに手数料収入を得るだろう。しかしそうはせずに,地方自治体と連携して,それぞれの地域に合わせた独特の品揃えと営業方式を採用している。
第二にリサイクルやリユースの利用は循環型経済への転換という流れに沿ったものである。筆者は「学生の街」に長らく暮らしているので,学生時代から先輩が卒業の際に置いていった机,書棚,家具,洗濯機などの調度品を受け継ぎ,それを利用し,かつまた後輩にも譲るという風習を当たり前のように続けてきた。この修繕,再利用,再加工の道がビジネスとして広がり,日常生活用の中古品市場が活発になるばかりでなく,それが家屋にまで及んで,増改築がブームになっている。建造物に新しい基準が適用されて,新築すると,より小さな家屋しか建てられないこともあって,リホームばやりである。その際に古民家の廃材を再加工,再利用して,見事過去を蘇らせる壮挙がおこなわれている。そこでは熟練の技を持っているのに引退させられていた高齢の職人を再雇用する副作用もある。そればかりではなく,過疎の村に次々に古民家を移築してニュータウンを建設し,コミュニティを創建するという壮大な夢を追求している建築家もいる。それは都会生活を離れて第二の人生を田園で送りたいという夢を持った人々の需要に答えることになる。
第三に主婦が少ない資金を出し合い,足りない部分はクラウドファンディングで賄い,原材料を共同購入し,共同で作業し,共同で営業し,そして利益を応分に分配するという「労働者協同組合(ワーカーズコープ)」の試みである。それはSDGsの「全ての人に働きがいのある仕事」(ディーセントワーク)という目標にも繋がるものである。これは既成の企業が敬遠しがちなニッチな部分を埋めたり,生産と近接した需要を満たしたり,予約生産によって在庫を最小にしたり,さらに事業が軌道に乗り,広がっていくと,働き手などを時期に合わせて相互に融通し合うといったこともできるようになる。
そのほかにも小学生が雑ゴミの袋の規格の統一化を提案したり,高校生が吹奏楽部の楽器の過不足と調整状態を「電子カルテ」を作って管理するばかりでなく,他校との間の貸し借りもおこなうといったアイディアも事業化されている。主婦が軍事用品を民用に転用して,今や世界中で家庭の必需品になった例は,サランラップが代表的だろう。
これらの事例からの教訓は,アイディアを温め,企業化のチャンスを狙い,最小の資本で小回りのきく経営を目指し,共創・共働・共営・共栄の精神を育むことである。生産者が同時に消費者でもあるという双方向性,在庫ゼロという需要と供給の一致による無駄の排除,誰もが生活を維持できるセーフティネットの敷設,仲間との共同意識の陶冶は働きがい,生きがいという共通財産を育てる。これらにこそ,未来の芽があるのではないか。
- 筆 者 :関下 稔
- 地 域 :日本
- 分 野 :国内
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
- 分 野 :経営学
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