世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本経済の立ち位置
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2023.10.30
先進経済平均を大きく下回る1人当たりGDP
IMF(国際通貨基金)やOECD(経済開発協力機構)は,各国の経済データを国際比較がしやすい形で提供している。それらを用いて日本経済の立ち位置を確認してみよう。
まず,10月10日に発表されたIMF世界経済見通しのデータベースから,先進経済(IMF分類では41か国・地域が該当)の1人当たりGDPを市場為替レートで換算したデータを用いて,所得水準を比較する。先進経済の平均を100とすると,日本の1人当たりGDPは,1994年には174.5と,先進経済の平均を7割以上回った。国・地域別順位ではルクセンブルク,スイスに次いで3位であった。ところが,2022年には58.7と,先進経済平均を4割以上下回った。順位は先進経済中27位に低下した。
ただ,このデータは為替レートの変動の影響を受けやすく,実際の経済的豊かさを比較する上では,購買力平価為替レートで換算したデータの方が適切だ。こちらでは,日本の1人当たりGDPの先進経済平均に対する相対値が最も高かったのは1991年の117.9であり,順位は10位であった。それが2022年には71.8に低下し,順位は30位になった。購買力平価換算の場合,相対値の低下の程度は市場為替レート換算の場合より小さい。ただ,日本の経済的豊かさが相対的に後退していることは明らかだ。こうした購買力平価換算値で見た日本の1人当たりGDPの相対値の低下は,日本経済の生産性上昇率が先進経済の平均を大幅に下回ってきたことに起因している。
総投資GDP比率は相対的に高い
日本経済の生産性上昇率が低下したのは,1990年代初めのバブル崩壊をきっかけに,投資が大きく減退したことによるという見方がある。上記のIMF世界経済見通しデータベースによれば,日本の総投資のGDP比は,1990年の35.6%から2009,2010年には22.6%に低下した。ただ,それ以降ある程度回復し,2022年には26.7%となった。また,日本の水準は一貫して先進経済平均より高い。先進経済平均は1990年には26.0%,2009年には20.0%,2022年には23.2%であった。総投資のGDP比が先進経済平均より常に高いのにもかかわらず,日本経済の生産性上昇率が先進経済平均を長期的に下回り続けている点では,日本経済の立ち位置の後退は,投資の量の問題ではなく,投資効率の低さによるものと言えるだろう。
日本の所得格差は小さくない
日本経済の生産性を向上させるためには,衰退産業から成長産業への生産資源や雇用のシフトや,ジョブ型雇用などによる専門性の高い人材の活用が必要だと言われている。ただ,産業構造や労働市場の変化が大きくなると,それによって恩恵を被る人と,取り残される人との間の経済的格差が拡大しやすい。
OECD.Statで,勤労年齢層(18~65歳)の可処分所得分布の格差度合いを示すジニ係数を調べてみる。上のIMF分類で先進経済とされた国・地域のうちデータが取れる32か国の直近値(国によって2017~2021年時点。日本は2018年時点)を比較すると、日本は高い方から9位である。先進国の中で,日本の所得格差は決して小さい方ではないことがわかる。衰退産業の縮小や雇用改革によってこれ以上格差が拡大しないように,税制,社会保障,教育,リスクキリング等の改革も必要だろう。
いずれにせよ,マクロ経済的な金融・財政政策で景気を刺激し,投資を促すことでは,日本経済の立ち位置の後退を食い止められそうにはない。日本に住む人々みんなの生活をより豊かなものにするには,生産資源,雇用,所得の効率的かつ公平な配分というミクロ経済的な政策が求められているようだ。
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