世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3144
世界経済評論IMPACT No.3144

中国がAOIPを支援:第26回ASEAN中国首脳会議

石川幸一

(亜細亜大学 特別研究員・ITI 客員研究員)

2023.10.09

 中国がASEANのインド太平洋構想であるAOIP(インド太平洋に関するASEANアウトルック)への支援を行うことが2023年9月にジャカルタで開催された第26回ASEAN中国首脳会議で合意された。AOIPは2019年6月の第34回ASEAN首脳会議で採択された。中国は,その直後の2019年7月に王毅外相が記者会見でAOIPに対する支持を表明している。2020年の首脳会議では,ASEAN側がAOIPの原則を確認し主要協力分野でASEAN主導のメカニズムによる協力を呼び掛けた(注1)。2021年の首脳会議では,ASEANが中国にAOIPへの協力を呼び掛け(注2),2022年の首脳会議ではAOIPの優先4分野への協力の支持,一帯一路構想(BRI)とAOIPの互恵的な協力の促進に合意していた(注3)。そして,2023年の共同声明では,「AOIPへの互恵的な協力に関するASEAN中国共同声明」を発出し,AOIPへの協力を明確に打ち出した(注4)。

 AOIPの特徴は,ASEAN中心性に加え「包摂」を原則とし,新しい枠組みを作らずEAS(東アジアサミット)など既存の枠組みで構想を進めることである(注5)。また,経済社会開発のための協力(ASEANに対する協力)を重視している。「包摂」は特定の国(明示していないが中国)を排除しないことを意味しており,EASなど既存の枠組みには中国が参加している。AOIPは中国を排除しないインド太平洋構想なのである。中国はFOIP(自由で開かれたインド太平洋構想)やQuadを中国封じ込めと見なして反発していたが,AOIPは中国が受け入れ協力可能なインド太平洋構想であった。

AOIP優先協力4分野で協力

 協力の内容をみてみよう。①「海洋協力」では,ASEAN中国ブルーエコノミーパートナーシップによる協力の推進,海洋環境保護,海洋生物多様性,海洋資源の持続的利用などで協力を行うとしている。②「連結性」では,ASEAN連結性マスタープラン(MPAC)2025と一帯一路構想のシナジー実現についてのASEAN中国共同声明の実施,国際産業能力協力のための経済回廊と実証ゾーン建設による地域的連結性の深化,戦略的連結性についての中国シンガポール実証イニシアチブ,新国際陸上および海上貿易回廊へのASEAN加盟国の参加,ASEANスマートシティネットワーク構築,デジタルイノベーションと連結性,サプライチェーン連結性と強靭性の強化,ASEAN中国航空輸送協定(AC-ATA)の第3議定書の実施,中国とASEANおよびASEAN以遠との航空サービス自由化などが含まれる。

 ③「国連持続的開発目標の実施」については,ASEAN中国技術協力協定の強化,エネルギー・トランジション,グリーン成長,食糧安全保障,科学技術イノベーションの加速のための技術協力,気候変動についての対話の実施,ASEAN気候変動センターとASEAN中国クリーンエネルギー協力センター設立支援,ASEAN持続的開発研究対話センターとASEAN生物多様性センター設立支援などが含まれる。

 ④「経済およびその他の分野」は多様な分野が含まれる。経済統合ではRCEPの全面的実施,ASEAN中国FTA(ACFTA)3.0の交渉加速があげられ,デジタル経済ではASEAN中国電子商取引協力イニシアチブの実施,持続的で環境に配慮した強靭な農業開発協力,零細中小企業開発協力,ASEAN中国サイバー対話などが対象となっている。ASEAN域内格差是正では,ASEAN統合イニシアチブ(IAI)作業計画(2021−25)の実施によるASEANの格差是正と統合への取組みを支援するとしている。具体的にはインフラ建設,人的資源開発,情報通信技術開発,サブリージョナル開発の強化などである。

 2024年はASEAN中国人的交流年に指定され,文化・教育・青年・観光・スポーツの交流を強化する計画である。また,ASEAN中国協力基金の利用,世銀,ADBなどの国際金融機関が協力プロジェクトを支援することを歓迎するとともにAOIPの4分野の焦点を当てたASEANインド太平洋フォーラムの成功を歓迎している。

 中国のAOIP支援は極めて多様であるが,内容をみると既存のASEANへの協力プログラムが数多く含まれている。また,イニシアチブ,計画,協力などが多く,日本や米国のきめ細かな支援と比べるとやや具体性に欠けており,具体的プログラムはこれからと思われる。AOIPの優先協力4分野(海洋協力,連結性,国連持続的開発目標(SDG),経済およびその他の分野)には,日本,米国,豪州,インドが協力をすでに実施している(注6)。中国以外にニュージーランド,韓国が今年の一連の首脳会議で支援に合意している。インド太平洋で対立している米国と中国がAOIP支援に参加し,また多くの対話国がAOIP支援に参加することはASEAN中心性を具現する外交的成果といえよう。

[注]
  • (1)Chairman’s Statement of the 23th ASEAN-China Summit, 12 November 2020.
  • (2)Chairman’s Statement of the 24th ASEAN-China Summit, 26 October 2021.
  • (3)ASEAN-China Joint Statement on Strengthening Common and Sustainable Development. 11 November 2022.
  • (4)ASEAN-China Joint Statement on Mutually Beneficial Cooperation on the ASEAN Outlook on the Indo-Pacific. 6 September 2023.
  • (5)AOIPについては,石川幸一(2020)「ASEANのインド太平洋構想(AOIP):求められる構想の具体化とFOIPとの連携」,ITI調査研究シリーズNo.101,国際貿易投資研究所,が詳細な説明を行っている。
  • (6)日本の具体的な事例については,外務省「日ASEAN,AOIP協力の取組(例)」,2021年10月を参照。米国のAOIP協力は,石川幸一(2021)「米国のインド太平洋構想とASEAN支援」アジア研究所紀要,第48号,亜細亜大学アジア研究所,7−10頁,豪州の協力については,石川幸一(2022)「豪州のAOIP協力」世界経済評論インパクト,No.2771,を参照。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3144.html)

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