世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3139
世界経済評論IMPACT No.3139

ラオスと日本との絆のシンボル:ナムグム第一水力発電所を訪ねて

橘川武郎

(国際大学 学長)

2023.10.02

 2023年7月,JICA(国際協力機構)がラオスで取り組む「炭素中立社会に向けた統合的エネルギーマスタープラン策定プロジェクト」の有識者会議メンバーとして,ナムグム第一水力発電所を見学する機会を得た。首都ビエンチャンから北方へ車で1時間ほどの距離に位置する同発電所は,琵琶湖の半分ほどの広さをもつ70億㎥の巨大な貯水池(ナムグム湖)を擁する,大規模なダム式発電所である。メコン川の支流であるナムグム川を堰き止めて造られたナムグムダムの堤長は468m,堤高は70mに及ぶ。

 ナムグム川の水力開発の可能性をいち早く見抜いたのは,日本工営の久保田豊(1890〜1986)。日窒コンツェルンの野口遵(したがう)(1873〜1944)と力を合わせ,1941年に当時世界最大級の水豊ダムを朝鮮北部に建設した経験をもつ久保田は,メコン川流域の水力開発のポテンシャルの高さに着目し,1958年から日本やアメリカなどの政府に開発支援の必要性を説得して回った。

 その結果,日本・オーストラリア・カナダなどの援助が実現し,ナムグムダムが完成したのが1971年。ベトナム戦争およびラオス内戦の真っ最中の出来事であり,当時のラオス首相スワンナ・プーマ(中立派王族)が,同ダム予定地周辺を,ラオス王国派とパテト・ラオとのあいだの中立地帯に指定したことによって建設が可能になったという,逸話をもつ。

 ダム完成の翌年に当たる1972年に運転を開始したナムグム第一発電所の当初の出力は,1・2号機各1.5万kWの計3万kWであった。その後,1・2号機の設備更新・増強(計3万kW→計3.5万kW)や,3〜8号機の増設(各機4万kW)が行われ,現在では,同発電所の総出力は,27.5万kWに達している。

 これらのうち,JICAは,1・2号機の設備更新・増強と6号機の増設に関与した。なお,少し離れた場所に立地する7・8号機の増設は,中国の援助によって実施された。

 ナムグム第一発電所が生み出す電力は,ビエンチャン首都圏を中心にラオス国内で広く使われている。それだけでなく,国境を越えて,タイにも輸出されている。そして,巨大なナムグム湖に貯えられた水が,農業用,水道用としても活用されていることも,見落としてはならない。

 ナムグム第一発電所では,整然と並ぶ1〜6号機を間近から見ることができた。たまたま運転停止中であった6号機では,水車の本体を目の当たりにもした。発電建屋からダムの堤頂に足をのばすと,猛暑であったにもかかわらず,ナムグム湖からわたる風が心地よかった。遠くの湖上には漁船と思われる船が浮かんでいたし,近くの湖中には大きな魚影も確認することができた。

 水力発電事業は,ラオス経済を支える重要産業であり,外貨の獲得に大きく貢献している。その水力発電に関して,JICAは,ナムグム第一発電所のほかにも,ポンサリー県で小水力発電設備を無償供与している。ラオスの電気事業に関しては,太陽光発電の設置や南部地域の電力系統整備も支援している。

 そのほかにもJICAは,ラオスで,水セクターの整備,空港・道路等の拡充,法制度の整備,人材の育成などに取り組む。ラオスと日本との絆を確認することができた,夏の一日であった。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3139.html)

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