世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3125
世界経済評論IMPACT No.3125

G7(主要国首脳会議)におけるEU:その意味

児玉昌己

(久留米大学 名誉教授)

2023.09.25

 今日はG7(Group of Seven)のことを書こう。

 今年2023年5月,第49回となるG7広島サミットは歴史に残るものとなった。ウクライナ戦争の渦中にあるゼレンスキー大統領が参加したためだ。広島サミットでは,一時は自国の連邦予算支出の問題でバイデンが来日できるか,ZOOMでの参加になるのかで気を揉んだが,最終的にはバイデンの訪日決断でロシアとの戦争状態にあるウクライナからゼレンスキー大統領も来日でき,広島サミットの意義は格段に高まったといえる。

 G7とは元来アメリカ,イギリス,フランス,ドイツ,イタリア,日本,カナダの7か国をメンバーとした会議に由来する。しかし忘れてはならないのは,国際統合組織であるEUがそのメンバーであることだ。

 EUは国家ではないので,non-enumerated member(数に挙げられていないメンバー)と表記されている。往々にして忘れがちで,親ロシア派の中は,「たかが7か国」と,意図して過小評価するものがいるが,G7における27カ国を擁するEUの存在を分かっていない。

 G7の設立の背景を言えば,今から50年ほども前,1973年10月の第4次中東戦争を契機に発生した第1次石油ショックによる国際的な深刻な経済危機に直面した主要国の間で,世界経済を討議する場の必要性が認識され,フランス大統領ジスカールデスタンが呼び掛けて,1975年11月に第1回会合が行われた。

 当初は「G5」として開催予定であったが,イタリアも参加を表明し,6か国で第1回首脳会議が開催された。翌1976年にはカナダが加入,以降G7が定着した。その後冷戦終結に伴い1998年にはロシアも加わり,G8となった。

 ちなみに先進国でないロシアが加盟したために名称が先進国首脳会議から主要国首脳会議に変更されたともいわれている。

 G7の開催は,75年の第1回会合から2023年までに49回に及ぶ。そのG7の歴史で,2020年に一度不開催となっている。それは例の単独主義者のトランプ米大統領の時下のことである。外交的にはコロナ禍の広がりが理由とされるが,プーチンと親しい関係にあったトランプ大統領はG7の意義を否定的にみており,さらに自身の所有するホテルを会議場に希望するなど紆余曲折を経て開催が見送られた。

 1988年にG8のメンバーとなっていたプーチンのロシアは,2014年のクリミア侵略で同国のG8参加が問題視され資格停止となり,以降G7に戻っている。その年は主要国の首都ではなくEUの首都というべきブリュッセルで開催されている。

 小稿の対象であるEUがいつからG7に参加したかといえば,G7発足の2年後の1977年からである。すなわち,G7の初開催から間もなく,EUはこの会議のメンバーとなっているのである。EU(当時EEC)を代表して初参加したのは,欧州委員会のロイ・ジェンキンス(英労働党出身)であった。

 日本との関連では,1979年の第5回のG7が初の東京開催となった。その際,宮中での招待行事の程で,ジェンキンス委員長の皇居正門からの入場について,日本では前例がなく,その待遇を巡り外務省や宮内庁で調整があったように記憶している。これと関係することだが,公式の記念写真撮影はG7の首脳だけである。

 記念撮影でいえば,翌年のヴェネチアサミット(1980年)から主要国首脳と並んでいるジェンキンス欧州委員長の姿を確認できる。一つ一つ主権国家の長と同格としてEUは実績を積んで今に至ったといえる。

 G7の歴史について背景説明をしたが,本サイトの読者諸賢は気づかれていただろうか。広島サミットの映像では7か国の首脳だけでなく,9名が映っている。なぜ9名なのか。

 その2名が,まさにEUの代表のゆえにである。即ちシャルル・ミッシェル欧州理事会常任議長(EU大統領)とフォンデアライエン欧州委員会委員長である。

 G7は少なくとも7つの主権国家に加えて,EU24カ国を含めた31カ国の会合となっているのである。

 どうして主権国家の会合として始まった主要国の会議にEUがメンバーとなっているのだろうか。それこそ今日のテーマである。EUがまだECといわれていた1970年代後半にはこの国際組織が極めて重要な存在となっていたことを示すものである。

 しかも指摘すべきことは,独仏伊はあくまでそれぞれの主権国家の利益の代表であり,彼らがEU全体の利益を代弁するものではないという国際統合組織EUの性格にも由来するのである。

 ところでアセアンでは,日中韓が入る東南アジア諸国連合(アセアン)プラス」という会合もあるが,日中韓はアセアン憲章を批准したメンバーではない。それゆえアセアン・プラスとなる。だが,G7の場合,アセアンとは違い,EUはG7プラスではない。実態としては「G7・EU」というべき会合なのである。

 G7から離れても,EUの統治構造でも,EUのサミットというべき加盟国の首脳の会議で,最高意思決定機関ともいうべき欧州理事会がある。その会議でも,加盟国の首脳に加え,欧州理事会常任議長だけでなく,欧州委員長も加わっている。EUの行政府でEU法の独占的な発案権を持つ欧州委員会が参加しないとEUは政策の実践で動けないのである。

 人口規模でも,イギリスが離脱したとはいえ,ヨーロッパの主要国の独仏伊を入れて,4億4700万の人口である。EUの一体性からして,そしてEUの制度上からも,主権国家の独仏伊の3国だけで,EUが関わる事柄は決められないのである。G7でも全く同じことである。

 なお広島サミットの記念写真ではイタリアのメローニ首相が国内の洪水対策で閉会を待たずに帰国した。それにより最終日の写真ではイタリアの首相代行者は向かって左端に立ち,欧州理事会議長は左端から2番目に立ち,主権国家の長の代理とEUの代表であるEU常任議長とは立ち位置が変わっている。各国も首脳の代行者となれば,EU大統領の席次が上位となることを示唆している。

結論

 小稿の結論として言うべきは,G7という表記から,それが主要な主権国家の会合として理解されるべきでないことである。EUがG7のメンバーとして,会合開催の早い段階で参加し,EU事項に関しては,EU独自の利害を欧州理事会と欧州委員会の2つの主要機関が代弁していることを,そして,より正確にはG7は「G7・EU」会合であることを我々は改めて意識しておく必要がある。すなわちG7の主要国家だけでなく,スペイン,オランダ,デンマーク,ギリシャ,バルト諸国,ポーランド,ハンガリーなど,24の加盟国を含め27の全EU加盟国をそのうちに取り込んでいるということを,である。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3125.html)

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