世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3120
世界経済評論IMPACT No.3120

深まる習近平一強不況:中途半端な政策とちぐはぐなメッセージ

遊川和郎

(亜細亜大学アジア研究所 教授)

2023.09.18

 厳格なゼロコロナ政策が終了したことにより,年初には上振れの予想が多かった中国経済だが,その後発表される主要経済指標は市場予想を大きく下回り,減速感が鮮明になっている。こうした状況に危機感を強めた中国政府は7月後半から次々と景気のテコ入れ策を打ち出す。消費喚起,民営企業(民間投資)振興,外資利用,株価・不動産対策などの領域である。

 消費は昨年の反動から旅行や飲食などのサービスは比較的好調だったが,自動車や家電などの高額商品を中心に振るわず,月を追って失速した。これに対し,国家発展改革委員会は7月28日,「消費回復・拡大に関する措置」(消費拡大20条)を発表,消費拡大の妨げになっていると思われる制度障壁を取り除き,サービス分野や農村,デジタルなど新分野の消費拡大を謳った。

 景気けん引の期待がかかる民営企業に対しては7月19日,「民営経済の発展・成長促進に関する意見」(民営企業31条)を発出して民営企業に対する支持を再度強調。参入障壁除去や資産の保全など民営企業を取り巻く不安の緩和を図り,積極的な投資を促した。

 外資の力も借りなければいけない。今年1~7月の中国へのFDI(海外直接投資)は前年同期比9.8%減の1118億米ドルでこれも減少幅は月を追って拡大している。7月25日付で「外商投資環境のさらなる最適化と外商投資誘致の強化に関する意見」(外商24条)を発出し,各地方,国務院各部に投資環境の改善,誘致の質の向上,強化を促した。

 景気動向を反映して冴えない株式市場についても活性化に乗り出し,証券取引印紙税の税率を半減する措置を8月28日から実施した(印紙税引き下げは2008年以来)。また新規株式公開(IPO)のペースを抑制し,主要株主の株式保有削減を一段と規制することも発表,その直後には株価は上昇したものの,その後は失速している。

 直面する最大の課題である不動産に対しては,7月24日の中央政治局会議でこの問題を語るときのお約束である「房住不炒(住宅は住むためのもので,投機のためのものではない)」の文言がなかったことで,政策の変化に対する期待が高まった。8月末には「認房不認貸」制度の導入を発表。同制度は過去にローンで住宅を購入した場合でも,現時点でその都市に物件を保有していなければ,初めての購入と見なして頭金比率とローン金利の優遇が適用されるというもので,過去10年余り行われていた投機抑制のため規制を解除するに等しい。広州,深圳,上海,北京の一線都市が相次いで同制度導入を発表したことから,住宅政策の大転換と見なされて9月に入って不動産市場は活況に転じ,低迷していた不動産株も爆上がりした。

 ここまで各分野での景気対策を長々と列挙したが,どの政策も過去の政策をなぞったような焼き直しや継ぎ接ぎでほとんどインパクトはないのである。薄日が差したかに見られた不動産市場も目先の需給関係を緩和しただけで,どうやら長続きしそうにない。経営不振に陥ったデベロッパーをどうするのか,根本的な解決の道のりは見えない。

 なぜどの政策もこうした中途半端なことになるのか。経済政策の実権は李強首相を筆頭とする国務院ではなく,党中央に集約された。すなわち全て党中央=習近平総書記の意向を踏まえなければならず,冒険などできるはずがない。中央政治局会議の包括的な決定(方針)をいかに具体化すればよいのか,忠誠を疑われないように,主席の発言や文脈を懸命に読み解き,そこから決して逸脱しないと思われる施策を恐る恐る出しているのである。

 ちぐはぐなメッセージも政策効果を減殺する。外資誘致促進を叫ぶ一方で国家安全強化の方針は全てに優先する。国家移民管理局が発表した今年上半期の統計では,中国に入出国した外国人は843.8万人でコロナ前2019年の同期間3097万人と比較するとわずか15%に過ぎない(日本政府観光局による同期間の訪日外客数は1071万人)。7月から改正「反スパイ法」が施行されるのを受け,米国政府は6月,中国で活動する米国や外国企業による通常のビジネス活動が中国当局からスパイ行為として「不法な拘束」を受けるリスクを警告,中国への渡航再考を促した。日本でもビザ取得の煩雑さを含め,訪中のハードルは高いままである。

 都合の悪い統計は急きょ発表が取り止められる。民営企業に対する支持は些かも揺るがないと強調するものの党の指導は絶対だ。いつ風向きが変わるか分からない。寄付の強要など富む者を目の敵にするような共同富裕や学習塾への規制など極端な世直し政策は,経済活動を委縮させ混乱を引き起こすだけで,その目的は達せられないでいる。

 世直しに明け暮れる習近平体制は10年を超え,改革開放の日々は次第に遠のいていく。数年後にはもっと息苦しい社会が到来していることは予測できても経済活動が再び活況を呈している姿はなかなか想像し難しい。世直しはしても明るい未来が見えてこない。これが習近平一強不況の正体なのである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3120.html)

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