世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
生成AIの登場,半導体の飛躍的発展を牽引:AMDのCEOリサ・スーの予言
(九州産業大学 名誉教授)
2023.07.31
台湾国立大の名門である陽明交通大学は,AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイス)のリサ・スー(Lisa Su=蘇姿丰)最高経営責任者(CEO)兼会長(Char)の半導体産業に対する多大な貢献を称え,名誉博士号を与えることを決め,7月20日に授与式を行った(【完整公開】LIVE 蘇姿丰獲頒 陽明交大名譽博士學位)。
9歳でアメリカに移住したNvidiaのCEOジェン・スン・フアンと同様,リサも3歳の時に親とアメリカに移住した。台湾系アメリカ人を代表する有名な企業家である二人は親戚関係で,リサはフアンの姪に当たる。
リサはMIT(マサチューセッツ工科大学)の電気工学科で学士,修士,博士の学位を取得した秀才。テキサス・インスツルメンツ(TI),IBM,フリースケール・セミコンダクターなどの企業を経て,2012年1月,AMDに上級副社長兼総支配人として採用された。同年6月,アナログ・デバイセズ部門の取締役に就任し,2014年10月にAMD初の女性社長兼CEOに任命された輝かしい学歴と履歴の持主である。本稿では「AI(人工知能)の女王」とも呼ばれ彼女が授与式で行った講演の概要を紹介する。
リサ・スーの講演要旨
林奇宏(陽明交通大学)学長,王蒞君(電機学院)院長,ゲスト,学生の皆さん,本日はこのような大きな名誉を与えてくださり有難うございます。非常に光栄であり,名誉博士の称号を謹んで拝受いたします。
陽明交通大学の基本理念は「偉大な大学には学際的人々が集まり,世界の真なる課題を解決する」ことであります。これは私のハート(信念)と近く,研究,ビジネスを問わず,突出したイノベーションを生み出すには,異なった分野の学際的な視角が必要であると深く信じています。
私は学長,電機学院院長および学院のすべてのスタッフが次世代のリーダーを育成することに努めていらっしゃることに,心から尊敬の念を抱いております。私自身もMITの教授から,学生を育成しようとする指導を受けなかったら,本日ここに立つことはなかったでしょう。今日は,多くの学生皆さんが会場,オンラインで参加してくれているので,少しの時間をかけて私の物語を皆様に披露します。
私は電機学科の学生だった当時,世界を如何にすれは大きく変えることができるかを考えていました。MITには多くの聡明な学生がいて,私は何を研究テーマにするか非常に悩みました。しかし,初めて半導体試験室に足を踏み入れた時,インスピレーションが沸きました。私が試験室で半導体チップに触れ,感じ,私の真なる情熱は物事を創造することだと悟ったのです。そして,私は半導体の領域でMITの博士号を取得しました。
当時,多くの人々は半導体について興味も知識も持っていませんでした。しかし,私は半導体が世界を変えることができると信じていました。ここ数年間の出来事が私たちに教えてくれるのは,半導体が私たちの生活の様々なところで極めて重要な存在になったということであります。そして台湾は,世界における半導体サプライチェーンの中心地であると,改めてこの訪台で感じました。台湾の人材,リソース,そしてイノベーションを生み出す文化とスピリットが,台湾に優れた半導体システムをもたらしたと再認識しました。
私が半導体業界に身を置き約30年になります。この業界において,皆が力を合わせて世界を変えてゆくことに,私は誇りをもっています。私の目の前で起きるイノベーションのチャンスは,巨大スーパーコンピューターによって非常に速いテンポで進展しています。その最たるものがAIの登場と言えるでしょう。そして,生成AIは今後の10年か,それ以上の期間で,世界の主な趨勢となるでしょう。
世界中の製品やサービス,そしてそれを作り出す企業は,AIの影響を受けるようになります。AI技術は,私たちが過去で見た如何なる分野より速いテンポで進化して来ました。AIには,ハード,ソフト,システム,応用からビジネスモデルなどの学際的技術の融合が必要であります。まさに,陽明交通大学が強調する多くの学科の学際的なソリューションで,異なる視角で課題解決策を求めていくものであります。学際的技術は,人々を興奮させ,そして心を一つに協力させ,半導体産業をさらに発展させるチャンスをもたらしたのです。
最後に,AMDの同僚,私に協力してくれた全てのパートナーおよび台湾の全ての友人に感謝を申し上げたいと思います。この名誉博士号は私たちが共同で成し遂げたことの成果であります。
今日,私は陽明交通大学ファミリーの一員になれたことを心から嬉しく思っておりますし,未来は楽観に満ち溢れていると確信しています。ハイテクを使って世界で最も困難な課題に挑戦し,重要な役割を演じていきます。林学長,王院長および陽明交通大学のすべての教職員たちと学生に感謝します。ありがとうございました。
学生の質問に答えて
「なぜ,女性がAMDのCEOになれたのか?」の問いに対し,「女性の技師の方か聡明だからでしょう」と語り,観衆の笑いを誘った。
私が電機を好きな主な理由は,白黒がはっきりしているからです。一つの製品を開発する時,成功するか,失敗するかが,はっきりしているからです。男女を問わず,電機は非常に高い専門性を必要としますが,私の経験で最も良かったチームは,異なる分野のメンバーが存在し,最良のアイデアとソリューションを見つけ出せる体制でありました。同じバックグラウンドの人材しかいない場合,私たちは同じような考えしか持てない,狭い視野の人材の集まりになってしまいます。
台湾の半導体産業は大変優れています。台湾の半導体産業の発展は,想像を超える速度で非常に高い効率をもって進んでいます。新竹サイエンスパークだけでも多くの人材と多くのリソース,優れた文化と環境を持ち,企業はイノベーションの力を発揮することができます。
これまで長い間,一部の人々は(“ムーアの法則の終焉”を捉えて),「半導体技術は終焉に達した」と主張しました。彼らは20年前に既に「半導体は極限に達した」とし,その後,「10年以内に終焉を迎える」と述べていました。
ところが,半導体は今もこれからも“終点”には達しません。その理由は,人間は聡明で,誰かがもっと良い方策を常に考えだすからです。伝統的技術で極限に達しても,私たちは異なる材質の原料や2.5Dや3D(ロジック半導体やメモリーなどを立体的に封止める)技術などの異なる方法で課題を解決していくからです。
生成AIの領域からも見ることができるように,進歩は非常に速いです。6カ月前,3カ月前と1カ月を比較すると分かるように,短期間に大きな変化が見られます。AIのハードウェア,ソフトウェア(データバンク),言語モジュール,応用シフト,システムなど,学生にとって多く潜在的な研究領域が存在しているからです。私が学生の皆さんに提案したいのは,ハイテク領域で広い視野を育むことです。私たちが学ぶ理由は,単に今日の課題だけでなく,明日の課題をも解決してゆくためだからです。
[参考文献]
- 朝元照雄「“Run!Don’t Walk!”:台湾大学卒業式でNVIDIAのCEOの言葉」世界経済評論Impact No. 2993,2023年6月12日。
- 朝元照雄「台湾名門大学「半導体学院」の設置:“日本の凋落”からの挽回策」世界経済評論Impact No.2668,2022年9月12日。
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