世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
判断が難しい足元の米国景気情勢
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2023.07.17
製造業・非製造業ISM景気指数の乖離
この1,2週間に発表された米国の主要経済指標は強弱が入り混じり,景気判断が難しくなっている。
6月のISM(全米供給管理協会)景気指数を見ると,製造業指数は前月比で低下し,47.0とコロナ禍初期の2020年5月以来の低水準となった。強弱の分岐点である50を8か月連続で下回っている。一方,非製造業指数は前月比で上昇して53.9となり,5か月連続で50を上回った。両者の差は大きくなっている。非製造業の方が経済全体に占める比率は大きいので,景気は総じて見ればまだ堅調と言えそうだ。ただ,製造業の方が先行性があり,景気は減速方向にあるとも捉えられる。
総労働時間,賃金総額は緩やかに鈍化
6月の雇用統計によれば,失業率は3.6%と依然低水準であり,労働需給の逼迫が続いていることが示唆される。一方,非農業就業者数は前月比20.9万人増,非農業民間部門では同14.9万人増といずれも事前の市場予想を下回り,過去2か月分も下方修正された。
民間非農業部門就業者数に平均労働時間を掛けた総労働時間は,労働投入量の指標となる。6月の労働投入量は前月比+0.4%,前年同月比+1.9%と5月の伸びを上回った。労働投入量に時間当たり賃金を掛けた賃金総額は,企業にとっては労働コストの指標であり,家計にとっては主たる所得の指標と言える。こちらも前月比+0.8%,前年同月比+6.3%と5月の伸びを上回った。
両方とも前年同月比増加率は傾向的には徐々に低下しているが,景気後退の接近を示唆するほどではないようだ。
GDPとGDIの乖離
米国の国民所得統計を観察していて謎深いのは,足元での名目GDP(国内総生産)と名目GDI(国内総所得)の乖離だ。三面等価の原則からすれば,生産・支出側から見たGDPと所得側から見たGDIは一致するはずだが,実際には両者の間には統計推計上の誤差がある。
名目GDPは前期比年率換算値で昨年10-12月期は+6.6%,今年1-3月期は+6.1%であった。一方,名目GDIはそれぞれ+0.5%,+2.2%であった。米国経済の潜在成長率は+1.7%程度であり,FRBは2%インフレを目標しているので,名目GDPと名目GDIは,均衡状態では3%台後半の伸びとなるべきだろう。名目GDPがそれを大きく上回っている点では景気はまだ過熱状態にあるように見える。一方,名目GDIの方は,それを大きく下回っており,物価上昇分を差し引けば,景気後退に入ったと言えるほどの低成長である。両者の差は統計推計上の誤差であり,どちらを信頼すべきかは明らかではない。既に終わった時期でさえ,景気が強かったのか弱かったの判然としないのだから,景気の先行きなど誰にもわかりそうにない,というのが私自身の正直な気持ちだ。
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