世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
減速する米国の名目GDP
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2023.07.03
6月13,14日の米FOMCでは利上げが見送られた一方,FOMC参加者の経済見通しは今年末までに0.5%の追加利上げを見込んでいる。米国の金融政策の行方は,物価・景気動向次第であり,その点では4-6月期のGDP統計は一つの注目材料だ。
6月27日時点のアトランタ連銀GDPナウキャストによれば,4-6月期の実質GDPは前期比年率換算値で+1.8%と,1-3月期の同+1.3%(5月25日発表の1次改訂値)をやや上回る見通しとなっている。一方,同日のクリーブランド連銀インフレ・ナウキャストによれば,4-6月期の個人消費支出価格指数は同+3.0%と1-3月期の同+4.2%を下回る見込みである。特に財価格の伸びが下がっており,個人消費支出価格指数より財の構成比率が高いGDPデフレーターは,4-6月期には3%を下回りそうだ。実質GDPとGDPデフレーターの伸びを合わせると,4-6月期の名目GDPは,前期比年率換算値で4%台後半の伸びと予想される。1-3月期の+5.4%を下回ると共に,コロナ禍で2020年4-6月期に大幅なマイナス成長を記録した以降,初めて5%を割り込むと見られる。
実質GDPがプラス成長を維持しながら,GDPデフレーター上昇率と名目GDP成長率が下がる姿は,一見,米国経済のソフトランディングを示唆しているようだが,本当にそうなのだろうか。
米国企業の純付加価値に比べて雇用者報酬の減速は鈍く,企業利益は圧迫されている。1-3月期の税引き前企業利益は,前期比年率換算値−19.0%と減少し,3四半期連続での前期比減となった。4-6月期の名目GDP成長率の低下は,企業利益のさらなる減少を示唆する。利益の減少を食い止めようとして,企業が雇用や設備投資を削減すれば,早晩,実質GDPは減少に転じるだろう。
物価面では,GDPデフレーターと同様に,個人消費支出価格指数や消費者物価指数の加重平均値上昇率は低下している。消費者物価指数の場合,加重平均値の前年同月比上昇率は,近年のピークだった昨年6月の+9.1%から,今年5月には+4.0%まで下がった。一方,加重中央値の前年同月比上昇率は,昨年6月には+6.1%であったが,今年2月には+7.2%まで高まり,5月も+6.7%とあまり下がっていない。エネルギーなどの一部品目の価格は下がっても,全体的な物価上昇圧力は,依然強いことが示唆される。実質GDPの伸び率が低く,企業にとって量的拡大が期待できない中,企業は利益確保のために可能な限り値上げをしたい所であり,物価上昇圧力は容易には収まらないだろう。
4-6月期のGDP統計速報値の発表は7月27日であり,7月25,26日のFOMCには間に合わない。しかし,FOMCまでには4-6月期の景気・物価の大勢は明らかになっているだろう。上に述べたように,実質GDPが緩やかなプラス成長と判断できれば,現在金融市場が織り込んでいるように,0.25%の利上げが行われるだろう。
問題はその後だ。7-9月期以降,どこかで実質GDP成長率がマイナスに転じる一方,基調的なインフレ率は下がりにくく,米国経済はソフトランディングに向かうより,スタグフレーションに陥る公算が大きいと考えられる。マイナス経済成長に対して早期に利下げに踏み切るのか,インフレ率の低下がFRBの想定より鈍い限り,利下げを見送るのか,FRBは難しい選択を迫られそうだ。
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