世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2964
世界経済評論IMPACT No.2964

発展途上国としての中国:G7の限界

結城 隆

(多摩大学 客員教授)

2023.05.22

 3月27日,米下院は「中華人民共和国を発展途上国とは認めない法律(the PRC Is Not a Developing Country Act)」を全会一致で可決した。GDP規模が米国に次ぐ世界第二位となり,国際貿易の15%のシェアを持つ経済大国となった中国はもはや発展途上国ではなく,それゆえに先進国と同様の規範(自由と民主主義など)を持つべきというのがその趣旨と思われる。

 国連は,加盟国を発展経済国,過渡期経済国,発展途上経済国の三つに分類している。IMFは,先進経済国,新興市場,発展途上国,低所得発展途上国の4つのカテゴリーを設けている。世界銀行の場合は,高所得国,中高所得国,低中所得国,低所得国に分けている。WTOは独自の分類を行っておらず加盟国の自己申告を優先しているが,発展途上国の場合,関税や知財保護などの面で先進国に比べ規制措置が緩やかなものとなっている。こうした分類においては,一人あたりGDP/GNIだけでなく,工業化のレベル,技術レベル,生活・教育水準,公共福祉サービス,インフラ整備など様々な指標が用いられている。国連の場合,左記に加え独自の「人間発展指数(Human Development Index)」も用いている。これは,社会・経済の発展レベル,平均寿命,教育機会などを指数化したものだ。

 これらの分類は,国際社会における様々な協力・交流・支援活動において,何をどれくらいやるべきなのかを判断する一つの有力な基準となりえるものだが,一方で,分類の上で「上位」にある「先進国」がそれよりも下位にある国々を指導するという「上から目線」の行為につながっている面も否定できないと思う。無論,貧困国に対する様々な支援は不可欠であるが,こうした分類に政治(含む価値観)や安全保障の要素が近時強烈に絡みつくようになっており,従来の分類にも新たな視座が生まれている。

 それがグローバル・サウスという分類である。これにグローバル・ウエスト,グローバル・イーストが加わる。グローバル・ウエストは欧米およびその同盟国を含む約50か国であり,その殆どが対ロ制裁に同調している。これらの国々のGDP総額は50兆ドルと全世界のGDPのほぼ半分を占めている。グローバル・イーストは中国,ロシア,イラン,中央アジア諸国などである。最大の経済規模を持つのは中国であり,GDP規模は約18兆ドルで18%のシェアを持つ。グローバル・サウスはインド,南アフリカなどのアフリカ諸国,中東諸国,ブラジルをはじめとする中南米諸国(欧米の同盟国は除く)である。グローバル・サウスとイーストの人口は世界の人口の85%を占める。

 ロシアのウクライナ侵攻に対する国連の対ロ非難決議に賛成したのは193か国中140か国だった。ただし,棄権票を投じた35か国(中国,インドなど)の人口は世界全体の50%を占める。また,欧米が主導する対ロ経済制裁に参加している国は約40か国にのぼるが,アジアから参加したのは日本,韓国,そして台湾のみである。経済規模でみればグローバル・ウエストが50%のシェアを占めるが,人口シェアでは15%程度だ。しかも,IMFが5月に公表したアジア地域経済見通しによれば,2023年の世界経済の成長率に対する貢献度は中国が34.9%,インドが15.4%である。グローバル・ウエストの貢献は10%にも満たない。

 グローバル・ウエストが様々な国際秩序に関わる規範を決め,それをもとに支援を行い,あるいは協調し,あるいは説教を垂れ,制裁を課すといった従来のやり方は,グローバル・サウスの台頭と中国の経済力の拡大により行き詰まりつつある。しかも,グローバル・ウエストに属する少なくない国は植民地経営の歴史を背負っている。彼らの言う「普遍的な価値観」に心から賛同する途上国はどれだけいるだろうか。

 中国は,経済・産業大国であると同時に世界最大の市場も有している。一方,中国の党・政府の幹部や有識者は中国が依然発展途上の国であることを強く認識している。経済規模では世界二位になったとはいえ,一人当たり国民所得米国の三分の一に過ぎない。都市化が急速に進展しているとはいえ,6億人が依然郷村部に暮らしている。教育についてみれば未だに4%の国民が文盲であるし,2億人ともいわれる農民工の学歴のほとんどが中卒レベルである。50代ともなれば殆どが小卒レベルの教育しか受けていない。党・政府はこれらの状況の改善に腐心しているが一朝一夕にできるものでもない。郷村部や農民工の中高年層の教育問題は今更改善するのも困難だろう。また,阿片戦争以降の欧米列強による中国の分割支配や日本の満州支配といった「屈辱の経験」も見逃すわけにはいかない。中国にはどっしりと発展途上国の要素が残っている。

 国内の発展途上国問題への取組とその経験が外延的に拡大したのが一帯一路構想といえる。今やグローバル・サウスに属する国々にとって最大の貿易相手国は中国であり,また対外借り入れの多くを中国に依存している。経済大国であると同時に発展途上国である中国だからこそ新たな国際秩序の形成に貢献できる面もあるはずだ。そのためには中国を脅威や挑戦とみなすのではなく,より緊密で実利的な対話を継続することが肝要である。また,本コラムで見たことからも推察できるようにグローバル・ウエストのエリートクラブであるG7よりもグローバル・サウスを包含したG20の役割をより重視すべき時代になっている。G7広島サミットでは韓国やインド,ブラジル,ベトナムがアウトリーチミーティングに参加するが,それもG20ひいてはグローバル・サウスの影響力の強まりを反映したものだと思う。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2964.html)

関連記事

結城 隆

最新のコラム