世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
コンサル業の終焉
(元信州大学先鋭研究所 特任教授)
2023.04.10
ロシアがウクライナに攻めん込んだことで,21世紀になってから(というよりはメルケル首相が登場してからなのだが)欧州発,数々の理念先行の環境規制や政治が産業に介入する案件の無理筋部分が崩れ始めている。欧州EV規制の旗振り役だったドイツが欧州議会の法案可決後に内燃機関の条件付き使用延長をEU欧州委員会に申し入れ,条件付きながら内燃機関の100%廃止がひっくり返った。
メルケルが美しい言葉で演説を行なった多くの事が逆向きに働き始めている。カンバン方式の言い換えでしかないIoTとIndustry 4.0の議論が雲散霧消している。太陽光パネルの廃棄リサイクル問題はいまだ解決が見えない。いつもの欧州のやり方の如く,実行可能な工業技術が確立していないにも関わらず,長年に渡り地道に廃棄方法を探っている我国を差し置いてリサイクルを確立すると派手にぶち上げている。最近まで適切なプラ処理技術を持たなかったためにゴミを他国に押し付けていた欧州は,マイクロプラスチック問題を掲げてプラ禁止と聞こえの良い言い方で規制を導入したもののあまり評判は芳しくない。重たいガラス瓶や洗浄の必要な容器などライフサイクルを考えると首を傾げたくなるような話である。相変わらず日本のマスコミはドイツや北欧諸国の廃棄物分別回収を素晴らしいと持ち上げるが,回収後の処理方法についてはつっこんでいない。不燃物やテッコンブツ(適正処理困難物)の多くを中国,アフリカ,東南アジアに押し付けていたが,中国の受け入れ停止でその実態が表に出てしまい,慌ててプラスチック禁止,海洋投棄廃絶のキャンペーンを始めたというのが真相である。日本は世界の趨勢から遅れているという「悲鳴(メディアの常套句)」を垂れ流し続けている方々はどのように説明するのだろうか。
どの話題も主要マスコミあげて大騒ぎを行い,新ビジネス市場として投資の対象として祭り上げ,政治経済を発展させる主要テーマとして取り上げられた。さらに我国のマスコミは「技術の劣化,トレンドを掴めない研究開発の貧困」と日本の研究開発力と産業をこき下ろした。欧州のEV規制の修正でも「これは更なるEVの拡大加速だ」という根拠なき論評をする評論家が登場する有様であり,根本的な技術的問題を無視する言説が飛び交っている。なお,二酸化炭素から炭化水素を合成する技術は日本の大手化学メーカー各社が10年以上前から取り組んでいる。こと各国の屋台骨を支える大きな産業である自動車については,原宿竹下通りのトレンドショップ紹介的な言説をやめて機械・化学工業の成り立ちから勉強し直すことを推奨する。コンサルが話を膨らませる報道や解説記事は,百害とまでは言わないが一理なしである。例えば,ディーゼル車に傾倒していたボルボが突然EVのラインアップを登場させた背景を探ってみてはどうか。電池やモーター駆動・電流変換装置は外部調達か親会社の浙江吉利控股集団からと推定されるが,自社開発の最先端技術を纏った素晴らしい自動車であるかのように論評することは消費者を欺くことになるだろう。電池技術一つとってみても,ボルタの電池以来,開発と商業化には長い年月が費やされている。主要なリチウム電池メーカーが存在していなかったドイツがEV大国になるには,中国,韓国,カナダ,日本から電池製造技術を導入しなければならない。盲目的な欧州礼賛ではなく冷酷冷徹な分析から評論を行うべきである。国際投資アナリスト大原浩氏のように,EVばかりでなく,政治経済の広い分野で慧眼をお持ちの方の言説がナンチャってコメンテーターを駆逐してくれることを思うばかりである。
ITトレンドについての「専門家」の論評も実にいい加減である。COVID-19パンデミック最中の過剰投資を世の中が正常に戻るにつれて支えきれなくなり,メタバースとIT関連はリストラを余儀なくされた。筆者が数年前から疑義を唱えたようにことごとくダウントレンドに陥っている。筆者エッセイについては世界経済評論IMPACTや世界経済評論本誌をご参考いただきたい。決して未来予測をしたわけではなく,製造業に従事した経験から無理筋であることを披瀝したまでである。
バブルの頃から企業の収益力や中経を策定する際にコンサルを導入することがトレンドになった。聞くところによると,DX導入もコンサルに頼る企業が多いとのことである。以前所属した企業の再活性化活動で,偶然ではあるが複数の世界主要コンサル会社と付き合ったことがある(以前も記したことがある)。中でも,今は亡きアーサーアンダーセン(AA)の東京オフィスロビーは宮殿のように豪華でハッタリには非常に効果的であった。Amwayの集会(企業研究のために見学したことがある)のようなAAのプレゼンは活力に満ちていて素晴らしいものであった。しかし,企業に対するコンサルというのは,特に製造業に対してはその業種の技術立脚点や歴史を無視しては成り立たないので部外者があれこれ言うのは容易ではない。コンサルが提案して企業をTurn Aroundさせることが可能ならば,GEは現在のような惨憺たる状態になっていないはずである。
会社がコンサル導入を決めたのち,技術系の筆者は数週間の間,通常業務に加えてコンサル担当者の対応をさせられ,根掘り葉掘り説明を求められた。確かにコンサル社員は理解が早いのだが,問題点をコンサル担当者の理解可能範囲,主に前例集の使い廻しなのだがそれに合致する事柄を「つまみ食い」したがる。つまり,コンサル社内にある「事例集」へはめ込み可能なストーリーに収斂させていく。そしてコンサル成功例(と思っている前例)を依頼主のマネージメントに提案するのである。当然,それに沿わないことを話すと,「違う切り口で」という常套句を使って話を逸らしてしまう。コンサル各社が理不尽な質問攻めをしてくる中で,DT社は,「なぜ,そのような技術,プロセスが必要なのか」ということを理解しようと努力してくれた。逆に人の話を頭から無視したのはAA。こちらの話したことを翌日にまとめてくる努力は素晴らしかったが,地味だが不可欠なルーチン作業を全て外注にしろと,とんでもない方向へと持って行かれた(社長からコンサルの指示に全面的に従えと指示が出ていたので喧嘩できなかった)。マネージメントへの最終プレゼンは高級ホテルの会議室で行われ,その後豪華な晩餐が用意されていた。AAコンサル提案の要旨は,人手が必要で時間のかかる基礎開発や日々の地味な改善が必要な工場・倉庫業務・ドサまわり営業は外注にして,マーケティング主導の製品開発に注力すべきというものであった。要はメーカーをやめて,原宿竹下通り風の短期製品回転マーケティング商売にせよというご宣託だった。こんな,見栄えは良いがぼったくりコンサルはそのうち相手にされなくなるだろうと思っていたら不正会計であっさり潰れた。
メーカーが上市する新製品はラベルを変えるだけというのもあるが,概ね何らかの技術改良(時々,技術改悪)が施されている。マーケティングの言うことだけで製品を準備すると,大抵の場合,売れなくなるので値下げ商売になり赤字を積み重ねることになる。最近の高級食パンはその典型的失敗例でありWEBで多くの意見があるのでご存知の方も多いと思う。筆者の住む街でもT Vで話題にならなくなった頃からスーパー特設コーナーで扱われるようになったものの,カゴに入っているのは大手各社の製品であった。高級食パンは一夜の宴であった。
生成AIで大ヒットしているChatGPTはとても便利なツールである。ただ,入力する質問の方法で応答が変わるので言語に敏感のようであり,質問の条件を絞り込み,誘導することで使い勝手が良くなるようなアルゴリズムと思われる。コンサルは将来の予測ではなく現在の改善点を助言することが商売なので,この点からも生成AIとほぼ同一の機能といえる。ChatGPTは質問に対して既存の情報を使って答えを構築してくるので正にコンサルの仕事そのものである。つまり,コンサル業は近い将来,ChatGPTをはじめとした生成AIに取って代わられる運命にあると言える。マニュアルに沿って慇懃無礼,威丈高の態度でくる有名大学を出たての若造にへーコラすることがなくなるので,研究開発や製造担当にとっては良い世の中になりそうである。
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