世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2908
世界経済評論IMPACT No.2908

グリーンLPガス官民推進検討会の発足と活動

橘川武郎

(国際大学副学長・国際経営学研究科 教授)

2023.04.03

 LP(液化石油)ガスは,日本の約4割の世帯が使用する,必要欠くべからざるエネルギーである。しかし,そのLPガスも,使用時に二酸化炭素を排出する化石燃料である以上,カーボンニュートラルなグリーンLPガスを開発しない限り,長期的には生き残ることができない。

 このような使命感と危機感に突き動かされる形で,2020年11月以降,元売業者がつくる日本LPガス協会や小売業者が集う全国LPガス協会は,研究会や検討会を設けるなどして,グリーンLPガスをめざす取組みを活発化してきた。また,21年10月には,LPガス輸入元売の大手5社が中心となって,「日本グリーンLPガス推進協議会」を設立した。これらの動きをふまえて22年7月,「グリーンLPガス推進官民検討会」(以下,「官民検討会」と略す)が産声をあげることになった。

 官民検討会には,早稲田大学の関根泰教授をはじめとして,経済産業省,NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構),産業技術総合研究所(産総研),日本LPガス協会,全国LPガス協会,古河電気工業,クボタ,日本ガス石油機器工業会の各代表が委員として参加している。座長は,筆者(橘川)である。

 この官民検討会の発足は,LPガス産業のカーボンニュートラル化やグリーンLPガスの開発を推進するうえで,重要な一歩となる。ただし,先行して21年6月にスタートした都市ガスのメタネーション推進官民協議会と比べると,LPガスの官民検討会は二つの点で異なっていることも事実である。

 一つは,政府の関与がやや軽いことである。事務局をつとめるのは,メタネーション推進官民協議会では経済産業省資源エネルギー庁電力・ガス事業部ガス市場整備室であるのに対して,LPガスの官民検討会では民間の業界団体(日本LPガス協会)である。メタネーションの場合のように「官民協議会」という呼称は用いず,グリーンLPガスの場合には「官民検討会」と名乗っているのも,この点を配慮したからであろう。

 もう一つは,メンバーがそれほど多くないことである。メタネーション推進官民協議会には,発足時点で,21社もの民間企業が参加した。その顔ぶれは,都市ガス会社(東京ガス・大阪ガス・東邦ガス)やすでにメタネーションに取り組んでいるINPEX・日立造船・IHIだけでなく,電力会社(東京電力・関西電力・JERA),鉄鋼メーカー(日本製鉄・JFEスチール),セメントメーカー(三菱マテリアル),部品メーカー(アイシン・デンソー),海運会社(日本郵船・商船三井),エンジニアリング会社(日揮・千代田化工建設),総合商社(三菱商事・住友商事),そしてクレジットを使ったカーボンニュートラルLNG(液化天然ガス)の供給にかかわるシェル・ジャパンであり,きわめて多彩なメンバーであった。一方,LPガスの官民検討会の場合には,供給サイドのメンバーは充実しているが,需要サイドのメンバーは手薄だと言わざるをえない。

 とは言え,LPガスの官民検討会には,実際にグリーンLPガスの開発に取り組む主要な当事者が,ほぼ顔をそろえている。また,経済産業省を代表する委員がメタネーション推進官民協議会とは異なり部長級であり,定光裕樹経済産業省資源エネルギー庁資源・燃料部長が正式委員となっている点も心強い。

 22年11月に開催されたグリーンLPガス推進官民検討会の第2回会合では,現在取り組まれているグリーンLPガスに関する技術開発の到達点と課題が,網羅的に報告された。さながら,グリーンLPガス技術の棚卸しの様相を呈したのである。

 第2回会合で行われた報告のタイトル,報告者・報告組織を報告順に列記すると,

  • (1)「グリーンLPガス技術総論と早大が取り組むバイオガスからのグリーンLPガス合成」(早稲田大学・関根泰教授)
  • (2)「中間冷却(ITCI)式多段LPガス直接合成法」(北九州市立大学・藤元薫特任教授)
  • (3)「カーボンリサイクルLPガスの製造技術の研究開発」(産業技術総合研究所)
  • (4)「2030年の社会実装に向けたグリーンLPガスの技術開発」(古河電気工業)
  • (5)「カーボンリサイクルLPガス製造技術とプロセスの研究開発」(ENEOSグローブ)
  • (6)「バイオマス地域資源循環システムの開発(稲わら等からのバイオマスを原料としたLPガスガス合成)」(クボタ)
  • (7)「高知県におけるグリーンLPガスの地産地消の実現に向けて」(高知県)
  • (8)「グリーンLPガスに関する世界の動向」(野村総合研究所)

となる。

 グリーンLPガス推進官民検討会の委員をつとめる早稲田大学・関根教授の整理によれば,LPガスのグリーン化を実現する方法は,「二酸化炭素と水素から」のアプローチと,「バイオマスから」のアプローチとに大別される。二つのアプローチには原理的に共通する部分もあり,単純な2分法はとれないのかもしれないが,社会実装のあり方の違いを考慮に入れると,この区分には意味がある。

 筆者の理解によれば,第2回会合で行われた報告のうち(2)(3)(5)は,「二酸化炭素と水素から」のアプローチに主として関連していた。一方,(1)(4)(6)(7)(8)は,「バイオマスから」のアプローチと呼びうるものであった。

 「二酸化炭素と水素から」のアプローチには,水素の調達コスト(製造コスト・輸入コスト)をどう引き下げるか,二酸化炭素の回収コストをいかに削減するかという問題がある。「バイオマスから」のアプローチには,バイオマスの回収コストをどう引き下げるか,収率をいかに高めるかという問題がある。二つのアプローチとも克服しなければならない課題は多いが,第2回会合での諸報告を聞いて,グリーンLPガスに関する技術開発は着実に進展しているとも感じた。グリーンLPガス推進官民検討会の発足から,まだ日は浅い。今後の活動の深化に期待したい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2908.html)

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