世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
台湾独立を支持する理由:イアン・イーストンは何を語ったか
(九州産業大学 名誉教授)
2023.01.16
米・シンクタンク「プロジェクト2049研究所(Project 2049 Institute)」シニアディレクターのイアン・イーストン(Ian Easton)が独・EPA通信に,「私が台湾の独立を支持する理由(Why I support Taiwan’s independence)」を寄稿した(台北時報が転載,2023年1月2日付)。この寄稿でイアンは,「事実上,台湾は一つの独立国家であり,正式な国名は中華民国である」と主張した。以下は,この主張の概要を主に,筆者の追筆を加えて紹介する。
台湾に旅行し,現地の通貨に両替すると,その通貨には「中華民国」の文字が印刷されている。台湾の町で買物は台湾元(NT$)が使われ,中国の人民元ではないことは一目瞭然だ。また,国家(State)とは,「一定の領土,国民,排他的な統治組織(政府,軍隊など)を供えた政治共同体」のことを指す。台湾は国家定義の条件に一致することは明白だ。要するに,この地球上には「中華民国(ROC)」と「中華人民共和国(PROC)」という2つの「中国(China)」という名称の国が存在しているのだ。
「一つの中国」の主張は欺瞞だ
この寄稿を書いたイアンは,中華人民共和国と中華民国にそれぞれ住んだ経験を持ち,中台間に長期にわたり存在する隔たりに関する書籍を著したことがある。イアンは,「“一つの中国”政策を採っている各国の政府は,自ら欺瞞を主張していることになり,それは残酷で無情な外交政策および国際安全領域において,妥当な戦略ではないことは自明」と言う。
台湾を「一つの国家」として認めないと装うことは,バイデン大統領が述べた「私たちの世界がもっと明るく,希望が充満する明日に邁進する」という展望の主張に対し有益ではない。しかし,各国の指導者の主流的主張は,明らかにイアンの考えとはが大きく異なっている。
米中が国交を樹立(=米台国交断絶)した1979年以降,アメリカの歴代指導者は,中国(China)の名を持つ一つの国が存在するという客観的現実を全力で否定し,真相を歪曲している。台湾の「自由,民主主義の明るく輝いている成功の物語」がアメリカを困惑させ,それが重荷になるという悲劇的な結果を自ら作り出した。アメリカが犯した台湾政策に関する過ちによって,アメリカの大統領はその職業生涯において,中国に媚びへつらうリスクを蒙った。「台湾主権の象徴をなるべく回避する」という欺瞞に「一つの中国」政策に,アメリカ政府の公務員は深く困惑している。
真相を歪曲し,悲劇を造り出した結果
アメリカ人は,思想がオープンで,文明が進歩し,イノベーション・スピリットを持ち,柔軟に対応ができ,智慧を持つことを誇りにしてきた。なぜ優秀で,智慧を持つ国民が,簡単に反論できる「虚構の事柄」を信じてしまうのか,実に可笑しいことである。
台湾を訪問した人であれば,誰でもすぐにわかるように,台湾は独立した国家である。さらに,基本的な歴史的脈絡を研究すれば,従来から台湾は中華人民共和国の一部でないと誰でもわかる(台湾は中華人民共和国に1日たりとも統治されたことがない事実がある)。中国が台湾に対し主権を主張することは,地球は丸いでなく,平である主張するに等しいことである。
台湾人は政治的前途の決定権利を持つ
「民族自決(self-determination)」という原則がある。「民族自決」は,「アメリカの独立宣言」および「アメリカ憲法」に比べてもその重要性に遜色がない。アメリカ建国の理念から得られることは,人民は自身の運命を形成する基本的な権利を持つと言うことだ。これも第二次世界大戦後,アメリカが世界のトップになった後,民族自決は国際法の基本的な原則になった主因である。民族自決は「国連憲章」にも書き込まれ,世界の標準的な規範になった。
自由世界の指導者が台湾の民族国家(nation-state)の正当性を否定した時,民族自決の原則は弱体化するようになった。数十年来,台湾人民は,民主的選挙による平和的な政権移行(国民党から民進党政権の移行)を享受できた。現在,台湾は全世界のトップ10に入る最も成功した自由,民主主義国家の一つでもある。自由な環境下において,台湾の人民は自身の政治的前途の法律と道徳を決定する権利を備えてきた。台湾人は脅威,恫喝および外来の干渉を回避することが必要である。
台湾の独立には2つの基本的なモデルがある。一つは事実的な独立(中華民国の国名,国旗と憲法の維持),もう一つは法理的独立(合法的な国名,国旗と憲法の改正)である。イアンはこの2つのモデルとも支持している。
ただし,法理的独立は大胆で冒進と見られる。それは中国共産党(CPC)がこれを口実に,大量の台湾人(アメリカ人を含む)を迫害・殺戳する可能性があることだ。もっとも,CPCは「中華民国」の存在自体に,憎しみを持っているため,どっちを選択しても,台湾が侵略される可能性は同じように高いとイアンは考えている。習近平国家主席の台湾を合併するロジック(「中華民族の偉大な復興」の主張)は,台湾の土地に住む人々にとって何ら関係がないことだ。
台湾独立を支持することは,一種の挑発行為であろうか。否,これは1人の人間が民主主義と民族自決を堅持しようとする意志である。イアンは,CPCが台湾の人民に強引に孤立,脅威,圧迫を加え,基本的権利を放棄させることこそが真の挑発と見る。イアンは,客観的な現実を否定することは,アメリカや台湾の最大の利益の追求に合致しないばかりか,世界級の災難を引き起こすことになると考えている。
米中が持続的に平和共存の代価として,捏造した「一つの中国」という虚実を維持し続けた場合,米中関係は虚構の上に積み重ねられたことになり,いずれ物事が根底から崩れてしまう。堅実な事実の上に,対中政策と対台政策を定めることが出来れば,早期に局面は好転し発展するだろう。
台湾は一つの独立国家であり,合法的に成立した政府を擁し,人民は主権を享受し,他の国家から国家として平等の待遇を享受することに値する。国際社会から両手を開いて台湾を歓迎する時,すべての人々は更に明るく,希望に充満する未来を迎えることができる。
[参考文献]
- 朝元照雄「台湾有事!中国人民解放軍の台湾港湾侵略計画:米プロジェクト2049研究所の報告書は何を語るのか」世界経済評論Impact No.2268,2021年8月30日。イアン・イーストンの人民解放軍の台湾侵略計画のシミュレーションと対策の記事を紹介。
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