世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2771
世界経済評論IMPACT No.2771

豪州のAOIPへの協力

石川幸一

(亜細亜大学アジア研究所 特別研究員)

2022.11.28

 2022年11月12日にプノンペンで開催された第2回ASEAN豪州サミットで,豪州はインド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)への協力を強化することを明らかにした(注1)。AOIPは2019年6月の第34回ASEAN首脳会議で採択されたASEANのインド太平洋構想である(注2)。AOIPはASEAN中心性と包摂を原則とし対話と協力を重視し,①海洋協力,②連結性,③SDG,④経済およびその他の4分野を協力分野としている。AOIPの協力は,資金の制約などからASEANが独力で行うことは難しく,対話国の支援が必要である。また,日本や米国のインド太平洋構想では,日本や米国が協力や支援の供与国だが,AOIPの協力はASEANが対象国となっている。

 日本と米国はAOIPへの協力と支援をすでに始めている。日本は,2020年11月の第34回東アジアサミットで安倍総理が具体化に向け協力することを表明し,協力がすでに実施されている。米国は2021年8月のASEAN米国外相会議でブリンケン国務長官がAOIPへの協力プログラムを発表している(注3)。

4分野で29プログラムの多様な協力

 豪州のAOIPへの協力対象はAOIPの協力4分野である。まず。①海洋協力では,海洋の安全と安全保障,違法漁業,海洋プラスチックごみ対策,海洋資源の持続的管理,1982年国連海洋法条約(UNCLOS)を含む国際法支持など7プログラム,②連結性では,デジタル技術とイノベーションの零細中小企業などによる採用と利用強化,ASEAN連結性マスタープラン2025によるASEANのインフラと連結性支援,Triangle in ASEANプログラムによるASEANの労働移動支援,ASEAN豪州スマートシティ・イニシアチブとトラストファンドによる急速な都市化への対応,豪州のASEAN奨学金などによる人的交流強化の5プログラムがあげられている。

 ③SDGでは,エネルギー安全保障と低炭素排出テクノロジーへの移行,開発格差縮小,ASEAN包括的リカバリー枠組みなどCOVID-19に関するASEAN豪州協力,公衆衛生協力,動物の健康に関する協力,ジェンダー平等と女性のエンパワーメント協力,豪州のASEANデジタルフォーメーションと将来のスキルイニシアチブ,第4次産業革命への準備,生物多様性など10プログラム,④経済とその他の分野では,ブルーエコノミー,気候変動,COVID-19からのグリーンリカバリー,RCEPとAANZFTA(ASEAN豪州FTA)の効率的施行,持続的鉱業開発など7分野である。実施に当たっては第3国あるいはインド太平洋の他のメカニズムの関与も探求するとしている。

協力の具体化が課題

 豪州のAOIP支援は,4分野で29プログラム多くのプログラムを対象としている。豪州のプログラムはTriangle in ASEAN(注4)など具体的な行動計画を提示したプログラムもあるが,対象分野を示しただけのものも比較的多い。日本と米国のAOIP協力は具体的なプログラムが多いが(注5),豪州のAOIP支援は具体化がこれからの課題である。たとえば,日本のAOIP協力は,海洋協力では違法漁業対策研修,共同水路測量調査,連結性ではインターネット通信環境整備事業への融資,SDGではASEAN感染症対策支援センター設立,その他では,日ASEANサイバーセキュリティ能力構築センター(AJCCBC)など具体的な協力プログラムが稼働している。豪州のAOIP支援は多様なプログラムを含んでいるが,違法漁業,海洋プラスチックごみ対策,海洋資源の持続的管理,気候変動,グリーンリカバリーなど環境対策に重点を置いている。各国が自国の経験や強みを生かして特徴のあるAOIP支援を行うことにより多様なAOIP支援が実現するだろう。

 ASEANは11月11日に開催された第40回および41回ASEANサミットで「AOIPの4分野への参加に関する宣言」を採択し,AOIPの4協力分野にASEANの対外パートナーが具体的かつ実務的な支援を行なうことを奨励することを明らかにしている。豪州の支援はASEANの要請に応えたものといえよう。

[注]
  • (1)Joint Statement of the 2nd Annual ASEAN-Australia Summit on Cooperation on the ASEAN Outlook on the Indo-Pacific, ASEAN Secretariat. November 12, 2022.
  • (2)AOIPについては,石川幸一(2020)「ASEANのインド太平洋構想(AOIP):求められる構想の具体化とFOIPとの連携」,ITI調査研究シリーズ,No.101,国際貿易投資研究所を参照。
  • (3)米国のAOIP協力は,石川幸一(2021)「米国のインド太平洋構想とASEAN 支援」アジア研究所紀要,第48号,亜細亜大学アジア研究所,7−10頁,を参照。
  • (4)Triangle in ASEANは,2015年に開始された豪州の公正な国際労働移動に向けたASEAN支援プログラムでメコン地域とマレーシアを対象としている。
  • (5)日本とASEANは,2020年に「AOIP協力についての第23回日ASEAN首 脳会議共同声明」を採択。49件の具体的な協力案件のリストを共同声明とともに公表した。具体的な事例については,外務省「日ASEAN・AOIP協力の取組(例)」,2021年10月を参照。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2771.html)

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