世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2755
世界経済評論IMPACT No.2755

2050年のプラスチック材料の生産・貿易は変化する可能性も

福田佳之

((株)東レ経営研究所産業経済調査部長 チーフエコノミスト)

2022.11.21

 前掲のコラム(2022年10月31日付世界経済評論IMPACT「最近の2050年長期見通しでは脱炭素化がさらに加速」)の続きであるが,2024年以降に規制対象となるかもしれないプラスチック材料,具体的には包装・容器材料等に用いられるポリエチレンやポリプロピレンの長期見通しを考えてみたい。

新興国の成長に伴い包装・容器材料需要は安定拡大

 まず包装・容器材料として利用されるポリエチレンを取り上げてみたい。包装・容器需要は世界経済,とりわけ新興国経済の成長に伴い拡大していくと見られている。さらにコロナ禍による巣篭もり消費がオンライン消費を拡大させた。ネットショッピングの利用増加はこれらの商品のための包装・容器を必要とするため,これらの材料需要が高まったためだ。同材料は日本やアジア各国などではナフサを起点として作られる。国際的な規制導入をさておくと,ナフサの生産もプラスチック同様に伸びていくと見られ,その成長率は2050年にかけて年率2%程度と考える。一方,目を米国等に移すと,ポリエチレンはシェール資源から随伴生産されるエタンを起点として作られている。米国のエタン生産の成長率は,米国エネルギー情報局によると,2050年にかけて同1%程度としている。両原料から生産されたポリエチレンは2019年時点において世界全体で1.1億トンとなっているが,その後,同生産は拡大していき,2050年には19年時点から倍増すると見る。実際にはメタノールを原料とした生産やリサイクルの普及もあってポリエチレン市場はさらに拡大しているだろう。

2050年においてポリプロピレン不足の恐れも

 ポリプロピレンは,包装・容器だけでなく,建設や自動車などの材料に幅広く用いられている。2019年時点で年産7,300万トンの規模から,ポリエチレン同様に世界的な経済成長に伴って2050年には同1.5億トンを超えるだろう。ポリプロピレンもナフサを起点として作られるが,ナフサから入手できる原料(プロピレン)はポリエチレン原料(エチレン)に比べて少ない。ちなみにエタンからプロピレンを生成することはその化学組成から難しい。一方,ガソリンなどの石油精製においてもプロピレンは得られるが,今後ガソリン等の需要が低下することで石油精製が不活発となり,プロピレン生産は低下していくと予想される。2050年のポリプロピレンの世界生産見通しについてメタノールを原料とする同生産やリサイクルの普及もあるので試算が難しいものの,このままでは千万トン単位でポリプロピレンが不足してしまうと考えている。

世界的にプラスチック材料の生産・貿易体制が変化する可能性も

 なお,将来不足に陥るプロピレンの代替生産について,まず中国などでの石炭を起点として生産するCTO(コールトゥオレフィン)がある。ただ,石炭の産地が地理的に辺鄙で輸送コストがかさむうえ,化石燃料の中でCO2排出が多い石炭がさらに活用されていくとは考えにくい。また将来的には廃油などからのバイオ燃料の精製やカーボンリサイクルによるメタノールからプロピレンを生産することも考えられるが,バイオ燃料やメタノールの原料の安定調達やコスト低下に疑問が残る。現時点で期待できるのはプロパンを原料としたPDH(プロパン脱水素法)によるものしかない。もちろん今後大規模な増設が必要となるが,プロパンそのものは米国において今後30年間で9,000万トン程度増産される見込みであり,原料調達の面では心配はないと見る。

 カーボンニュートラルの取り組み進行や国際的なプラスチック規制導入などの不透明要因はあるが,今後,ポリプロピレンを中心に世界的なプラスチック材料の生産や貿易の体制が変化していく可能性に注意する必要があろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2755.html)

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