世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2601
世界経済評論IMPACT No.2601

日本の貧困とSDGsとの関連について考える

飯野光浩

(静岡県立大学国際関係学部 講師)

2022.07.18

 コロナ禍で日本の貧困問題が度々問題になった。新聞やTVなどで,コロナによって生活が苦しくなった人の報道をしばしば見かける。リーマンショックやコロナ禍のように,何か大きな出来事があると,この問題はクローズアップされるが,そのうち,徐々に人々の関心は薄れて,いつの間にか,忘れ去られてしまう。

 ここで,注意しなければならないのは,日本の貧困問題はリーマンショックやコロナ前から深刻な状態であったことである。厚生労働省の国民生活基礎調査によると,相対的貧困率は1985年に12%,1988年13.2%,1991年13.5%,1994年13.8%,1997年14.6%,2000年15.3%,2003年14.9%,2006年15.7%,2009年16.0%,2012年16.1%,2015年15.7%,2018年15.7%であり,2000年以降は15%~16%の間で推移しており,改善傾向が見られるわけではない。相対的貧困率とは,等価可処分所得の中央値の半分に満たない世帯員の割合を示す。

 相対的貧困率の最新の国際比較について,OECDのデータによると,41カ国の中で,貧困率の小さい順から第1位はアイスランドで4.9%,第2位はチェコで5.6%,第3位はデンマークで6.4%である。ちなみに,フランスは第10位で8.4%,ドイツは第14位で9.8%,イギリスは第25位で12.4%であり,我が日本は第32位で15.7%である。アメリカは,第39位で18.0%である。

 以上のデータから示されるのは,日本の貧困状況はここ近年改善傾向にはなく,国際的に見ても悪いということである。にもかかわらず,先述のように,何が大きな経済的なショックがあると取り上げられるが,時間の経過とともに,忘れ去られていく。それは,2022年版の男女共同参画白書の言葉を借りれば,「もはや昭和ではない」という現状認識が乏しいからであろう。いまだに,高度成長期の日本のままで,貧困が例外的であるという意識が根強く残っているからではないだろうか。

 このように考えるのは,持続可能な開発目標(SDGs)の観点からみると,貧困に対して,日本政府はあたかも存在しないかのように行動しているからである。外務省のHPの資料によると,SDGsとは,2015年の国連サミットで全会一致で採択されて,「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のため,2030年を年限とする17の国際目標である。この国際目標を達成するため,日本政府は,2016年5月にSDGs推進本部を設置して,同年12月にはSDGs実施指針を策定し,2019年12月に,SDGs実施指針を改定した。その実施指針によると,8つの優先課題が設けられているが,貧困対策という明示的な表現はない。また,この実施指針の8つの優先課題に基づき,政府の施策のうち,重点項目を整理した「SDGsアクションプラン」を毎年策定している。最新の「SDGsアクションプラン2022」の概要でも,貧困対策に明示的に触れていない。

 日本の貧困問題は以前からかなり深刻であるが,SDGsの優先課題や重点項目として,取り上げられていない。SDGsの目標1はあらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせるである。この目標を具体化したターゲットには,2030年までに各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある,すべての年齢の男性,女性,子どもの割合を半減させるである。当然,日本の相対的貧困率もこれに当てはまる。

 日本の貧困対策を従来のように社会保障制度という国内問題として捉えるのではなく,SDGsの国際目標をとして捉え直し,それを達成するためには,どのような対策を採用すれば良いのかというように,発想を根本的に変革すべきである。このような劇的な転換をしなければ,日本の貧困率は減少していかないであろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2601.html)

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