世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本の「4本柱型」国際協力:農・食・観光クラスター政策がカギ
(日本大学生物資源科学部 教授)
2015.12.21
2015年は地域統合にとって契機となる年であった。10月にTPPが大筋合意に至り,12月にASEAN経済共同体が成立する。ここに,アジアが1つになり,世界経済がつながる起点ができた。
そのアジアには,「中所得国の罠」(例として2005年価格2000−15000ドル)にある国がある。しかし,これらの国は「罠」に陥っているわけではない。生産面では,多国籍企業が着々とアジア・ヴァリューチェーン・ネットワークを形成している。また,消費面では,アジアの消費の質を高めることにより「罠」から脱する方向が見えている。
アジアのこの生産面と消費面の両方での産業構造の高度化に向けて日本の国際協力がアジアから期待される。また,これは日本の成長戦略の第3の矢の中身,つまり実弾となる。日本の国際協力は,かつて「三位一体型」と呼ばれた。これは,貿易,投資,ODA(政府開発援助)の3つが組み合わされた国際協力である。しかし,これからは「アジアの地域統合」を中心に据え,貿易,投資,ODAを組み合わせた「4本柱型」国際協力が必要となる。これは,アジアのみならず日本にも必要である。
そして,中所得国から脱するための重要な要因は,「文化」の高度化である。日本を含むアジアの消費水準を高めるためには文化度を高める政策が必要となる。その重要な要素の1つが「食」である。その根底に「農」がある。農は,資源を守り,環境を保護するだけではなく,「生命」を守る。農を基本にしてこそ人々は生きていくことができる。私は,「農・食・観光クラスター」をアジアの各地に形成することを提案している(溝辺・朽木(2015))。
1 世界経済の中の成長センターとしてのアジア
世界経済の構造が21世紀に大きく次の4つの点で変化している。GDP,貿易,投資,外貨準備の観点から見ていこう。また,同期間の世界の貿易,投資,外貨準備の変動に関してアジア,中国の台頭が目立つ。
第1に,世界のGDPの比率は,2004年から2014年の10年で勢力図が変化した。アメリカのGDP占有率は,中国と日本とのその比率の合計に並ぶまで低下した。また,日本のGDP占有率は,2010年に中国と同じになり,2014年に半分以下になった。第2に,貿易の動向では,世界の主要な輸入国に関して,アメリカから中国へシフトし,中国の役割が増大した。第3に,直接投資の動向では,中国の対外直接投資がアメリカのそれに匹敵するようになった。一方,この時期のアメリカのそれは,日本と中国のその合計に並びつつある。第4に,外貨準備高の占有率を見ると,中国の外貨準備高は世界の3分の1である。日本のそれが10%あり,ASEANが6%ある(石川・朽木・清水(2015)参照)。
2 アジアの第3極としてのASEAN
ASEAN経済は,人口では世界の第3位になる。GDPの規模ではASEANが日本の半分である。世界の外貨準備高ではASEANが世界第3位の6%を占める。こうしてASEANはグループとして世界経済に関して大きな勢力となった。
さて,中所得国は,所得向上のためには産業構造の高度化が必要となる。つまり,投資構造の高度化と消費の質の高度化を必要とする。以上のように日本,アジア,ASEANを取り巻く状況が変化した。日本は今後の高度成長が期待できない。したがって,日本の国際協力あり方を変えることが成長戦略の1つである。
3 四本柱による日本の国際協力
ところで,日本の政府開発援助は「三位一体」型援助と言われた。これは,政府開発援助,貿易,直接投資の3つが一体となった協力であり,通商産業省(1988)で使用された。
これからは,「四本柱」型国際協力へ変化する必要がある。「四本柱」とは,日本の相撲の土俵が黒,白,赤,青の4本の柱である。この柱の下に審査員が座った。日本の相撲は国技であるが,2015年の幕内という上位力士の半分が外国籍であり,国際化が進んでいる(朽木・馬田・石川(2015)参照)。四本柱型国際協力により,アジア成長の核となる「農・食・観光クラスター」を形成することが1つの解決策である(朽木・藤田(2015))。
[参考文献]
- 溝辺哲男・朽木昭文(2015)『農・食・観光クラスターの展開』,農林統計協会。
- 朽木昭文・馬田啓一・石川幸一編著(2015)『アジアの開発と地域統合:新しい国際協力を求めて』,日本評論社。
- 朽木昭文・藤田昌久(2015)「特集:集積の経済学からアジアを理解する:空間経済学とクラスター」,『経済セミナー 8・9月号』,685号,10−55ページ,日本評論社。
- 通商産業省(1988)『経済協力の現状と問題点 1988』,財団法人通商産業調査会。
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