世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2599
世界経済評論IMPACT No.2599

地域銀行の外国証券運用

伊鹿倉正司

(東北学院大学 教授)

2022.07.18

 今からちょうど4年前,「地域銀行の外債投資は非産運用なのか?」というタイトルの駄文を投稿した。投稿後,意外にも少なくない方々からお褒めの言葉や励まし(?)の言葉をいただいた。この場を借りて改めて御礼を申し上げたい。

 さてその駄文は,駄文によくありがちな当たり障りのない内容で文章を閉じている。以下,その内容を再掲したい。

 「地域銀行を航空機に例えるならば,現在,地域銀行は異次元金融緩和の長期化,人口減少に伴う貸出市場の縮小という強い下降気流の真っただ中にいると言える。異次元金融緩和はいずれ終わりを迎えるであろうが,貸出市場は預貸ビジネスが成立しえない水準まで今後縮小するものと予想される。こうした強い下降気流(あるいは乱気流)の中でも揚力を保ち,機体を安定させるには,地域銀行は貸出という1基のエンジンに大きく依存した単発機ではなく,貸出と有価証券投資(外債投資を含む多様な運用)の2基のエンジンを持つ双発機への転換が必要なのではないだろうか。そのためには,外部機関へのトレーニーを通じた人材育成や外部専門人材の中途採用の拡大などによって運用体制の整備を図ることで,非産運用からの脱却が求められる。無論,航空機の安定飛行には,有価証券運用の重要性を十分に理解し,適切なリスク判断と投資決定ができる優秀なパイロット(経営陣)が必要不可欠であることは言うまでもない」。

 以上の内容はあくまでも私見に過ぎないが,その後,地域銀行の外国証券運用はどのような状況になったのであろうか。

極めて厳しい外国証券運用

 4年前の投稿では,戦後の地域銀行の外国証券運用には3つの拡大期(1980年代前半から90年代初頭,1990年代末から2000年代中頃,2013年4月から16年末)が存在したことを指摘した。その後の各行の運用状況を追ってみると,2019年から2021年にかけて第4の拡大期が確認できる(この期間において地域銀行の外国証券残高は2兆円超増加している)。拡大の背景としては,高クーポン国債の大量償還を受けて,その再投資先として外国証券運用を増加せざるを得なかったことが挙げられる。

 第4の拡大期の特徴としては,①ドル調達コストの上昇により,米国債での運用はそれまでの拡大期ほど増加していない一方で,2019年はフランス国債での運用が,2020年以降はオーストラリア国債やカナダ国債での運用が増加したこと,②株式や不動産を組み込んだ外貨建て投資信託での運用が増加するなど,総じて積極的なリスクテイキングが行われたこと,③中・下位地域銀行において,運用部門を拡充する動きや外部組織との連携強化,運用委託が広がったことの3点が挙げられる。

 コロナ過での貸し出しの増加と有価証券運用の増加という2基のエンジンによって,地域銀行は強い下降気流から抜け出すきっかけを掴みかけたが,2021年末以降,FRBの利上げ加速化に伴う米国金利の急上昇という新たな乱気流に巻き込まれることになる。

 日本金融通信社(ニッキン)の推計によれば,地域銀行81行・グループの2022年3月期の満期保有目的を除く有価証券の評価額(連結ベース)は,前年同期比で約1兆5千億円も目減りした。その主たる要因は,米国を含む世界的な金利上昇による外国債券の含み損の急増であることは言うまでもない。2022年4月以降も金利は上昇し続け,FRBは年内に数度の利上げを検討していることから,含み損の更なる拡大が懸念されている。

取締役会の属性とリスクテイキング

 貸出業務や役務業務と比較して,外国証券運用の銀行間の相違(巧拙)は大きいように思われる(いわゆる銀行間の「横並び行動」は貸出業務や役務業務ほど見られない)。昨今の金利上昇に対して,積極的な損切りを行った銀行がある一方で,損切りに踏み切れない銀行,むしろ運用残高を積み上げている銀行など様々である。外国証券投資の銀行間の相違は,各行の経営状況や取り巻く環境(本拠地の人口減少率,銀行間競争度など)の違い以外にも,運用体制(運用部門,リスク管理部門,取締役会)の違いが影響を及ぼしている可能性がある。

 特に取締役会の属性とリスクテイキングの関係性については,数多の実証分析が存在する。なお取締役会の属性とは,女性取締役や社外取締役の人数,社外取締役の経歴,取締役会の年齢幅といった取締役会の多様性の程度を指す場合が多い。ある実証研究では,代表取締役の顔の長さと幅の比率からその人物の攻撃性を判別し,代表取締役の顔が幅広(攻撃性が高い)の銀行ほど積極的なリスクテイキングを行うというユニークな分析結果を得ている。地域銀行各行の統合報告書などから代表取締役の写真を拝見する限りでは,その多くが面長で温和な雰囲気をお持ちなので(実態は定かではないが),そのような銀行のリスクテイキングは比較的慎重なのかもしれない。

 地域銀行の外国証券運用について,そのリスクテイキングの妥当性(社会的に望ましい水準よりも過大なのか過少なのか)を判断するのは困難である。しかしながら,外国証券運用を含めた有価証券運用は,地域銀行に課された社会的使命(金融仲介機能など)を果たすためには必要不可欠なものとなっており,今後は運用体制を含めた抜本的な意識改革が求められる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2599.html)

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