世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2598
世界経済評論IMPACT No.2598

台湾で最も愛された日本人政治家・安倍晋三

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2022.07.18

 7月8日,安倍晋三元首相が凶弾に倒れた。その夜,台北のシンボルとして知られる超高層ビル「台北101」(508メートル)では,日本語や中国語で「ありがとう」や「日台の国旗」,「敬悼安倍首相(安倍首相に謹んで哀悼の意を表する)」,「台灣永遠的朋友(台湾の永遠の友だち)」,「感謝 安倍首相」,「台湾への支持と友情」など電飾によるメッセージがライトアップとともに次々と映し出された。ライトアップは夜8時から約4時間にわたって行われた。他国の政治家を悼むメッセージを,台北101を使って伝えるのは極めて稀なケースであり,安倍元首相に対する台湾の友情を表している。

 安倍元首相は親台湾の日本政治家の代表格として知られ,台湾では人気が非常に高い。彼は,(1)昨年,台湾のコロナ禍が蔓延時にアストラゼネカ製ワクチンを大量に援助したこと。(2)昨年12月,オンライン講演会で「台湾有事は日本有事,すなわち日米同盟の有事だ!」と主張し,台湾援護の姿勢が感謝されていること。(3)中国から台湾産パイナップルの輸入を拒否されたとき,安倍元首相は台湾産パイナップルを持った写真をSNSで公開し支援を表明した。凶弾で倒れた一報を受け,台湾の蔡英文総統は,直ちに哀悼の意を日本語のツイッターに書き込んだ。

 「安倍晋三元首相のご逝去の報に接し,言葉にならないほどのショックを受けています。台湾国民も深い悲しみの中にいます。安倍先生とはまた台湾でお目にかかれると信じていました。しかし,許し難い暴挙によって尊い命が奪われてしまいました」,「安倍先生は生前,台湾に実に多くのご支援とご配慮をくださいました。私たちはこのことを決して忘れません。先生は天国でもきっと,インド太平洋地域の民主主義を見守ってくださると信じています。心からのご冥福をお祈りします」と述べた。

 その夜,台湾総統府のスポークスマン張惇涵は,次のような公式発表をした。「蔡総統は,安倍元首相の銃撃事件のニュースを聞き,心を痛め,遺憾の意を示した。台湾政府と台湾人民を代表し,日本政府と安倍元首相の家族に対し,最も深い哀悼の意を表した」。「蔡総統は,国際社会における重要な指導者を失っただけでなく,台湾も重要な友を失った。安倍元首相は亡くなったが,台湾の社会と人民は,氏の台湾に対する熱意と台日関係に対する貢献を永遠に忘れない」と述べた。

 「安倍元首相は長年にわたり台日関係の深化に尽力し,特にコロナ禍が世界規模で蔓延する最中に安倍元首相の努力で,日本政府から「友情ワクチン」が贈与された。近年,地政学上の大きな変化に直面し,安倍元首相は「自由で開放されたインド太平洋地域」の重要性を訴え,さらに国際社会に向け“台湾有事は日本有事であり,日米同盟の有事でもある”と呼び掛けた」,「安倍元首相は台湾の安全保障に配慮し,台湾海峡と地域の平和と安定を台日共同で維持する考えを示した。インド太平洋で直面する様々な戦略的挑戦に応じて,新しい戦略的フレームワークと希望を構築した」と述べた。また,「台日間の協力は,“善の循環”をもって暴力に屈せず,また止むことなく,国際社会に訴求し続けてゆく」と述べた。

 台湾駐日代表の謝長廷は,フェイスブックで哀悼の意を伝えた。「安倍元首相が亡くなったとのニュースを聞き,深い悲しみに暮れている。安倍元首相は長年にわたり台湾との親善に努め,多くの台日間の友好的な政策を推進した。特に台湾の安全保障に関心を寄せていて,最近では台湾もおける有事は自国の有事,ひいては日米同盟の一大事だとの考えを語り,これが直ちに日本政界のコンセンサスになった」と述べた。

 また,「先週には蘇嘉全(日本台湾関係協会会長=台湾外務省対日窓口のトップ)と共に安倍元首相を訪ね,台湾訪問を要請したばかりだった。安倍元首相は直ちに快諾してくれたが,それが最後の対面になってしまった」,「安倍元首相は台湾にとって大切な友人であり,銃撃事件のニュースは,まるで兄弟が銃撃されたような衝撃であり,死去の報に肉親を亡くしたような悲しみを抱いている」と述べた。

 11日午前,蔡英文総統は台北市内にある日本の窓口機関「日本台湾交流協会」を訪れ,安倍元首相を悼むために設置された祭壇に花を手向けた後,色紙に「台湾の永遠の友人よ,台湾と日本の友好や世界の民主主義,自由,人権,平和に貢献してくれたことに感謝しています」と書き残した。台湾の主要な政府機関では11日,半旗を掲げて安倍元総理への哀悼の意を表している。

 また,泉裕泰代表(駐台大使に相当)は,「自分の赴任が決まった時,安倍元首相は私を呼び,“日台間は特殊な歴史関係があり,私たちは台湾の民衆の感情を常に考える必要がある。彼らに寂しいと感じさせないように常に考えてください”」,「台湾有事に対する安倍元首相の考えは,日本でも認識が深まった。私たちは最大の努力で安倍元首相の意志を継承したい」と述べた。交流協会の特設の弔問会場には一般市民からのメッセージが溢れほど寄せられている。

 11日,台湾の頼清徳副総統,謝長廷駐日代表(大使に相当)は,渋谷の安倍元首相の自宅を弔問し,その姿がNHKのニュースでも報じられた。また,頼副総統は翌12日の葬儀にも参列した。過去において,日本政府は中国に“忖度”し台湾政府高官の来日を拒んでいた。1972年の日台国交断絶後,50年ぶりの出来事である。10日の参議院選挙で与党が146議席を獲得し,改憲に前向きな4党を足すと177議席を獲得したことによって,憲法改正に一歩進んだ“自信”とも見られる。

[参考文献]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2598.html)

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