世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2587
世界経済評論IMPACT No.2587

半導体ビジネスの新しい展望

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2022.07.04

世界トップ11社の半導体企業

 コロナ禍の発生初期の2020年,世界の半導体産業についての先行き見通しは悲観的であった。しかし,蓋を開けて見ると予測を覆し,世界のAI(人工知能),IoT(モノのインターネット)などデジタル化の急速な進展から半導体の需要は高まった。世界半導体市場統計(WSTS)によれば,世界の半導体生産額は,2019年が4,123億ドル,20年が4,404億ドル,21年が5,530億ドルと22年が6,015億ドル(見込み)であり,その増加率はそれぞれ6.8%,25.6%と8.8%(見込み)に達する。特に,2020年以降,年間約500億~1,000億ドルの増加が目立つようになる。

 2021年の世界トップ11社の半導体企業の売上高ランキングを見ると,1位のサムスン電子は830.85億ドル,2位のインテルは763.20億ドル,3位のTSMC(台湾積体電路製造)は566.33億ドル,4位のSKハイネックスは372.61億ドル,5位のマイクロン・テクノロジは300.87億ドル,6位のクアルコムは291.36億ドル,7位のNVIDIA(エヌビディア)は230.26億ドル,8位のブロードコムは188.64億ドル,9位のメディアテック(聯発科技)は175.51億ドル,10位のTI(テキサスインスツルメンツ)は169.04億ドル,11位のAMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)は161.08億ドルである。

 このうち,インテルの2021年のパフォーマンスが芳しくなく,2021年の売上高の対前年比はマイナスの1%であった。全半導体企業の平均増加率が25.4%である中,インテルのみはマイナスの伸び率となった。その結果,半導体企業の売上高ランキングにおいて,インテルは前年の1位から2021年は2位に転落した。11社中,最も注目されるのはAMDだ。2021年には前年比65%増の最も高い伸び率を記録し,ランキングも前年の15位から2021年には11位に上昇した。2番目に高い伸び率を見せたのはメディアテックで,前年比60%増となった。近年,メディアテックはTSMCの最新鋭7nm(ナノメートル),6nmと5nmSoC(システムLSI)チップを採用し,スマートフォン用の「天璣1000」,「天璣8000」,「天璣9000」を開発し,5G通信用チップ売上高のトップを占めるようになった。

 近年の半導体不足でファウンドリー(半導体受託製造企業)であるTSMCが注目されたが,ファブレス(半導体設計企業)のメディアテックは同じく台湾企業である。台湾の半導体業界では,メディアテックはTSMCに続く第2の「護国神山」(護国神社が国を守るように,様々な災害から国を守る山の意が転じて経済の要の意味)と言われるが,本当の「護国神山」になれるかは,今後の発展のパフォーマンス次第である。

 ファブレス企業はそれぞれの領域で多くの知的所有権(IP)を累積させ,積み木のように後続のファブレスに対し参入障壁を構築することになる。従い,新設のファブレス企業に対してIPを販売し,障壁を低くすることで,その見返りを稼ぐことができる。または,自社の特許が侵害されたと訴えることで,相手に威圧を加えるケースもある。新設ファブレスにとっては不平等な競争環境と言えよう。特に,線幅5nmより繊細の半導体をファブレス企業が設計する場合,フォートマスク作成などに巨額の投資が必要になる。

世界で29のウエハー工場を新設

 世界では2021年に19と2022年に10で合計29のウエハー工場を新設する。その内訳は,台湾と中国にそれぞれ8つ,米国に6つ,欧州に3つ,日本と韓国にそれぞれ2つのウエハー工場を新設する。また,製造ラインの内訳は,12インチウエハー工場が22(2021年に15と2022年に7つ)と8インチ,6インチと4インチのウエハー工場が7つである。2021年建設の19のウエハー工場が量産化した場合(2023年頃),月産換算で62万枚の8インチのウエハーが生産され,半導体不足の解除に貢献が見込まれている。

台湾トップ4社のファウンドリー企業

 次に台湾トップ4社のファウンドリー企業の売上高について見ると,2021年の売上高では,1位のTSMCは15,874億台湾元(1台湾元は約4円),2位の聯華電子(UMC)は2,130台湾元,3位の力晶積成電子製造(PSMC)は656.2億台湾元,4位の世界先進積体電路(VIS)は439.5億台湾元である。これらの企業の売上高はいずれも史上最高額を記録した。近年,TSMCの売上高は年率平均18.5%増の勢いで伸びている。こうした中,TSMCは2回の値上げを実施し,1回目の時は得意先向けの割引を取り消し,2回目は2021年10月に約20%の値上げを実施した(ただし,アップルのような最大顧客に対する値上げは約8%にとどめた)。この値上げは今年の売上高の上昇にも反映されている。

 TSMCの2021年第4四半期の株主説明会によると,今後の売り上げ伸び率は15~20%の年複合増加率で増える見通しという。これは驚異的な伸びである。仮にこの見通しで予測すると,TSMC売上高は2021年の566.33億ドルから2025年以降に1,000億ドルを超過する。この売上高は2021年1位のサムスン電子の830.85億ドルを凌駕する(当然,サムスン電子の売上高は増えると思われる)。仮にそれが実現した場合,TSMCは世界で最も売上の多い企業になることも夢ではなくなるだろう。

TSMCの新設工場

 TSMCの新設のウエハー工場は次のようである。

  • (1)南部サイエンスパーク:第18工場(Lab18)P5~P8で3nmと5nmの生産ライン
  • (2)新竹サイエンスパーク:第20工場(Lab20)P1~P4で2nmの生産ライン(もともとは研究ラインであり,インテルから3nmのインテル半導体用専門生産ラインが要求され,このプラントの生産能力不足のため,新たに中部サイエンスパークで製造プラントを建設)
  • (3)高雄(元・中国石油高雄煉油所の跡地):12インチウエハー2つの工場
  •   第1期に月産4万枚7~6nmのウエハー工場,2025年に量産予定
  •   第2期に月産2万枚の28~22nmのウエハー工場
  • (4)中部サイエンスパーク:8000億~1兆台湾元を投資し,2nmウエハー工場を建設する(インテルの3nm専門生産ラインも併設)
  • (5)米国アリゾナ州フェニックスの5nmウエハー工場,2024年に量産。
  • (6)南京ウエハー第16工場(Lab16),12インチ,月産4万枚,28nmウエハー工場
  • (7)熊本菊陽工場,2022年に建設開始,2024年に量産。22/28~14/16nmウエハー工場,月産4万枚
  • (8)欧州工場(当初はドイツからチェコに変化,後にはイタリアの予定),2022年に決定予定,28/40nmウエハー工場,月産4万枚

以上のTSMCの建設案に説明を加えたい。もともと新竹サイエンスパークの第20工場(Lab20)P1~P4の2nmの生産ラインは研究ラインであり,インテル向け3nmの専門生産ラインが要求され,ここの生産能力の不足から中部サイエンスパークにインテルの3 nm専門生産ラインを設けるようになった。インテル向け専門生産ラインの設置が要求されたことから,インテルの注文量は多いことが示唆される。先端製造プロセスの場合,企画から量産化に至るまで少なくても約1~2年間(新しい工場を建設する場合,約1年間増える)を要し,多くの資金の投資が必要である。

[参考文献]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2587.html)

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