世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2556
世界経済評論IMPACT No.2556

台湾有事,軍事関与は我々の約束だ!:日米首脳会見でバイデン大統領が語る真相

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2022.06.06

国務省「米台関係」記述の変更

 5月5日,米国務省東アジア太平洋局(EAP)ホームページに掲載された「米台関係(U.S. Relations with Taiwan)」のファクトシートの記述が大幅に修正され,マスコミから多くの注目を集めることになった。

 ただし,表面上,国務省スポークスマンは,「アメリカの“一つの中国”政策は変更していない」と述べている。

 国務省のホームページの記録によると,5月5日の更新以前のバージョンは2018年8月31日に公表したものである。2018年バージョンで述べた「三つの共同コミュニケ」に基づき,最も重要なのは「世界にただ一つの中国があり,アメリカは台湾が中国の一部分であると“認知(acknowledge)”し,台湾独立を支持しない」という中国に“忖度”する文句が記載されていた。

 一方,2022年5月の新しいバージョンでは,以下のように記述が変更された。

 主な変更点は,(1)“「台湾関係法,米中の三つの共同コミュニケと六つの保証による長期の“一つの中国”政策」に基づく“とされたこと。これは今年3月のバイデン大統領と習近平国家主席とのオンライン首脳会議時に用いられたもので,言葉の順番は「台湾関係法,米中の三つの共同コミュニケと六つの保証」で,これはバイデン大統領が一貫して用いるものである。旧バージョンの多くで書かれた「三つの共同コミュニケ」に基づく「台湾を中国の一部と“認知”する」の部分は削除されている。この変化で人々は「一つの中国政策」を新たに考えることになる。繰り返し述べるが,アメリカの「一つの中国政策」とは「台湾関係法,米中の三つの共同コミュニケと六つの保証」であり,中国が主張する「一つの中国原則」の中身とは異なっている。日本のマスコミでも,この違いを認識していない人は結構多い。

 (2)米台関係は,民主主義に基づくパートナーシップであり,ハイテクなどの経済面においても非常に重要な関係である。米台関係は“堅固で盤石の如く”であり,台湾海峡の平和と安定は,アメリカの重要な利益である。新しいバージョンでは「台湾独立を支持しない」の文言も削除された。これによる新たに米台関係は,「一つの中国と一つの台湾」政策の方向に傾斜したと言える。言い換えれば,「台湾は中国の一部」としてきた文言を削除したことで,アメリカは“曖昧な態度”を保持したことになる。

 新しいバージョンへの変更は,アメリカの対台湾政策変更のシグナルなのか。これについて,国務省スポークスマンによる背景説明では「アメリカの“一つの中国政策”は変更していない」,「40年間,アメリカの一つの中国政策は,台湾関係法,米中共同コミュニケと六つの保証に基づくもの」で同じことを繰り返し述べてきた。また,同スポークスマンは,「台湾に対するアメリカの認知は,堅固で盤石の意志を持つ。台湾海峡からすべての地域に至るまで,平和と安定に貢献したい」と述べた。

 アメリカは北京に対し,「軍事・外交・経済などあらゆる面で台湾を威圧することを止め,台湾と有意義な対話を行うことを期待する」と述べた。しかし,同スポークスマンは,なぜこの時期にホームページの内容を更新したかに関しては一切説明していない。

 5月28日,この国務省「米台関係」のファクトシートの記述に,「台湾独立を支持しない」との文言が追加されるようになった。国務省のスポークスマンはこの追記が,北京側からの圧力や抗議によるものかについては,これを否定している。

日米首脳会談

 5月23日,バイデン大統領と岸田文雄首相が東京・元赤坂の迎賓館で日米首脳会談を行ない,日米共同声明を発表した。共同記者会見で米NBCの記者から「中国が台湾に侵攻した場合,アメリカは軍事的関与する意思があるか」と問われた。「はい,それは我々の約束だ」とバイデン大統領は明快に答えた。

 バイデン大統領の「台湾有事の際,軍事的に関与する」との発言は,今回が3回目である。1回目は2021年8月のABC放送のインタビュー,2回目は2021年10月のニュース専門のチャンネルCNNでの発言,そして今回の共同記者会見である。前回までの発言は「失言」と報じられたが,3回も同じ返事をするのは「もはや失言ではない」と受け止められた。また,1回目と2回目はアメリカ国内での発言で,今回は国外の記者会見での発言のため,世界で注目を浴びた。翌日,日本の新聞各紙はトップ紙面で「アメリカの軍事関与」を報じた。

 他方,ホワイトハウス当局者は大統領発言について,「アメリカの台湾政策に変更はない。大統領は一つの中国政策と台湾海峡の安定と平和への関与を再確認した」と釈明,「台湾関係法に基づき,台湾の自衛のための軍事的手段を提供するとの約束を繰り返した」と述べた。

 なぜ,バイデン大統領は「台湾有事の際の軍事関与」を明言したのか。主な理由は,ロシアのウクライナ侵攻時,アメリカは軍隊を派遣しないとのバイデン大統領の発言を,プーチン大統領が“誤判”したためだ。バイデン大統領は「台湾有事に軍事関与」と強い姿勢で明言しないと,習近平国家主席がアメリカは台湾に軍事関与しないと“誤判”するためだ。万が一,台湾有事が勃発した場合,アメリカは紛争収拾により多くの軍事力や資金を投入することとなる。そのためには,アメリカは「台湾有事」に対する態度を従来の曖昧戦略から明確化に舵を切る必要があったと考えられる。

アメリカによる台湾への軍事関与

 事実上,アメリカの台湾への軍事協力は至る所で見られる。アメリカの「軍事顧問団」から特殊部隊,海兵隊の教官や各領域の専門家を台湾に派遣し,台湾軍に軍事指導を行っている。

 2016年1月21日,台湾空軍パイロットの高鼎程少佐が,ルーク空軍基地(LukeAFB)でF-16戦闘機の訓練中に墜落死したとのニュースが報じられた。ルーク空軍基地とは,アリゾナ州マリコパ郡のグレンデールの中央ビジネス地区の西7マイルに位置する米国空軍基地である。当然,墜落事故がなかったら,背後にある米台軍事協力の真相は報じられなかったと考えられる。

 蔡英文総統が新竹と苗栗の県堺近くの「樂山雷達(PAVE PAWSの早期警戒レーダーおよびコンピューターシステム)」を視察した(2020年10月13日)。これは米・レイセオン社製のレーダーシステムである。2500キロから4000キロ先の中国や北朝鮮から発射されたミサイルの情報を,この警報システムが蒐集し,日米基地(沖縄やグアムなどを含む)の警報システムに送くるものだ。蔡英文総統が視察した空軍早期警戒センターで公開された写真の奥に,西洋人らしい人物が写り込んでおり,マスコミ関係者は,この人物は米軍関係者であると見ている。

 5月頃,台湾屏東県の潮州空挺降下場(旧日本陸軍戦闘機飛行場)のパラシュート部隊の訓練に,サングラスをかけた数名の「白人教官」が指導していた写真が,メディアで報じられた。台湾の国防安全研究院国防戦略・資源研究所の蘇紫雲所長は,彼らは俗称「Alpha 部隊」と呼ばれる米国のODA(Operation Detachment Alpha)部隊の一員であると述べた。ODA部隊は過去,アフガニスタンで活躍し,多くの戦果を挙げた実戦経験を積んだ部隊である。近年ではウクライナと台湾の軍人の訓練を行い,武装して悪劣下の環境で訓練を行っている。ロシアによる侵攻にウクライナ軍が多くの戦果を挙げた背後に,アメリカ特殊部隊による訓練があると言われている。

 そのほかに,台湾最大の漢光軍事演習時に米軍が軍官を派遣,指導している。これまでは,米軍の台湾軍の指導は“秘密事項”であったが,近年そうしたタブーがなくなり,公開されるようになった。事実上,「米軍の台湾関与」は既に常態化していると言えよう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2556.html)

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