世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2548
世界経済評論IMPACT No.2548

風雲急?! 対中包囲網

真田幸光

(愛知淑徳大学ビジネス学部ビジネス研究科 教授)

2022.05.30

 筆者は,ロシアのウクライナ侵攻が始まった頃より,「英米が覇権争いをする相手はロシアではく中国本土(以降,中国は中国本土を指す)である。従って,ウクライナ情勢が収束すると,間髪入れずに,英米の標的は中国になるはず」と述べてきた。こうした筆者の見方には,「陰謀論でとんでもない」する批判もあるが,基本的に考えは曲げていない。

 実際,ブリンケン米国務長官は,5月26日のワシントンでのスピーチで「国際秩序に対する最も深刻な長期的挑戦は中国によってなされている」と述べている。

 更に,「米国政府として中国の挑戦姿勢を是正し,自由でオープン,そして包括的な国際システムに中国が応じるよう戦略的に様々な環境を整えていきたい」と述べている。

 これに対して,中国外交部は27日の記者会見で,米国の上述の演説を,「噓の情報で,中国の脅威を誇張し,中国の内政に干渉した。また,中国の発展を抑圧し,米国の覇権と強権を守ることを目的としたものだ。中国政府は,強烈な不満と断固とした反対を米国に対して示す。」と表明している。

 こうした中国に比較して,ロシアは,1998年の「ロシア金融危機」以降,英米が確立した秩序である,英語,米ドル,英米法,国際標準化機構(ISO)の基準,英米会計基準などを次々と採用してきた。宇宙開発も米露連携の下,「国際宇宙ステーション」作りを推進し英米と協調してきたことから,「ロシアは,英米の秩序に敵対するどころか,むしろ,それに従ってきた」とも言える。しかし,米英は,仮に中国とロシアが手を組むことがあった場合の脅威に対し,ロシアの軍事的封じ込めを図ってきたと考えられる。(尚,こうした英米の動きに対するプーチンの怒りと反発は,米ドル基軸体制の放棄とルーブル建決済の導入や,この先には共同宇宙開発からの撤退などに表れてくるであろう)。

 これに対し中国はと言えば,中国語の世界浸透を進め,一帯一路を軸に国際的に人民元,デジタル人民元の浸透を図り,Governing Lawは中国法,Jurisdictionは中国裁判所でという中国の法秩序の拡大を画策など,現行の世界秩序たる,「英米の秩序」に挑戦し始めている。英米はこうした中国に対し警戒をさらに強めていると言えよう。

 こうした中,就任後初めて韓国,日本を訪問したバイデン大統領は,「Quad(日米豪印の安全保障面も含めた連携)と米国が主導するインド太平洋経済枠組み(IPEF)」を推進する。「いよいよ,英米の本格的な中国封じ込め作戦が始まった」と筆者は見る。

 特に,中国が参加の意向を示す環太平洋経済連携協定(TPP)に代わるIPEFを,中国への対抗と位置づけているようである。

 そして,サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)によると,IPEFには,先ずインド太平洋地域の13カ国(米国,韓国,日本,オーストラリア,ニュージーランド,インド,ブルネイ,インドネシア,マレーシア,フィリピン,シンガポール,タイ,ベトナム)が参加すると発表した。当初,アセアンは中国との関係を意識して,参加を見合わせる国が多いのではないかと見られていたが,先行して実施されたアセアン首脳とバイデン大統領の首脳会談の効果があり,米国としては胸をなでおろしているようである。

 また米国は,5月26日には太平洋の島嶼国であるフィジーも参加すると発表,これによりIPEF参加国は計14カ国になると発表している。太平洋の島嶼国の参加は中国の南太平洋での影響力拡大の動きを牽制する上で大きな意味を持つと考えられる。

 また,筆者の聞いていたところでは,当初,日本を訪問してから韓国に行くと言っていたはずのバイデン大統領がその順番を変えたのは,新たに就任したユン・ソクヨル大統領から「IPEF参加の基本承諾」を取った上で,来日するためであった。ユン大統領は,「自由民主主義と市場経済体制を基盤に短期間で成長と発展を成し遂げ,IPEFが包括するあらゆる分野でこれらの経験を分かち合いながら協力したい」と述べた。

 就任から13日で米国主導のインド太平洋経済枠組みに参加表明したのである。文前政権では,韓国は米国と中国の間で,「戦略的あいまい戦略」を取り続けてきたと言われていたが,IPEF参加という動きをユン大統領が示したことから,ユン政権は,「米国主導のアジア太平洋秩序に加わる意向を明確にした。」と韓国国内では評されている。

 一方,バイデン大統領は訪日中に記者団からの台湾に関する米国の姿勢を問われた質問に対し,ためらうことなく自らの考えを表明した為,これに中国が連日強く批判を続けている。当然の反応であろう。

 中国の王毅外相は,米国のインド太平洋戦略については,「結局は失敗する戦略である。」と強く批判,その批判を続けながら,南太平洋諸国などの歴訪を開始した。また,中国外交部によると,王毅外相は,国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の年次総会でオンライン演説し,「アジア太平洋地域は歴史の分岐点にある。アジア太平洋地域に如何なる軍事集団や陣営対決を引き込む試みも明確に拒否する。」とも述べている。

 日本で開催された上述のQuadの首脳会議を念頭に置いた発言を,その開催前にしたということであろう。

 中国はこれまでQuadについて,「米国がアジア太平洋にまた新たな北大西洋条約機構(NATO)を立ち上げようとしている。」とも批判してきたが,いよいよ,それが本格化する様相であり,中国が懸念するように,NATO同様,Quadにも常備軍が創設されると中国には大いなる脅威となることは間違いない。そして,中国政府は,在中国日本大使館の志水史雄特命全権公使と面会し,日米首脳会談やQuad首脳会合に関して,中国に対する否定的で誤った言動があったとして,日本に対して,「強烈な不満と深刻な懸念」を申し入れてきてもいる。(尚,Quadに関しては,参加国の中でインドは唯一,ウクライナに侵攻したロシアを名指しする批判を避けていることはご高尚の通りであり,インドとしては,食糧や武器の輸入を行っているロシアと潜在的な戦争対峙国である中国では対応が違うとしており,Quad参加はインドとしては,あくまでも対中政策姿勢の表れと見ておく必要があると思う)。また,中国は,国際社会から,「人権問題」で真綿で首を絞められるように圧力を受けることを警戒しているようで,王毅外相は5月23日,中国を訪問している国連人権部門トップのバチェレ人権高等弁務官と広東省広州市で会談し,「人権問題の政治化」に反対する立場を伝えた上で,少数民族への人権侵害が指摘される新疆ウイグル自治区を訪問予定のバチェレ氏に対して,中国政府の基本的立場を伝えると共に,中国の少数民族政策を尊重するよう牽制してきている。対中包囲網は,正に風雲急である。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2548.html)

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