世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2535
世界経済評論IMPACT No.2535

プーチンの二枚舌差別主義

田崎正巳

(STRパートナーズ 代表・元モンゴル国立大学 教授)

2022.05.16

 ロシアのウクライナ侵略に対する報道は毎日続いているが,そのほとんどはウクライナ側からの発信かプーチン及びモスクワに関する情報ばかりである。本稿ではプーチンのロシア国内向け二枚舌差別主義について記載する。多くの情報源は,モンゴル国を通じてのモンゴルとの国境のロシア側にあるモンゴル同胞民族からの情報であるとご了解いただきたい。

 プーチンは何度も「我々ロシア人はスラブ系でウクライナとは兄弟である」と言っているように,彼がロシア人というのはスラブ系白人のことであって,アジア系はロシア人の範疇には入らない。その中でも,過去300年近く支配され苦しめられたモンゴル系,トュルク系に対する人種差別は甚だしい。

 本稿の読者にはウクライナで捕虜となったロシア兵の発言を目にした方も多いであろう。「まさか戦争に行くとは思わなかった。訓練のためだと聞いていた」「兵器なんか扱ったことがない。ママに会いたいよ」という極東から派遣された20歳前の兵士の声。

 大国が戦争するときに決まっている原則がある。異民族を先に最前線へ送り込むというやり方である。中国がチベットを攻めた時は,まずモンゴル兵を送った。アメリカもヨーロッパ戦線に送り込むときに,まず黒人,そしてドイツ系移民,イタリア系移民を優先的に送り込んだのである。

 私が具体的な例を最初に耳にしたのは開戦後わずか2週間後のことであった。モンゴル国のモンゴル人の知人(当然親せきや知り合いは,国境の向こうにもいる)がブリヤード共和国(モンゴル民族)にいて,その中の結婚したばかりの若い男性が突然徴集され,ウクライナに送られたのである。無論,その男性は武器も銃も触ったことすらなかった。そのような素人がウクライナに送られて,殺人しろと言われるわけである。

 その後,ブリヤード共和国の首都ウラン・ウデに荷物が到着し始めた。荷物にはロシアの隠語で200番と300番という荷物がある。300番は負傷者という意味である。3月中旬に,200番が100個届いた。200番とは「死体」を意味し,100個の死体がウクライナ戦線から送られてきたということである。そしてそのほとんどはブリヤード人とのことであり,先日の若者の死体もその一つであった。これを知ったモンゴル国のモンゴル人も大きく悲しんだ。ニューヨークタイムスの記事には,「ウクライナにロシアが侵攻し人々を虐殺するのを見て,モンゴルの若者がスフバートル広場で抗議の声を上げデモをした」とあるが,そこには,先進国の人々が単に民主主義がどうこう言う主張とは全く別の,同胞としての怒りが背景にあるのである。

 4月下旬,モンゴルから衝撃的な事実が入ってきた。ブリヤード人の戦死者数は民族別でなんと第2位であるとのこと。ロシアは多民族国家であり,180を超える民族がいる。ロシア全体の人口は1億4400万人おり,そのうちロシア人が80%を超える1億1600万人に対してブリヤード人はわずか44万5000人,比率にして0.3%しかいないのに戦死者数では2番目に多いのである。

 1位はタジク人とのこと。こちらはもっと少なくて,わずか12万人。タジク人全体では,アフガニスタン,タジキスタン,ウズベキスタンなどに2000万人くらいいるようだが,ロシア内のタジク人は超少数民族なのである。このように人口の少ない民族が戦死者数第1位であるというのは,どう考えても意図的に選んで戦地に送り込んでいるとしか考えられない。タジク人も元々はトュルク系遊牧民族なので,戦死者数1位と2位がアジア系遊牧民ということになる。

 日本のある記事に載っていた「今,多くの遺体がそのロシア国内の出身地に送り返されており,テレビでいうロシアの戦勝気分とは全く違う様子が地方に伝わっている」,「モスクワやサンクトペテルブルグに遺体が送られることはほぼない」,「前線に送られる徴集された戦士の99%は,都会から遠く離れた田舎の若者である。モスクワやサンクトペテルブルグの人たちにとっては全く戦争など関係ない生活をしている」というのは,まさにこれらの事実と一致している。プーチンはアジア系民族を使い捨てにしながら,白人ロシア人中心の大都市での高い支持率を得ているのである。

 プーチンの二枚舌ご都合主義は,ロシア人イコール白人ロシア民族という前提で話す一方,戦争などで犠牲を強いられるのは,国籍はロシアだけどプーチンすらロシア人だと思っていないアジア系民族なのである。まさに人種差別をはっきりと見せつけているのである。

 我々もロシア人=プーチン大好き=偏狭主義者と捉えるのではなく,アジアの同胞が苦しんでいる事実に思いを馳せねばならぬと思う。世界から応援メッセージ届くウクライナ人とは違い,ほとんど誰も気に留めない悲劇のアジア系民族がこの戦争によって浮き彫りになっている事実を。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2535.html)

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特設:ウクライナ危機

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