世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
カーボンニュートラルへの技術ロードマップ:電力業
(国際大学大学院国際経営学研究科 教授)
2022.05.09
国内外を問わず,大きな盛り上がりをみせるカーボンニュートラルをめざす動き。経済産業省は,「『トランジションファイナンス』に関する〇〇分野における技術ロードマップ」という形で,2050年へ向けての産業ごとの技術展望を次々と発表している。22年2月には,電力業に関するロードマップを開示した。資源エネルギー庁電力基盤整備課が公表した「電力分野のトランジション・ロードマップ」(以下,「ロードマップ」と表記)が,それである。
「ロードマップ」が具体的施策として掲げるのは,「水素・アンモニア・バイオマスの混焼及び専焼,CCUSの活用といった火力電源の脱炭素化」,「最新鋭の再エネ,原子力」,「系統増強や需要側の電化に向けた技術等」である。ここで言うCCUSとは,二酸化炭素回収・利用,貯留のことをさす。
「ロードマップ」の記述で特徴的なのは,火力電源の脱炭素化に関する記述が厚いことである。これは,当然のことと言える。次のような事情が存在するからである。
カーボンニュートラルのためには,太陽光や風力のような変動電源を多用しなければならない。変動電源にはバックアップの仕組みが不可欠であるが,蓄電池はまだコストが高いし,原料面で中国に大きく依存するという問題点もある。したがってバックアップ役として火力発電が登場することになるが,二酸化炭素を排出する従来型の火力発電ではカーボンニュートラルに逆行してしまう。そこで,燃料にアンモニアや水素を用いて二酸化炭素を排出しない,あるいはCCUSを付して排出する二酸化炭素を回収する「カーボンフリー火力」が必要になる。つまり,カーボンフリー火力なくしてカーボンニュートラルはありえないという事情である。
アンモニアについて「ロードマップ」は,まず石炭火力でのアンモニア混焼から始めるとする。24年までに実機実証を終えたのち,25年から20%程度の混焼に取り組み,30年代には50~60%程度の本格的混焼を行う。そして,40年代にはアンモニア専焼を導入し,実用化するとしている。
水素については,まず混焼に関し,25年までに実機実証等を行ったうえで,10%程度の混焼技術を確立し,30年代に実用化する。さらに専焼に関しては,30年まで実機実証を行ったのち,30年代以降,技術の確立と商用化を進めるとしている。
CCUSについては,30年まで,性能向上・プロセス開発・製造技術開発に取り組み,それらを実証する。CCUSが本格的に実施されるのは,30年代以降のことになる。
以上の見通しをふまえて「ロードマップ」は,火力発電に関し,「2050年断面でCCUSが導入されていないものは,(アンモニアないし水素の)専焼化する」と述べている。
このほか「ロードマップ」は,送電網の強化・高度化,デマンドレスポンスや電化の推進,蓄電池・揚水・分散型エネルギーリソースの拡充に言及している。一方で,再生可能エネルギーや原子力についての掘り下げは弱い。
特に気になるのは,グリーン成長戦略に盛り込まれた高速炉,小型モジュール炉,高温ガス炉などの次世代原子力技術に関する記述が,「ロードマップ」に含まれていない点である。政府は,「2050カーボンニュートラル」の実現に「最新鋭の原子力」を使うと言いながら,本気でそうする気があるのだろうか。はなはだ疑わしいとみなさざるをえない。
- 筆 者 :橘川武郎
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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