世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2501
世界経済評論IMPACT No.2501

今さらながら,「カーボンニュートラル」って何だ

橘川武郎

(国際大学副学長・大学院国際経営学研究科 教授 )

2022.04.11

 日本だけでなく,世界中がカーボンニュートラルへ向けて雪崩を打っている。しかし,よくよく考えてみると,「カーボンニュートラル」とは変な言葉である。直訳すれば,「炭素中立」となる。何のことだか,よくわからない。今さらながらであるが,「カーボンニュートラル」っていったい何なのだろう。

 カーボンニュートラルに近い言い回しに,「脱炭素社会」というのがある。これもまた,妙だ。文字どおり炭素がなくなってしまったら,人類は滅亡してしまう。炭素を含む炭水化物がなければ,人間は生きていけないからだ。

 カーボンニュートラルの「カーボン」や脱炭素社会の「炭素」は,厳密に言えば「二酸化炭素」,つまりカーボンダイオキサイドのことだ。本来であれば「カーボンダイオキサイドニュートラル」とか,「脱二酸化炭素社会」とか言わなければならないわけであるが,それは面倒くさいので「カーボンニュートラル」,「脱炭素社会」のように省略する。わかりにくさの一因は,この点にある。

 二酸化炭素が問題視されるのは,地球温暖化の原因である温室効果ガスの代表格だからである。二酸化炭素の排出を抑制し気温上昇をおさえこまないと地球は危機的状況に陥り,人類に未来はないとみなされている。

 そうであるとすれば,なぜ,二酸化炭素の排出をなくすという意味を込めて,「カーボンゼロ」と言わないのか。それは,二酸化炭素の排出をゼロにするのは,事実上不可能だからである。

 どんなに努力しても避けることのできない,ある程度の二酸化炭素の排出。そうだとすれば,排出と同規模の二酸化炭素の回収・吸収を実現して,差し引きゼロにするしかない。排出量と回収・吸収量とを等しくすることによって,「実質ゼロ」を実現するわけである。

 この「排出量=回収・吸収量」を意味する言葉が,「ニュートラル」だ。「カーボンゼロ」とは言わず「カーボンニュートラル」と表現するのは,このような事情が存在するからである。

 ややくどいと感じながらも,今回は,「カーボンニュートラル」という言葉の意味を詳しく吟味した。そうまでしたのは,「カーボンニュートラル」が,人類にとって,現時点で最も重要なキーワードの一つだからである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2501.html)

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