世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本を再び変革の風土に作り替える:30年の停滞から脱して成長軌道にのせる
(元文京学院大学 客員教授)
2022.03.07
選挙の季節が終わり,国会での論戦がたけなわである。コロナ禍で大きく傷ついた人々,中小企業に支援の手を差し伸べるのは当然だが,アフターコロナの国家の基本的な経済政策についても野党はともかくとして,与党までが―最近でこそ「成長」に言及するようになったが―「分配」の方に力が入りすぎているように見えるのは憂慮されるところである。
成長の戦略としてカ―ボンフリー,DX,グリーン田園都市構想などが列挙されそれが「新しい資本主義」と声高に叫ばれているが,私には「またスローガンで終わるのではないか」という予感が頭をよぎるのである。
「日本にもシリコンバレーを作ろう」ということは30年も前からいわれてきた。しかし平成30年の実績では市場価値10億ドル以上のいわゆる「ユニコ―ン企業」数は,米国151,中国82日本は1という惨憺たる状況になっている。
政治家と官僚の多くの方は構想を作るのは誠にたけているが,その構想を実現していくためには何をすればいいのか,実現するための障害は何か,抵抗があってもそれをどのように取り除いくのかという努力があまりなされてこなかったということであろう。
日本は1970年代から90年代の高度成長を謳歌して「現状維持でいいのだ」という考え方が支配的になり政官財の安定した統治機構ができ上って,この考えが民間にも広がっていったのだと思う。この状態を「ぬるま湯につかったユデガエルになった日本人」と表現した人もいた。私はある大企業に勤務し40年間海外事業を従事していくつかの優良企業を育ててきたが私が接した海外のビジネスマンの考え方は「現状維持でよいと思ったらその企業は負け」という極めて厳しいものであった。
欧米,中国,それに韓国,台湾は1980年代「JAPAN as NO1」とまでもてはやされた日本式経営モデルをその長所と短所を徹底的に分析した。彼等は1990年代から芽を出し始めた情報化産業特にIT産業に対し日本が距離を置いて眺めていた間にこれぞ未来の成長産業であり,日本を追い越す好機と考え,集中投資をしたのである。
私は2002年5月3日付の日経新聞の経済教室欄に私が14年間イタリアミラノに出向してこの目で見た最新のイタリア流デザインビネスモデルの競争力を「彼らはモノをうっているのではない。新しいモノで彼らが描き上げた新しいライフスタイル(情報)を売っているのだ」と紹介した。かなりの反響はあったが,あれから20年もたつが日本ではいまだビジネスとはモノそのものを売るのだという考えが支配的である。
日本がもたもたしている間に,先に述べた東アジアの国々はITへの投資を果敢に行い,経済を成長させ,2027年ごろには一人当たりGDPが日本を抜くと予想されている(日本経済センター予測―日経2022年1月4日)。
私はこれらの国々に追い越されるのを問題にするよりも,むしろ日本という国の活力が大幅に低下しつつあること,このことを放っておいていいのかということを問題にしたい。
私はGDP至上論者ではないが,国力を考えるとき経済成長が大事な要素であることは今後も変わらないと思う。例えば今後も大災害や疫病などがいつ押し寄せてくるかわからないし,今回のロシアのウクライナへの侵攻を見ても自分の身は自分で守らねばならぬことを痛感させられている。これ等の施策には資金がいるのである。
日本に今,何としても新しいものを果敢に生み出そうとする風土を再生し,現状を打破し,新しいもの,革新的なものを生み出す風土を再び作りなおさねばならないと思う。
かつて小泉元首相は「自民党をぶっ壊せ」と言った。今まさに政界も,官界も,財界も既存の制度を総ざらいして見直し,過酷を極める世界規模での競争に立ちむかえないものは既得勢力の反抗を断ち切ってぶっ壊すぐらいの気概で立ち向かう時期に来ているのではないか。
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