世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
「コロナ禍で東京への人口集中鈍化」どう評価するか
(高崎経済大学 名誉教授・事業創造大学院大学 特任教授)
2022.02.21
東京都への転入超過数最少を更新中
総務省は2021年の人口移動報告(含む外国人)を2022年1月下旬に公表した。それによると,都道府県間移動者数は247万6640人(前年比0.5%増),都道府県内移動者数は277万1104人(前年比0.7%減)であった。転入超過都府県は東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県,茨城県,群馬県,山梨県,滋賀県,大阪府,福岡県の10都府県で,転出超過は37道府県である。
3大都市圏でみると,名古屋圏及び大阪圏は共に9年連続の転出超過であった。他方,東京圏は26年連続の転入超過となるが,前年に比べ1万7564人少ない8万441人となる。神奈川・埼玉・千葉3県は前年比増であったが,東京都は転入超過とはいえ前年より2万5692人も少なかった。なかでも東京都特別区部の人口は2014年以降初めて1万4828人の転出超過となる。
一方,東京圏に隣接する茨城県,山梨県及び群馬県は前年の転出超過から転入超過へ転じた。この要因は,大手企業を中心にコロナ対策としてテレワークが取り入れられ,東京への通勤が可能で安価な土地・住宅を取得でき,相対的に環境の良い地域でのテレワーク移住者の増加にあるとういう。また,オンライン講義の増加で東京近県出身大学生が少なからず親元に拠点を移したことも大きいという。さらに数は少ないがDXや働き方改革の一環として本社機能を東京区部以外に移転させた企業の影響もある。
このようにコロナ禍において東京区部から人口や企業の地方への流出・回帰などの新しい動きが見られる。地方自治体の中には移住者増加を期待して補助金や受入体制強化を図る。それをマスコミがポストコロナへの新しい動きと評価するが,この動きがポストコロナに定着し,東京一極集中是正の方向に拡大していくのであろうか。
バブル経済崩壊後の東京再一極集中による地方圏の疲弊
1991年のバブル経済崩壊まで東京都の人口は1980年の1161.8万人から1987年の1191.5万人に約30万人増加した。しかし,バブル経済により東京の地価が急騰し都内での住宅取得が困難になると,東京都の人口は1987~1995年に首都圏外郭地域に約13万人流失した。しかし,その後再東京一極集中が起こり,1995(11,773,605人)~2020年(14,064,696人)に229万人の増加を見た。これはバブル経済崩壊の不良債権処理に政府資金が投入され,東京の経済・雇用力が再生した。また,東京の地価下落により一般サラリーマンにも手が届く超高層マンション建設が東京区部で活発化し,1995年以降の大幅人口増加となった。
他方で,この東京再一極集中は1987年以降に東京から流出人口を受け入れた地域に不良債権を新たに生み出すことになった。たとえば,群馬県は1993年以降に東武電車で東京から約60分の板倉ニュータウン(220ha)を造成し,1997年には東洋大学2学部も誘致した。しかし,バブル崩壊の東京の地価急落で住宅価格が下落すると給与水準の高い移住者から勤務地に近く利便性の高い東京区部へ戻り,板倉ニュータウンの空洞化・不良債権化が始まった。また,公的補助を得て立地した東洋大学も群馬県では学生募集に不利と撤退を決定した。東京にバブルの後遺症は感じられないのに,群馬県の疲弊は深刻である。
今日ではテレワークの普及や環境意識の高まりから,バブル崩壊時より地方移住は持続するであろう。しかし,2021年の東京区部の人口減少で増加したのは東京近郊で大阪圏や名古屋圏すら流出超過である。ポストコロナでも社会活動が正常化し,テレワークや移住者への特別補助終了を期に東京再一極集中が起こり,地方衰退・東京との格差拡大の深刻化が懸念される。
国民一人一人があるべき国のかたちを考え,国土構造を再構築する時
いかに知識情報化社会が進化しても最終意思決定などで対面交流は不可欠である。大企業の本社各種団体の本部機能が東京に集中する限り,また東京圏外の企業や大学には人材や受験生が集まらないという東京を頂点とする階層地域認識の歪んだ国民意識を転換しない限り,逆説的だが東京一極集中は復活・強化する。その結果,東京は再生しても東京以外は衰退し,日本の国力・国際競争力低下と貧困問題が益々深刻化するであろう。また,首都直下地震や新たな感染症などの災害対応能力も低下し,東京は最大の問題発生源化するであろう。
そうした事態を避け,あるべきポストコロナ時代の構築には,国民一人一人があるべき国のかたちを考え,それを実現しなければならない。それには,①国政全般の改革を促進,②企業の本社の分散化,③災害対応力の強化を図り,国土構造を知識情報社会に適した水平ネットワーク型に再構築する首都機能移転が求められる。これにより国民の意識改革も進み,ポストコロナに日本再生の道が開けるものと考える。
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