世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
中小企業に惹きつけられる
(高崎経済大学経済学部 教授)
2022.01.10
私は,中小企業や中堅企業の国際化に関心がある。
もともと「企業の国際化」に関心をもって,大学院へ進学した。大規模な多国籍企業を対象として調べ始めた。いつから,中小企業に関心を持つようになったのだろうか,コロナ禍にあってふと考えた。
2021年版『中小企業白書』によると,日本の製造業の99.5%は中小企業である。その他の業種を含めても同様の割合となる。付加価値額でみても,全製造業に占める中小製造業の割合が47.5%となっており,日本経済にとって重要な存在であることは明らかだ。海外展開比率については,直接輸出は1997年の16.4%から2018年には21.4%,直接投資は1997年の8.6%から2018年には15.0%となっている。とりわけ直接投資が大きく増加している。こうしたデータから,中小企業においても海外展開が進展していると読み取ることができる。
しかし,こうした指標でみられる中小企業の存在の大きさに,興味をもったという感覚はない。全体像をとらえるというよりも,一つひとつの企業に強く魅かれたのだと思う。
2008年8月に初めて,タイのバンコクから高速道路で60分,スワンナプーム国際空港から40分ほどに立地するアマタナコン工業団地にあるオオタテクノパーク(OTA TECHNO PARK(以下OTP))を訪れた。大田区産業振興協会の当時の専務理事にご紹介いただいて,OTPを運営しているアマタコーポレーションの担当者にOTPの運営について直接伺った。
オオタテクノパークは2006年6月に開設したばかりの,中小企業向けの賃貸工場アパートであった(注1)。「大田区は産業のまちである」と宣言している東京都大田区は,モノづくり企業が集積している。そうした大田区にあっても,産業構造が変化し,企業活動のグローバル化が進展する中で,1960年代以降,とりわけ1980年代を中心に,東京都外へ生産機能を拡張または移転する動きが見られるようになった。そして,取引先企業の海外展開に呼応するかのように,海外に工場を立地する中小企業も見られるようになった。
しかしながら,中小企業は,ヒトの面でも,モノの面でも,カネの面でも,そして情報の面でみても,経営資源の制約がある。そのため,柔軟に外部資源を活用することが重要になる。OTPは,海外展開しようとする,東京都大田区内に立地する中小企業の国際化をサポートするものであり,中小企業の経営資源の制約を超克することに寄与するものであった。
OTPに入居する数社を訪問した。そのうちの1社が,2002年にタイに現地法人を設立,2006年にOTPの開設に合わせて,第1号企業として入居した油圧シリンダーメーカーの株式会社南武である。同社には,その後ほぼ毎年訪問してきた。当時の現地法人マネジャーの方から現在まで,3人の現地マネジャーにお目にかかったが(もちろんマネジャー以外にも,工場長やマーケティング担当等現地に駐在する方々にもお目にかかったが,そのいずれの方も),仕事と現地従業員を強く愛して,タイ事業を育んでいた。大変僭越ではあるが,お目にかかるごとにたくましく,力強くなっていかれる(私と同年配の)現地マネジャーにお目にかかる度に刺激を受けて帰国した。
海外展開していない中小企業の方も魅力的だ。蔵前産業株式会社Explo事業部の大原氏との出会いが,そのひとつだ。東京ビックサイトで開催されていた,2013年の機械要素技術展に出展していた蔵前産業のブースの前を通りかかって,大原氏にたまたま声をかけられたのがきっかけだ。その後,ゼミ生を連れて同社を訪問させていただいた。以降毎年ゼミ生に講演をしていただいたり,私自身もお話を伺ったりしている。
大原氏は,機械加工を主事業とする蔵前産業で,1枚の紙から深さ50ミリ(最大70ミリ)の紙容器を深絞り加工で製造するExplo事業を,ひとり事業部(長)として生み出し,育てている。苦労とともに楽しさを伴う新規事業の創造とマーケティングにかかわる逸話,そして大原氏の人となりに,深く感銘を受け続けている。
中小企業の経営者や中小企業で働く人とのこうしたお付き合いから,私の中小企業への思い―熱―はますます高まっていったのだと思う。そして,いつかそうした方々のいくばくかの役に立てればと切に願っている。
[注]
- (1)山田伸顯(2009)『日本のモノづくりイノベーション―大田区から世界の母工場へ―』日刊工業新聞社
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