世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
オンサイトメタネーション+オンサイト水素生成
(国際大学 副学長・大学院国際経営学研究科 教授)
2021.11.29
メタネーションとは,水素と二酸化炭素(CO2)を反応させ合成メタンを作り出す技術である。天然ガスの主成分はメタンガスなので,メタネーションは,天然ガス利用者がカーボンニュートラルを達成するうえでのキーテクノロジーとなる。使用時に排出するCO2を,生産時に使用するCO2で相殺することができるからである。
2021年9月に開催されたメタネーション推進官民協議会の第2回会合において,二つの注目すべき報告があった。
一つはIHIが,飲料大手のアサヒグループホールディングスの研究子会社アサヒクオリティーアンドイノベーションズへのメタネーション装置の納入を,報告したことである。茨城県守谷市にあるアサヒグループ研究開発センターでは,この装置を使って,国内食品企業としては初めてのメタネーションの実証試験に取り組む。そのねらいについて,アサヒグループホールディングスの21年8月31日のプレスリリースは,「メタネーションで製造した合成メタンは,将来的には,ボイラや燃料電池などの燃料への使用をはじめとした,工場内での『カーボンリサイクル』への展開を検討していきます」,と説明している。
もう一つはデンソーが,愛知県の安城工場に工場内CO2循環をめざす実証プラントを設置した旨,報告したことである。このプラントは,CO2回収機,水素発生器,メタン化反応器,および発電機によって構成されている。
これら二つの取組みは,いずれも,工場内でのメタネーションをめざしている。事業所ごとに進める「オンサイトメタネーション」の実現可能性が,高まっているのである。
これまでメタネーションは,都市ガス業界が主として進めるものと考えられてきた。21年6月に改定された「グリーン成長戦略」も,重点分野の一つして新たに「次世代熱エネルギー産業」を掲げたうえで,「2030年には既存インフラに合成メタンを1%注入」するとしている。この「既存インフラ」とは既存のガス導管のことであり,あくまで都市ガス事業を念頭に置いて,メタネーションの未来像を描いていると言える。
しかし,30年に1%という合成メタン注入率の目標からわかるように,都市ガス事業におけるメタネーションは,すぐに進展するわけではない。それが本格化するのは,30年代以降のことになるだろう。
これに対してオンサイトメタネーションは,都市ガス事業におけるメタネーションに先行して,20年代にも進行する蓋然性が高い。そう見通すのには理由がある。
それは,部品メーカーに対して,製造工程でCO2を排出しないように求める最終製品メーカーからの圧力が強まっているからである。今後は,サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルを達成するため,CO2を排出する工場からの部品供給は受け付けないという最終製品メーカーが増えるだろう。当初は,電気利用に関してRE100(使用電力の100%を再生可能エネルギーにより発電された電気で賄うこと)の実施を求めることから出発し,やがては,熱利用に関してもカーボンフリーの燃料の使用を要求するようになることは必至である。したがって,メタネーション等により自社工場のカーボンフリー化を実現することは,部品メーカーにとって死活問題となる。部品メーカーのあいだでオンサイトメタネーションへの期待が高まるのも,当然のことなのである。
ただし,オンサイトメタネーションには,深刻なボトルネックが存在する。それは,水素を低コストで調達することが容易でないという事情である。
電解工場等からCO2を排出しつつ副生される水素(いわゆる「グレー水素」)を調達するのであれば,それほどコストがかからないかもしれない。しかし,それではサプライチェーン全体のカーボンニュートラルは達成されないから,ここでは意味をなさない。あくまで製造過程でCO2を排出しない「グリーン水素」を調達しなければならないわけである。
通常,グリーン水素は,再生可能エネルギーで発電された電気を用いて,水の電気分解を行うことで製造される。しかし,今のところ,この方法はコストが高い。電気分解装置という特別な設備を必要とするうえ,装置それ自体の稼働率を維持することが難しいからである。また,オンサイトメタネーションの場合には,工場等の事業所で発生するCO2の量と,調達する水素の量を的確にマッチングさせることも容易ではない。
ここで注目したいのは,このオンサイトメタネーションのボトルネックを突破するうえで有用だと思われる新技術に,最近,光が当たっていることである。
新電力の雄であるイーレックスは,21年9月16日に「国内初の商用の水素専焼発電所 山梨県『富士吉田水素発電所』の起工式のお知らせ」と題するニュースリリースを発表し,そのなかで「本水素専焼発電所は,Hydrogen Technology株式会社の水素の供給・保守技術とイーレックス株式会社の発電所運転,電力小売の知見を組合せ,安定的に水素専焼で発電を行い,電力小売りで活用するプロジェクトです」,と述べた。その際,使用する水素生成技術について,Hydrogen Technologyのホームページは,「外部からの熱や電気をほとんど使用せず,水と独自開発した天然鉱石との反応だけで,天然鉱石から水素を取り出すという今までにない画期的な水素生成技術の開発に成功。小スペースにて大量の高純度の水素を,水素の生成から使用に至るまで,CO2フリーを実現いたしました」,と説明している。
この新技術が普及すれば,事業所のオンサイトでCO2フリーの水素を生成・貯蔵することができるようになる。しかも,反応させる水の量の変更によって,発生させる水素の量を調節することも可能である。この「オンサイト水素」の活用によってボトルネックが解消され,オンサイトメタネーションが進展する日は,遠からずやって来るだろう。
- 筆 者 :橘川武郎
- 地 域 :日本
- 分 野 :国内
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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