世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2348
世界経済評論IMPACT No.2348

台湾と民主主義のための戦い:蔡総統の寄稿文は何を語るのか

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2021.11.29

 アメリカ外交問題評議会発行の『フォーリン・アフェアーズ(Foreign Affairs)』誌(2021年11・12月号)に,蔡英文総統は「台湾と民主主義のための戦い:国際秩序の変化における善のパワー(Taiwan and the Fight for Democracy A Force for Good in the Changing International Order,同誌の日本語版のタイトルは「国際社会における台湾の役割:『権威主義 VS.民主主義』モデル競争のなかで」)を寄稿した。以下はその内容を紹介する。

 コロナ禍を経て,権威主義国家は彼らの統治方式が民主主義国家よりも21世紀のニーズに合致すると深く信じるようになった。イデオロギーの論争を引き起こし,台湾はこの争いの狭間に位置している。民主主義の影響を受けた台湾は,同時に中華文明とアジア伝統によって形成された。台湾は揺れずに聳え立ち,持続的に繁栄し,中国共産党の論調に抵抗し,中国共産党が地域に覇を唱える野心を阻止している。

 台湾は国際組織に加盟できていない障害を抱えるが(注:中国が台湾の国際組織への加盟を拒否),責任を負う利害関係者として志を立てている。台湾の政権担当者の努力によって,多くの国家から新たな評価が得られ,新しいイデオロギー論争の最前線に立ち,自由民主主義の価値観を訴えている。世界各国が中国共産党からの脅威を次第に認識するようになり,台湾と協力することの価値を理解するようになった。仮に台湾が中国の手に陥った場合,それは地域の平和と民主主義国家の連携に重大な災難を与えることを覚えておくべきだ。それは今日のイデオロギーの争いにおいて,民主主義が権威主義に負けたことを示す意味するからだ。

インド太平洋地域の将来

 インド太平洋は成長の最も速い地域であり,21世紀の多くの事情を形成している。インド太平洋地域の勃興は貿易,製造,研究など様々な領域において,多くのチャンスを提供したが,しかし,新しい緊張と体制矛盾も伴うようになった。もしこれへの対応が不適切の場合,世界経済と安全保障に重大な影響を及ぼす可能性がある。すなわち,第2次世界大戦の終結後,自由民主国家が構築した秩序に対し,さらに積極的で野心に溢れた権威主義が台頭してくることだ。

 北京当局は台湾に対する野心を放棄していない。中国の軍事支出は持続的に2桁増であり,台湾海峡および周辺海域で軍事的な拡張を行っていて,平和的な解決をより攻撃的な姿勢へと置きかえている。2020年以降,人民解放軍の航空機と艦船が台湾海峡での活動を活発化し,殆ど毎日のように台湾西南部の防空識別区(ADIZ)に侵入し,時には台湾海峡の中間線を越えてくる。これらの動きは日本周辺の島嶼部の東北方向から西南に伸びて香港に至っている(注:根拠のない「九段線」を自国の海域と主張している)。

 こうした憂慮される情勢を受け,台湾の人民は全世界に対し民主主義国家は絶対に妥協しないと宣言した。そして,人民解放軍の航空機が毎日のように侵入する情況下でも,「抑圧には決して屈服しない。しかし仮に国際社会から支持が得られたとしても無謀な行為にはかかわらない」という台湾の両岸関係に対する立場を堅持している。すなわち,地域の安全の維持は,台湾の重要政策であるということだ。2016年以降,台湾政府はいかなる前提条件もなしで,北京当局と対話を行う用意があることを再三述べている。同時に,誤解から来る誤った判断の可能性を減少させるため,台湾も北京当局を理解するために相当の資源を投じ,両岸政策にあたっている。外敵からの脅威を,チャンスと捉えて,挑戦して行くことを期待している。

 同時に,台湾は協力者と連携し,中期の安定を確保する。3月に台湾とアメリカが「沿岸警備ワーキンググループの設置に関する覚書」を締結した。このワーキンググループはアメリカ沿岸警備隊と台湾の海洋委員会海巡署(日本の海上保安庁に相当)の双方の意思疎通の向上や協力関係の構築,情報の共有などを行う。

 台湾軍の近代化と組織改造を行い,現在と将来に対応できる体制を構築する。戦闘機などの伝統的な戦力のほかに,移動式の陸上ベースの対艦巡航ミサイル(Surface-to-Ship Missile)を含む非対称戦力に多くの投資をしてきた。2022年には「国防部全民防衛動員署」を設立した。台湾軍の軍事動員政策の策定,監督と執行,予備役の管理と服務,動員管理情報システムに関する政策の策定と執行,軍需物資,軍事輸送と軍需工業動員政策などの策定と監督などがその機能に含まれる。

 台湾は地域の安全保障に周辺国家と協力し,東シナ海,南シナ海および台湾海峡で軍事的暴走,衝突の防止に尽力している。台湾の北は日本から南はボルネオ島に至るまでの第一列島線の中間点に位置し,この海上防衛線が武力で破壊された場合,国際貿易にダメージを与え,西太平洋の安定が破壊される。台湾が陥落した場合,単に台湾人民の大きな災禍だけでなく,70数年来得られた平和の維持,卓越な経済発展の安全な仕組みが崩壊することを意味している。

台湾は軍事的な対抗を求めず,周辺国家と平和,安定,予測できる互恵の原則をもって共存を希望している。しかし,台湾の民主主義と生活方式に脅威を受けた場合,私たちは全力を尽くして自らを防衛する。

台湾モデル:民主主義への転換

 台湾の歴史は苦難の中でも成果を上げられた。これらの歴史を創造したのは台湾の人民である。過去数十年来,台湾は逆境と国際社会での孤立を克服し,近代政治史の中で民主主義国家へ転換した最も成功したケースの一つである。そのキーポイントは台湾人民の忍耐,機智,実務能力,諦めることへの拒否である。台湾は微妙な地域パワーバランスの中で,支持を得る必要があることを知っている。実務的な協力が野心的に振舞うことよりも良いことを知っている。そして,支援することが,他の異なった制度を中傷するよりも良いことを知っている。

 台湾の人民は民主主義国家を選択し,台湾の未来は台湾の人民が民主的な方式で決定することを固く信じている。台湾の人民は台湾の未来に対し考え方は常に同じではないが,しかし,台湾の人民は団結し,民主主義の価値と制度を固く守り,台湾人のアイデンティティを破壊しようとする,台湾人の貴重な生活方式を変化させようとする外部勢力には団結して対抗する。

善のパワー

 権威主義政権の脅威を受け,台湾は世界の民主主義に警鐘を鳴らすようになった。台湾の国土面積は大きくないが,台湾は世界の中で無視できない非常に重要な存在となった。外来の脅威に直面しても台湾は動揺を見せず,インド太平洋地域において不可欠の存在となった。台湾の人民は民主主義に対する信認は岩石のように固く,台湾の人民は,民主主義は永久で唯一の道であることを熟知している。

 最後に,台湾は挑戦を厭わない。世界情勢は厳しいが,これは台湾に未遭遇のチャンスを与えた。台湾は,民主主義と権威主義との貿易など経済交流を維持し,民主主義の価値と理念を権威主義との間のバランスを保つことができる,解決策を見つけている。長期間に渡り台湾は冷遇されてきたが,今,台湾は世界における善の力(パワー)になり,国際舞台でその能力に相応しい役割を果たすための準備が整っている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2348.html)

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