世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2314
世界経済評論IMPACT No.2314

新電源ミックスがもたらす産業縮小の危険性

橘川武郎

(国際大学 副学長・大学院国際経営学研究科 教授)

2021.10.11

 今年8月4日の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会(以下,「基本政策分科会」と表記)で素案が承認された第6次エネルギー基本計画。そこに盛り込まれた2030年度の電源構成見通し(電源ミックス)では,再生エネルギー36~38%,原子力20~22%という,いずれも実現不可能な高い数値が打ち出された。

 これらは比率であるから,分子と分母から構成される。しかし,分子の積み上げは困難をきわめた。

 再エネについては,なんとか30%分までは目算がたっていた。問題はさらに6~8ポイント分を積み増すことであり,8月4日の基本政策分科会の時点でもその目処は立っていなかった。だから,提示された素案には再エネ電源の具体的内訳が書かれていなかったのであり,にもかかわらず素案の取り扱いを「座長一任」としたことは,いかにも乱暴な議事運営であった。

 一方,原子力についてみれば,基本政策分科会の事務局をつとめた資源エネルギー庁(以下,「エネ庁」と表記)は,30年に27基の原子炉が80%の稼働率で動けば「30年20~22%」の達成は可能であると主張した。しかし,同じエネ庁は,18年に第5次エネルギー基本計画を策定した際には,「30年20~22%」の実現のためには,30基の原子炉が80%の稼働率で動くことが必要だとしていた。つまり,いつのまにか原子力比率の分子は,30基相当分から27基相当分へ,1割ほど削減されたことになる。

 分子の積み上げに窮したエネ庁は,帳尻合わせのために,分母を削減するという「奥の手」を繰り出した。30年度の年間総発電電力量を第5次エネルギー基本計画の1兆650億kWhから9300~9400億kWhへ,12~13%減らすという策を弄したのである。

 分母を1割強削減した結果,分子の積み上げがうまくゆかなくとも,比率は何とかつじつまが合うことになった。「30年再エネ36~38%」を掲げることもできたし,分子が1割減ったにもかかわらず分母も1割強縮小したため,「原子力20~22%」を維持することも可能になった。

 ただし,ここで,想起すべき事実がある。それは,昨年12月21日の基本政策分科会でエネ庁が50年度の電源構成見通しについて再エネ50~60%,水素・アンモニア火力10%,CCU(二酸化炭素回収・貯留)付き火力プラス原子力30~40%という参考値を提示した際,50年度の総発電電力量を1兆3000億kWh~1兆5000億kWhとし,現状より3~5割増えると見込んだことである。これを受けて,今年5月13日の基本政策分科会でこの参考値にもとづくモデル分析の結果を発表したRITE(地球環境産業技術研究機構)は,50年度の総発電量が1兆3500億kWhになるとの見通しを示した。つまり,エネ庁は,電化の進展によって50年度には総発電電力量が現状より3~5割増加するという認識をもちながら,そこまでの中間点である30年度については総発電電力量が1割強減少するという,矛盾に満ちた未来図を描いたことになる。この矛盾が,30年度の電源ミックス策定時の「分母減らし」という,無理な帳尻合わせによってもたらされたことは,言うまでもない。

 エネ庁は,無理な「分母減らし」である総発電電力量削減を合理化するために,「省エネの深掘り」という理屈を持ち出した。確かに,8月4日の基本政策分科会で配布された参考資料によれば,深掘りの結果,多くの産業で30年へ向けての省エネ量の見通しは増えた。しかし,最大の二酸化炭素排出産業である鉄鋼業については,深掘りしたにもかかわらず,省エネ量見通しが280万klから174万kl(原油換算値)へ大幅に縮小した。これは,30年度の粗鋼生産量見通しを現行の電源ミックス策定時(15年)の1億2000万トンから9000万トンへ,25%も引き下げたからである。同様のケースは,30年度の生産量見通しを2700万トンから2200万トンへ19%縮小した紙・板紙製造業についても,観察される。つまり,今回の帳尻合わせのための総発電電力量削減のプロセスでエネ庁は,「省エネの深掘り」を超えて,「産業縮小シナリオ」に踏み込んだことになる。

 このことのもつ意味は重大である。これまでも,いわゆる「環境派」のなかには,「産業を縮小してでも二酸化炭素排出量を削減すべきだ」と主張する者がいた。このような意見に対して,経済産業省ないしエネ庁は,それは本末転倒であると強く反論してきた。この反論は的確なものであると評価できるが,今回の帳尻合わせのプロセスでは,エネ庁自身が「産業縮小シナリオ」に踏み込んでしまったのである。

 もちろん,30年度のエチレン生産量見通しのように,現行の電源ミックス策定時の水準(570万トン)を維持したケースもあるから,今のところ,エネ庁による「産業縮小シナリオ」への踏み込みは部分的なものにとどまっている。しかし,第6次エネルギー基本計画素案に盛り込まれた30年度の電源ミックスが,産業縮小のきっかけとなる危険性は十分に存在する。今後,「産業縮小シナリオ」が広がっていくことがないよう,我われは監視の眼を強めなければならない。

 それにしても,つくづく思うのは,第6次エネルギー基本計画素案に30年度の電源ミックスを盛り込む必要はなかったという点である。計画経済をとる社会主義国ではない日本であえて電源ミックスを作成する理由は,電源開発は大規模投資となるため,長期にわたる電源構成見通しがないと企業が投資の意思決定をしにくいという点に求めることができる。しかし,30年はわずか8年半後のことである。今さら,電源ミックスを作ったとしても,それを見て新たな大規模電源投資を決定するような企業などあるはずがない。第6次エネルギー基本計画素案には,30年度に関して,無理して作った電源ミックスなどではなく,洋上風力・水素・アンモニア・メタネーションなどの導入規模や価格低減目標などを数値化した新しいKPI(重要業績評価指標)を盛り込むべきだったのではあるまいか。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2314.html)

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