世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
新しい競争優位の考え方
(常磐大学 准教授)
2021.09.06
本稿では,現代の企業の競争優位について,市場(顧客)すなわちマーケティング戦略の視点から捉え直すことを試みる。ここでは,競争優位を,簡潔に,差別化を行うことと考え,基本的にはモノ(製品)を提供する企業を前提とする。また,企業活動を,インプット→プロセス→アウトプットという流れで考える。具体的には,開発→生産→販売という流れのことである。
現代は,インターネット時代,ソーシャルメディア時代と呼ばれている。その根幹には,モバイル端末(スマートフォン等)とセンサー(GPS等),そしてインターネットのブロードバンド化等の情報通信技術の発展がある。情報通信技術の発展を背景に,情報が全世界に瞬時に拡散されるようになり,限界費用がほぼゼロで,情報そのもののコピーは容易であり,情報の遍在化によって,アウトプットとしてのモノの差別化をも困難にさせることになっている(このことをコモディティ化と呼ぶ)。そういった中で,「ユーザーイノベーション」,「プロセスエコノミー」,「サブスクリプション」といった新しい競争優位構築の考え方が登場している。それでは,それら新しい競争優位について,企業活動を考慮し,考察してみよう。
ユーザーイノベーションとは,顧客が,自らのニーズを製品開発に反映させるため,アイデア創出の段階から新製品開発に直接関わることである。具体的には,先駆的に創意工夫を行うリードユーザーの意見を取り入れるリードユーザー法がある。さらに,インターネット上でアイデアコンテストを行い,そのアイデアを基に開発を行う,アイデアを群衆から調達するクラウドソーシング法というやり方もある。この例として,無印良品のIDEA PARKが挙げられる。ユーザーイノベーションは,企業活動のインプットというところで,顧客と関わりを深め,価値を生み出し,差別化を行うことといえる。
プロセスエコノミーとは,プロセス(生産過程)そのものをビジネスとすることであり,顧客にプロセスを経験させ,プロセスそのものを価値あるものとする。この代表的な例として,エンターテイメント業界の,BTSの所属事務所であるBIGHIT MUSICやジャニーズ事務所が挙げられる(尾原和啓『プロセスエコノミー』幻冬舎,2021年)。音楽等の成果物としての製品そのものに囚われず,アーティストの活動を応援するというプロセスで,ファンの関与度を高め,関わりによって価値を生み出し,プロセスそのものが利益を生み出すことにつながっていると考える。例えば,音楽CDを販売することで利益を得るのではなく,音楽の制作プロセスをオンライン配信し,それに投げ銭をしてもらい利益を得るということである。プロセスエコノミーは,企業活動のプロセスというところで,顧客と関わりを深め,価値を生み出し,差別化を行うことといえる。
サブスクリプションとは,一定間隔で継続的に利用者から料金を受け取る,継続課金ビジネスのことである。これは,顧客に,製品を販売し所有してもらうというものではなく,ある期間利用してもらうサービスを提供することといえる。このことは,購入後の使用や経験によってこそ,価値が生まれ,ここで差別化を行っていく,サービス化のことを意味している。サービスは,企業と顧客との相互作用によって,共に創りあげていくものである。Apple MusicやAmazon Primeといった音楽・動画配信のものから,現在では,トヨタ自動車のKINTOのように,日本の製造業を代表する自動車業界にもサブスクリプションが導入されている。サブスクリプションは,企業活動のアウトプットというところで,顧客と関わりを深め,価値を生み出し,差別化を行うことといえる。
ユーザーイノベーション,プロセスエコノミー,サブスクリプションといった新しい競争優位構築の考え方に共通しているのは,価値共創ということである。これまでの企業が価値を決めるというものから,顧客といかに関わり,価値は顧客と共に創るというものに変化してきている。このことは,顧客とのコミュニティをいかに構築するのかということが課題となり,企業側に,活動等いかにオープンにすることができるのか,さらに,情報通信技術を活用し,顧客との接続を,容易なものとし,デジタル化する,デジタルトランスフォーメーション(DX)につなげていくことができるのかということが問われているといえる。
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村中 均
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