世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
台湾有事!中国人民解放軍の台湾港湾侵略計画:米プロジェクト2049研究所の報告書は何を語るのか
(九州産業大学 名誉教授)
2021.08.30
「台湾有事」は2027年に発生するのか?
8月1日は中国人民解放軍(以下,解放軍)の「建軍節」(1927年の同日,南昌蜂起を機に人民解放軍が創設されたことを記念する節日)である。この日,習近平国家主席は「2027年百年強軍夢」をテーマに談話を発表した。「2027年」とは解放軍の100年目の節日にあたる。その概要は次のようである。
改革開放後,中国共産党は「三歩走」(三段階発展)戦略目標を掲げた。そして,2021年に人民の衣食の問題を解決し,人民の生活を全体として小康(ややゆとりのある)水準に到達させるという2つの目標を前倒しで実現したとし,さらに「2つの百年」奮闘目標を発表した。2020年に基本的に機械化,情報化で大きな進展を得て,2035年に国防,軍隊近代化を達成,2049年には解放軍が世界一流の軍隊を構築するという。その目標は2027年に前倒しで達成できるという。この談話の内容は,台湾に対する武力統一を当初の2049年から2027年に繰り上げて実現するのか,と関係者から注目を浴びるようになった。
近年,日米両国の首脳が主張する「台湾海峡の平和と安定」という基本原則は,中国からの挑戦を受けるようになり,台湾海峡のリスクが高まるようになった。今年3月9日,前・米インド太平洋軍司令官フィリップ・デービッドソン(Philip Davidson)海軍大将は,上院軍事委員会で上院議員からの質疑に対し,次のことを述べた。中国はアメリカの最大の戦略的脅威であり,しかもアメリカの国際地位を加速的に置き換えているという。同時に,解放軍は6年以内に,台湾に侵攻する脅威の恐れが発生すると証言した。
また4月30日,米インド太平洋軍司令官ジョン・アキリーノ(Admiral John C. Aquilino)海軍大将は就任式で演説し,中国を念頭に「インド太平洋地域でのルールに基づく国際秩序は挑戦を受けている」と指摘した。さらに,「インド太平洋軍は大国間競争に必要な抑止力を提供し,有事の際は即応して勝利する」と強調した。米軍は中国が「6年以内」に台湾に軍事侵攻する可能性があるとの見方を示し,日本政府も自衛隊活動に関わる法運用の本格的な検討に入っている。3月の上院軍事委員会での指名公聴会で,アキリーノは中国による台湾への軍事侵略の可能性が「最大の懸念」だと指摘し,日本など同盟・友好国と連携してけん制する必要があると訴えた。この「6年以内」の指摘は,習近平の「2027年百年強軍夢」の時期が一致している。
イアン・イーストンの報告書「台湾の港湾と解放軍の侵攻計画」
『中国の侵略の脅威:アジアにおける台湾の防衛とアメリカの戦略』(The Chinese Invasion Threat: Taiwan’s Defense and American Strategy in Asia, Eastbridge Books, 2019)の著者イアン・イーストン(Ian Easton)は,この大著で中国の台湾侵攻戦略を詳しく論じた。
台湾の国家安全保障上,中国は最大の仮想敵である。台・中の双方は宣戦せず,戦争状態ではないが,しかし,習近平の談話内容から台湾への軍事進攻戦略の“野心”は至るところから観察することができる。米インド太平洋軍司令官のデービッドソンやアキリーノも公の場で「6年以内に台湾有事」が発生するという警告を発している。仮に「台湾有事」による戦争が避けられない場合,この戦争はどんな状態で発生するのか,台湾はどのように防衛するのか,強敵を如何にして撃退するのか,台湾海峡の平和と繁栄を支持する人々にとっては憂慮の話題である。
7月22日に公開された米シンクタンク「プロジェクト2049研究所」(Project 2049 Institute)の研究員イアン・イーストンの近著「敵対的な港:台湾の港湾と中国解放軍の侵略計画」(Hostile Harbors: Taiwan’s Ports and PLA Invasion Plans)は前著に続いて,台湾への水陸両用作戦の可能性を考え,「1000カ所への爆撃目標,14カ所の上陸地点,1年に2回の台湾侵攻の時機」の考えに沿って,解放軍の関心が台湾の港湾へ注がれていることを論じた。
35ページに及ぶ報告書で著者のイーストンは「水陸両用作戦」は難易度が高いが,依然として解放軍の最後の選択肢であると主張する。空襲や空港・港湾の封鎖だけの手段では,台湾当局は降参しない。解放軍は,多くの戦艦を出動させる可能性が高いと指摘した。輸送の視点から見ると,港湾からの上陸侵略は,海浜の上陸よりも効果が高い。解放軍が台湾の港湾設備を侵略作戦のターゲットに使うかは,この報告書の核心的なテーマである。
ノルマンディー上陸作戦と沖縄戦との比較
20世紀では2つの重要な水陸両用作戦があった。すなわち,ノルマンディー上陸作戦と沖縄戦である。いずれも港湾を上陸の目標にしていない。ノルマンディー上陸作戦は,フランス農村の50万マイルの平坦な浜辺で行われ,沿岸の民間人は既に避難された。沖縄は面積が1206平方キロの人口はわずか30万人の小さな島である。この2つの上陸作戦の防衛側(独,日)の戦力は,攻撃側の戦力に対して遥かに不足であった。
台湾は地形が極めて険しく,高度に都市化された国家であり,台湾島の面積は沖縄の面積よりも遥かに大きく,人口も密集している。ノルマンディーや沖縄と異なる点は,台湾沿岸の防御がしやすく,台湾島ではわずか14の小さな海浜が上陸に適し,これらの海浜は都会と接続している。台北周辺の林口海浜を例とすると,近くには観音山,林口台地と陽明山があり,鉄筋コンクリート造の建築物が周辺に分布している。台湾は常に台風や地震の襲来を受けているため,これら建物と橋梁は激しい振動に耐えることができる。
イーストンによると,台湾の防御能力は当時のノルマンディーや沖縄のそれよりも高く,戦時に台湾は45万人の兵力(常備軍人は約19万人)を動員することができる。攻防の双方には弾道ミサイルを擁し,数百キロ以外から精確に海上や陸上の目標を殲滅することができ,双方はネット戦争,電子戦争の装備,スマート水雷,無人航空機(ドローン),超高速ミサイルなどを含む,実際に運用したことがない最先端兵器を持ち,相手側の経済力を削減させる能力を持っている。また,大量の住民が相手側の領土に住み,その中には破壊者やスパイなどが含まれている。双方は大規模殺人兵器の使用是非の選択に直面するようになる。これらの不確定要因によって,台湾海峡の戦争が予測不能のものになっている。
一方,イーストンは上陸戦争の前に特殊部隊によって,台湾の総統が暗殺された場合や拘束された場合,台湾の武力抵抗は直ちに瓦解され,解放軍はわずか30万~40万人の兵士の上陸で済むという。しかし,台湾の総統が第一波の空襲や暗殺行動で生き残ることができる場合,有効的に防御戦力を動員すると,通常,侵攻側は防御側の3~5倍の兵力の投入が必要のため,台湾では45万人の兵力を持つので,解放軍が台湾に派遣する部隊は約225万人が必要になる。
ちなみに,マンディー上陸の時には約5万人のドイツ兵士が防衛していた。一方,連合国軍側は6000艘以上の軍艦,1000機に達する戦闘機,D-Dayには約15万5000人の兵士と空挺部隊を動員した。その年のD-Dayである6月6日から8月末までに連合国軍側は200万人の兵士を投入した。また,沖縄戦の上陸時に50万人の米軍兵士を投入していた。
数百万人の兵士,大量の戦車,大砲,ミサイルなどの軍備と燃料,それに1万艘以上の大型艦船による運搬,護衛,侵攻などが必要のため,軍艦のほかに,民間船舶会社から2000艘の貨物船,65万艘の商用船舶を徴用する必要があり,重要な戦時資源になる。莫大な輸送のニーズに対し,強い後方支援と輸送能力による支持がない場合,この水陸両用作戦は直ちに失敗の結果を迎えることになる。台湾侵略計画の成否は,水陸両用作戦部隊が台湾の大型港湾をコントロールできるかによって決めると,イーストンは指摘した。
解放軍の内部研究によると,台湾の海浜上陸や空港の空挺作戦は,上陸作戦の補助的作戦に過ぎず,台湾侵攻の核心は台湾の港湾に置いている。その理由は,大型港湾だけが数十万人の部隊の上陸と大型戦車などの軍備・設備の大量な投入ができるからである。これらの部隊は第2波の正規部隊である。解放軍側の視点からみると,海浜上陸,空挺作戦は水陸両用作戦の第1波部隊であり,これらの少数部隊で戦果を決める決定にはならないという。
解放軍の6つの台湾港湾侵攻戦略
解放軍は6つの港湾侵攻戦略を提起した。(1)直接水陸両用作戦,(2)間接水陸両用作戦,(3)海空突撃,(4)空中攻撃,(5)横方向攻撃,(6)特殊部隊の浸透などがあり,紙幅の関係でここでは詳細を論じない。
台湾政府はさらに多くの措置で港湾を防衛し,国家安全の面で中国がコントロールした貿易代理店を閉鎖する必要があり(2018年7月,中国遠洋運輸集団(COSCO)が高雄港高明埠頭の主な株式を入手),解放軍と関係する港湾のインフラ設備(中国製クレーンなどの監視カメラから埠頭のデータを中国に送信)を交換することが必要であると,イーストンは主張する。上陸作戦の最適場所は台中港で,次の上陸最適場所は高雄港,麦寮港,台北港と台南安平港である。軍港のある左営港,基隆港,蘇澳港は解放軍の空襲目標であるとイーストンは指摘する。
また,港湾防衛の軍事準備と戦備の強化を行い,より多くの戦車,ミサイルと水雷の配置を強化する。規模をより大きく,都市戦争に精通する精鋭部隊を構築すること。後備役の戦力に対し,もっと徹底した改革を行い,直ちに動員できる数十万人の兵士に訓練を与え,士気高揚の後備役戦力を確保することが提起された。
今日,北京は台湾に対し,非致命的な手段での脅迫や圧力を加えている。米台関係は依然として,台・中双方の指導者が政策決定する際の最も重要な戦略変数である。台湾は自身の努力のほかに,アメリカから海兵隊や特殊部隊を台湾に受け入れ,長期にわたり台湾の軍事側と港湾の防御訓練を行い(事実上,台湾の「漢光軍事演習」にアメリカが専門家を派遣し,指導を行っている),さらに,アメリカ国防総省の上層部から台湾に現地考察を行い,台湾の国防官僚と互いに交流を行い,台湾の抑止力と港湾の安全の向上に,役割を果たす必要があると指摘している。
過去の外交において,台湾を孤立させたアメリカの政策を大きく変更するように,イーストンは呼び掛けている。「事実上,国際的に重要性を持つ独立国家」という新しい視点で,台湾に直視する必要がある。また,間違ったメッセージを示さないように,北京側に対し抑止力を行使できる力を示す必要があると,イーストンは強調している。
この報告書でイーストンは日米の「台湾有事」の対応について,論じていないが,当然,駐日米軍の台湾救援や自衛隊による後方支援など,今から緊急的に対応する課題を行う必要があると考えられる。
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