世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2250
世界経済評論IMPACT No.2250

最も信頼度が高い日本:ASEAN有識者調査

石川幸一

(亜細亜大学 特別研究員)

2021.08.09

 ASEANの有識者調査2021年版(注1)によると,日本の信頼度は3年続けて最も高かった。日本をグローバルな平和,安全,繁栄とガバナンスに貢献するために正しいことを行う国であると信頼するかという質問に対し,信頼するとする回答は,2019年65.9%,2020年61.2%,2021年は67.1%で主要国の中で最も多かった。信頼しないという回答は,2019年17.0%,2020年21.3%,2021年16.5%で最も少なかった。

 日本を信頼する理由は,日本は国際法を尊重し遵守する責任あるステークホルダーであるが51.6%でもっと多く,日本はグローバルなリーダーシップを発揮する経済力と政治的意思を持っているが23.6%となっている。

 米中の戦略的対立による不確実性に対してヘッジするためのパートナーとして最も好ましく信頼できる国はどこかという質問については,EUが40.8%で最も多かったが,日本という回答は39.3%でほとんど差はない。日本という回答がEUより多かったのは,ミャンマー(62.8%),ベトナム(44.6%)である。米国が信頼できないのであれば,最も好ましい戦略的パートナーはどこの国かについては,日本が36.9%でもっと多くEUが19.3%で第2位,中国が18.9%で3位となっている。

最も人気のある訪問先は日本

 大学の奨学金を提供された場合留学したい(子供を留学させたい)国として日本を選ぶ回答は12.4%とEUの13.0%,豪州の12.3%とほぼ同じである。国別にみると,留学先として日本が最多だったのはミャンマー(32.1%)とラオス(25.0%)である。ラオスは中国との政治経済関係が緊密だが,中国を留学先として選ぶという回答は5%だった。同じく親中国家のカンボジアでも中国という回答3.8%に対し日本は15.4%とはるかに多かった。休日に最も訪問したい国については,日本は30.2%で最大であり,EUは23.3%で第2位,ASEAN加盟国が12.2%で第3位だった。国別にみると,日本という回答が非常に多かったのはタイ40.5%,フィリピン38.8%,シンガポール36.1%などであり,コロナ収束後の訪日観光に期待が持てる結果となっている。

高い信頼度は日本の資産

 日本を東南アジアで最も経済的影響力のある国という回答は4.4%に過ぎないが,信頼度では圧倒的に高く,米中対立の中での好ましく信頼できるパートナーとしてもEUと並んで日本という回答が多い。経済的に最も影響力があるとみなされながら信頼度が最低の中国と日本に対する評価は対照的である。日本に対する信頼度の高さは,日本の極めて重要な資産であり,1977年の福田ドクトリン(注2)以降の日本の外交,経済協力,民間企業などの経済交流の蓄積の賜物である。また,留学や訪問先としての日本の人気の高さは日本のソフトパワーを示すものである。

 一方,グローバルな自由貿易を擁護するためにリーダーシップを発揮する国として最も信頼する国としては,米国が22.5%で最も多く,EUが22.2%,ASEANが20.6%で,日本は15.4%だった。2020年の調査では,日本が27.6%で最多であり,EUが25.5%,米国は14.5%,中国が14.5%だった。米国が2021年で第1位となったのは,バイデン効果と説明されている。RCEPが署名された時期に行われた調査で日本という回答が減少したことについてはとくに説明はされていない。

[注]
  • (1)Seah, S. et al., “The State of Southeast Asia: 2021", ASEAN Studies Centre, ISEAS-Yusuf Ishak Institute, Singapore. 16 February 2021. シンガポールの東南アジア研究所(ISEAS)がASEAN10か国で実施し1,032名が参加した。
  • (2)福田赳夫首相(当時)がマニラで行った演説で明らかにした東南アジア外交の基本であり,①軍事大国にならず東南アジアと世界の平和と繁栄に貢献,②政治・経済だけでなく社会文化などの分野で心と心のふれあう信頼関係を築く,③対等な協力者としてASEANの自主努力を支援する,という3つの柱からなる。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2250.html)

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