世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2232
世界経済評論IMPACT No.2232

アフターコロナの地域のバリューチェーンを考える

村中 均

(常磐大学 准教授)

2021.07.19

 旧稿(7月12日付参照)において,地方創生の取り組みによって,地域の生産(付加価値)と分配(所得)と支出(消費と投資等)の三面等価を成立させ,当該地域を自立的なものとして成り立たせなければならないということを指摘した。本稿では,まず,そのことについて,地域のバリューチェーン(価値連鎖)という観点から説明を行い,さらに,アフターコロナの地域のバリューチェーンの在り様について論じていくこととする。

 まず,バリューチェーンを,価値創造の流れであり,川上から川下にかけて,購買(原材料)→生産(加工)→流通・販売という活動から成り,活動間では取引が行われるものと考える。バリューチェーンには,本来,全般管理や人事管理といった支援活動もあるが,議論を単純にするために,先の3つの活動で考えることとする。ここで,地域の価値創造の連鎖,すなわち地域のバリューチェーンを考えてみると,その統合度が高いということは,地域でそれらの活動の連携が図られているということである。地域内で,原材料(第1次産業)そして加工(第2次産業)さらに流通・販売(第3次産業)までを一体化させる6次産業化も,その例である。活動の連携の進展は,地域経済の循環につながり,生産と分配と支出の三面等価を成り立たせていくことにつながっている。

 付加価値という観点からすれば,当該地域の支出の面で,他地域への移輸出と移輸入の差額を表す域際収支という視点が重要である。域際収支の向上には,移輸出の増加と移輸入の減少が肝要となり,地域のバリューチェーンの統合度を高め,価値創造を向上させることは域際収支の向上にもつながることになる。因みに,域際収支と1人当たり域内総生産すなわち生産性との関係には,正の相関があると指摘されてきている。

 次に,上記のことを前提に,アフターコロナの地域のバリューチェーンについて,いくつかの業種を例に挙げて,論じてみたい。内閣府,農林水産省,日本政府観光局の資料によると,例えば,訪日外国人旅行者数は,2014年の1,341万人から2019年には3,188万人に増加し,農林水産物・食品の輸出額は,2014年の6,117億円から2019年に9,121億円に増加した。そして,新型コロナウイルス感染症の影響で,2020年の訪日外国人旅行者数は,412万人に減少し,2020年の農林水産物・食品の輸出額は,巣籠り消費の拡大を背景に9,223億円と増加した。農林水産物・食品のさらなる輸出額の増加のため(増産するため)に,農林水産業のバリューチェーンの連携体制の整備は重要となろう。また,海外からのインバウンド観光も含む,観光客を現地に集客するいわゆる着地型観光は,地域の移輸出のことであり,アフターコロナの観光を見据えて,厳しい状況にある現在を,新たな価値創造の機会として捉え,地域自らで,製品・サービスを開発し,農林水産業,商工業さらに行政等の関係者が連携するDMO(観光地域づくり法人)を中心に観光業の連携体制を整備しておくことは,重要であるといえる。この際,顧客側のオンライン(バーチャル)とオフライン(リアル)の経験融合の構築も課題となろう。現地をオンラインでバーチャル経験し,リアルの訪問を楽しむというような形態が,アフターコロナの観光で生まれる可能性はある。

 新型コロナウイルス感染症の影響で一気に普及したテレワークによって,人々の拠点性や働き方についての考え方が大きく変化している。2020年度開始の第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略で焦点を当てられている関係人口も,アフターコロナの地域のバリューチェーンを考える際に重要となる。地域と関係を持つ関係人口を経済的機能という視点から捉えれば,強い関係性のある関係人口は,地域外で当該地域に関わるビジネスを行う人材ということになる。情報通信技術の発展によって,コミュニケーションコストが大幅に低下し,そのことで,地域を越えた,人単位の分業が可能となっている。価値創造の観点から関係人口を捉えてみると,バリューチェーンさらにいえばタスクの一部を地域外で担い,価値創造の向上や拡大に資する人材ということになる。この人材は,移住する可能性もあり,移住した際には地域内でのバリューチェーンの統合に資することになる。

 以上のことから,アフターコロナには,地域内外という複線型のバリューチェーンの構築が課題となる。すなわち,デュアル・バリューチェーンの構築が地域にとって肝要となるということである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2232.html)

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