世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2231
世界経済評論IMPACT No.2231

懸念する「熱海土石流」型災害の増加:必要な人口減少社会に適した開発規制への転換を

戸所 隆

(事業創造大学院大学 特任教授・元(公社)日本地理学会 会長)

2021.07.19

原因は不適切盛り土と豪雨だけか

 静岡県熱海市で2021年7月3日に発生した土石流は,7月13日現在で死者10人,安否不明者17人,避難生活者約600人の大災害となった。これまでの研究者議論や報道によれば,従前に多くみられた斜面崩壊などによる土石流災害でなく,山中の谷を大量の工事残土などで埋めた盛り土約5.4万㎥が崩落流失したものである。

 崩落の直接的原因は,報道のように盛り土への産廃等混入・水抜き不備・届け出超過盛り土量など不適切工事であり,熱海市過去最大72時間降雨量の1.3倍となる550mmの大量降雨といえよう。しかし,日本の国土開発をみたとき,これを熱海の特殊事例といえない。また,目に見える計量可能な盛り土と大雨以外にも崩落原因はないだろうか。

 熱海では土石流最上流部崩落面の数カ所から噴き出す水が観察できた。詳細な原因究明は専門家の調査・検証に委ねるが,表流水のみならず地下水も崩落原因と考えられよう。地下水の水みちは複雑で表流水と必ずしも同じでない。崩落地近くには宅地開発や大型太陽光発電所開発地がある。森林が裸地に改変された影響もあるのでないか。

懸念される太陽光発電所など大規模山地開発

 国土面積に占める日本の可住地面積は27%にすぎず,73%が山地など森林原野等である。熱海土石流発生現場のような山地の迫る狭小低地に集落形成は全国至る所にある。集落から山地をみて斜面は緑地に覆われ従前と変化ないものの,山頂部の大規模開発で裸地になった地域が多くみられる。適切に開発・管理されていれば問題ないが,規制の弱い地域では不適切な造成・谷筋への残土処理の懸念を感じる場所がある。特に,太陽光発電所は住宅・工業団地のような環境整備が不要で,傾斜地・奥山など適地でないために無規制地域での開発が目立つ。そのため,「熱海土石流」型災害が今後増加することを懸念する。

 太陽光発電増強は地球温暖化防止・環境対策から重要であり,国策でもある。しかし,経済性を優先した山間部での太陽光発電所建設には,防災・土地利用上懸念されるところがある。かかる地域の下流住民は上流の山地開発やその危険性を認識しないまま,熱海と同じ災害危険性を抱えている。これまでは災害に至らなかった地域でも,近年の集中豪雨の頻発は,閾値越えの危険性を高めた。今回の災害は日本のどこでも起こりうると認識し,適切な対応を講じることが緊要の課題である。

人口減少社会に適した有効な開発規制を

 土地開発関係の研究や行政審議会に携わる中で,総合的・広域的視点からは否であろうが,縦割り規制の個別審査を積み上げた結果は可となる不合理を常々感じる。また,規制の弱い地域への開発規制強化も土地所有者などの反対が多くて難しい。

 経済効率や増益を考えると空洞化した既成市街地再開発より郊外などの新規開発が優先される。開発困難地も開発技術の向上により開発可能となってきた。しかも現在の土地利用・開発関係法の多くは,人口増加・高度経済成長時代に創られたため,かかる地域の開発も促進してしまう。このままでは今回の災害は繰り返される可能性がある。

 今日の日本は人口減少社会であり,市街地の拡大から縮小への政策転換が求められる。空洞化した既成市街地の再開発で新たな生活空間に再構築する必要がある。それには法体系を人口減少社会に適したものへと全面改定し,国土・都市・地域の開発ルールを再構築しなければならない。以上のことを中央・地方政府と国民の協力で早急に実現して欲しい。他方で,この実現には国民の危機管理・地域づくりへの総合的・広域的視点の醸成など意識改革が不可欠となる。長期展望から初等中等教育においてこの問題の理解を深め,次代を担う人材養成を図ることも重要と考える。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2231.html)

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